「SISU」という概念 -フィンランド人の精神-
国際連合が毎年発表するWorld Happiness Report(世界幸福度報告)による世界幸福度ランキングで、2018年から7年連続で1位の国がフィンランドです。残念ながら、日本は51位(2024年)です。
また、アカデミーヒルズのライブラリー会員である高泉光男さんは、長年フィンランドの航空会社に勤めていらっしゃいますが、メンバーズ・コミュニティの「ヨーロッパ旅行研究会」や「ブックナビクラブ」などに参加されたときにフィンランドについて、
フィンランドでは多様性という考え方が当たり前なので、誰もがそのことを特別視しません。
学費が無料なので、学び直しは特別なことではなく、Continuous learning と言われていて、以前から行われています。
"家"に対する考え方が日本とは異なっています。日本では"終の棲家"(購入する)までの賃貸は"仮の住まい"という発想で、ある程度は妥協や我慢をします。フィンランド人にとっては、賃貸の住まいだとしても、安易に妥協せず、可能な限り快適な最良の空間を求めます。
など、頻繁に日本とは大きく違っていると感じるお話をされます。
そこで、「何が日本と違うのか?」とフィンランドのことを詳しく知りたく、高泉さんにお話をじっくりと伺ってみたところ、SISU(シス)という言葉が何度も出てきました。
フィンランドの人々はSISUがあるから粘り強い、諦めない。
第二次世界大戦でソ連に攻め込まれた時に、SISUがフィンランドを救ったのだと思う。
資源もなく小さな国のフィンランドなので、他と同じことをしていては成り立たない。自分をしっかりと持っていることもSISUかもしれない。
などです。そこで、SISUとは何かについて下記の本をもとに紹介します。
高泉さんのお話に出ていた「ソ連との戦い(1939~40年の冬戦争)」についても、この本では、「クロスカントリー・スキーに熟練していたフィンラド人は、白い迷彩服を来て透明人間のようになり、急襲やゲリラ攻撃で有利に戦いを進めた。歴史家のウィリアム・R・トロッターは、フィンランド人に驚くべき成功をもたらしたのはSISU「シス」のおかげと述べている」と説明しています。
そして、この冬戦争から学べるSISUの秘密として、以下4つを挙げています。
・無難な行動はしない
・既成概念にとらわれない
・自分の主張を貫く
・諦めない
また、フィンランドでは子供時代にSISUを養うために、あえて困難に立ち向かい、克服する体験をさせるそうです。
例えば、この本の著者が4歳で初めてアイススケートを滑る時に、お母さんはリンクサイドで「Rohkeasti vaan! (さあ勇気を出して!)」と応援してくれたそうです(直接的な助けはしない)。
この表現はフィンランド人の子育ての本質を表しており、子供を明るく励まして、困難に立ち向かい克服することを体験させて「やればできる」という姿勢を育てるそうです。まさにこれがSISUの核心になります。
また、私がユニークだなと感じたのは、「不快な状況を楽しむ体験」をさせるという点です。例えば、雨の日に散歩することや、水が少し冷たくても泳ぎに連れ出すことで、不快な状況でも勇気を持って行動することが自己肯定感を強くすることに繋がります。
このように子供の頃からSISUを養うことで、日々の生活の根底にSISUが根ざすのですね。
2023年6月に高泉さんが「ヨーロッパ旅行研究会」で北欧の国々について紹介をしてくれました。
その中で、「ノキアがスマートフォンに押されて経営危機に陥った時に、『Nokia Bridge』というインキュベータープログラムを立ち上げて、起業する元従業員に最大15万ユーロの資金を出資するプログラムを開始した」というを話をしてくれていますが、そのような発想の源がSISUなのだと思いました。
SISUの精神に基づき私たちが今からでも出来る具体的なこととして、
安全地帯(コンフォート・ゾーン)から出てみる。しかし大げさに考える必要はありません。
「日常の行動を変えてみる(いつもと違うルートで出勤してみるなど)
「スモールステップ(憧れの人をすぐにデートに誘うのではなく、"こんにちは!"と挨拶から始める)」
「決断には時間をかける(ゆっくりと今ある状況を観察して自分の目で見たものを解釈する)」ことが大切だそうです。
SISUを使ったコミュニケーションをしてみる。
じっくりと相手の話を聞く。話している相手に考える時間と場所を与えることは相手を尊重することの表れになります。
慎重に言葉を選んで沈黙を大事にする。それによって誤解を生じにくくさせます。
正直であること。ビジネスの交渉においても、最初から心配事や懸念事項は全て伝えることが歓迎されるるそうです。
最後に、SISUの語源について紹介します。
SISUは胃腸のことを指しているそうです。古代から腹部が力の源であり、決断がされる場所と信じられていたことから派生したそうです。
日本語にも、「腹を決める」、「腹が据わる」、「腑に落ちる」など腹部が大切な場所である表現が沢山あり、興味深い共通点だと思いました。
幸福度世界一のフィンランドと51位の日本ですが、考え方の根底は共通するところもあります。日本人は「自己肯定感が低い」と言われますが、SISUの考えを持って自己肯定感を高めることで、幸福度が上がっていけばよいなと感じています。
アカデミーヒルズ 熊田ふみ子
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