海外でポスドクをしようー滞在編(7)
海外での食事事情と自炊
食事は大事(おおごと)
海外でしばらく生活したことがある方と雑談するとき、ほぼ必ず出てくるのが「食事における苦労と心得」です。中国や東南アジアで生活する場合は、まだそこまで問題が大きくないのですが、西欧や北米で長く暮らした経験がある日本人の多くは、すんなり現地の食事になじむことができず、苦労した経験を持っています。オーストラリアで生活した筆者もその一人です。
たかが食事、されど食事。そのうち慣れるだろうと思ってやり過ごしていると、胃の調子も落ちていき、心のどこかにもストレスと不満が蓄積されてしまいます。新しい環境に適応しないといけないプレッシャーと相乗して、場合によっては食生活の不調によって心身の不調を誘発してしまう可能性だってあります。
そのため、海外に行く前からある程度の想定をしたうえで、対策も考えておく必要もあると思います。
米が恋しくてしょうがない
現代の日本人にとって、洋食はまったく珍しいものではありません。ハンバーガー、ステーキ、パスタなどのメインから、サラミ、チーズ、オリーブなどのつまみまで、欧米から伝わってきた食事はすっかり日本の食生活に溶け込んでいます。人によっては和食よりもずっと好んだりもします。だから、海外で生活したってきっとうまくやっていけると、楽観的に思う人も多くいると思います。
しかし、いざ海外に飛び出して、パンとパスタなどの小麦製品ばかりが主食になる生活を送ってみると、2週間もあれば飽きてしまいます。バターやチーズたっぷりのメインも、ベビーリーフのサラダも、塩と胡椒とトマトソースとオリーブオイルが主流の味付けも、なんだか胃を落ち着かせてくれません。
その時に初めて、米・醬油・味噌・出汁などの味がどれほど自分の骨にしみこんでいるかがわかってきます。周りを見てみると、米といっても細長いジャスミン・ライスが主流だったり、日本の食材も調味料もなかなか手に入らなかったりして、困った状況になっていることにようやく気付くこともあります。こういった状況になってはじめて、人はそれを打開するためにいろいろと動き始めます。
自炊しない道は険しい道
ではどうすればいいか?最初の答えが自炊かもしれません。
「いやいやいや、わたしに自炊なんか無理だよ。海外だって日本食レストランくらいはあるでしょう。外食でどうにかなるでしょ。」と言いたくなる人もいるでしょう。もちろん、日本食が世界的に流行している今では、たとえ小さな町でも一つや二つの日本食レストランが見つかりそうですし、移民の多い都会ではたくさんの日本食レストランが立ち並び、中には日本でも腕が立つ料理人が居るような本格的なところあります。
しかしこれでめでたく問題解決、というわけにはなりません。
まずは、日本で慣れ親しんだ味がそもそもすぐそばにあるとは限りません。たとえ大都市であっても、「Japanese Restaurant」とうたっているところが出してくれる料理がちゃんと日本の味をしているのは、むしろレアケースだと思ってください。海外でいたるところに並んでいるなんちゃってSUSHI店に並ぶ、謎の巻き寿司を思い出していただければわかりやすいかもしれません。筆者はメルボルンでとても高評価だったJAPANESE IZAKAYAに行って、大変がっかりした記憶を今でも鮮明に覚えています。
次に、本当においしい日本食は結構な金額になると思ってください。欧米社会での外食は、そもそもジャンクフードかちゃんとしたレストランかの二択になることが多く、「お手頃な値段でそれなりに満足した食事をとれる場所」は意外に少ないです。そのなかでも、日本食レストランは値段が高めなケースが多いです。レストランのステータスの問題もありますし、シェフや食材や調味料の確保の問題もあるでしょう。たまに行くならよいですが、日常の食事を済ませるには、ポスドクの給料には荷が重いです。しかも、このようなレストランは人気が高く、予約なしでふらっと入ろうとするとうまくいかないことも多いです。
そして最大の問題は不便な点です。日本でもほとんどの食事を外食で済ませている人がいますが、それは至る所に存在しているコンビニや、牛丼屋や、弁当店が提供してくれる安価な安定した品質のおいしい食事のおかげです。筆者は海外出張のたび、海外のセブンイレブンに海外版のポテトチップスといかにも堅そうなパンしか並んでいないのを見てため息をつき、日本のすべてのコンビニとスーパーの商品開発部の努力を心から称えてしまいます。
自炊だ、自炊
以上の事情を踏まえると、海外で長期生活をするときに、自分が食べて落ち着く食事を日常的にとるには、自炊する選択以外はもはや残されていないことはもうお分かりいただけたかと思います。腹をくくりましょう。Do it yourselfということです。
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