【ss】バンドを組む残像

「博士、今日のお題は難しそうですよ。我々には残像が残るほど早く動くこともできませんし、弾ける楽器もありません」
「大丈夫じゃ。これは量子力学的な現象にすぎん。君、不確実性定理を理解しているかな」

「ええ、位置と運動量の両方を決められないと言うアレですね」
「粒子であり、波であると言うことじゃ」
「はぁ、そうですね」
三十代の男はやや苛立っている様子だ。

「それで、それがどう関係するんですか」
「原子に対して電子が入り込める軌道が限られていてな」
「ああ、あの原子の周りに電子が回ってるアレですね」
「粒子ではないのだがな」

「で、それがどう関係するんですか」
「まだわからんか」
「ええ」

「電子は波でもあるんじゃよ、忘れたのか。雲のようにぼんやりここら辺に居そうとしかいえん。我々が観測するのは残像みたいなものじゃ。あとはバンド理論を学ぶが良い」
「なるほど。電子がエネルギーバンドを形成していると」
「まさに、バンドを組む残像じゃろ、電子は」

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