【開催レポート】Open academia Lectures #1:荒木健太郎氏「雲研究者はなぜ、どのように、45万人に発信するのか」(2024年9月26日)
2024年9月26日、雲研究者の荒木健太郎さんをお迎えし、オンラインイベント「Open academia Lectures #1:雲研究者はなぜ、どのように、45万人に発信するのか」を実施しました。以下はそのあらましです。
研究者が自ら行う「情報発信」が今回のテーマ。荒木さんが毎日発信してくれる防災情報を参考にしたり、美しい雲の写真に魅せられている方は多いと思いますが、ご本人はどのような想いと心がけで科学コミュニケーションへ取り組んでいるのでしょうか。本レクチャーは、その舞台裏を知る貴重な機会になりました。
なぜ情報発信するのか:「軸」を持つ
「雲」という複雑な気象に着目し、防災気象情報の高度化の研究に取り組む荒木さん。いくら防災情報が高度化しても使ってもらえなければ意味がなく、そのためにはひとりひとりの科学リテラシーが重要であることに、あるとき気づいたと言います。
SNSでは平時は雲や空の話題で気象に関心を持ってもらい、災害時には分かりやすい防災情報を広く届ける「防災・減災のための雲科学コミュニケーション」を実践しています。コミュニケーションは目的ではなく手段であって、その情報発信を通してどのような未来を実現したいのかの「軸」を持つことが重要だと、本レクチャーでは強調されました。
研究者が発信するうえで大事なこと
研究者が情報発信するうえで気を付けるべきポイントが、いくつも共有されました。以下はその一例です。
自分の専門分野と社会がどのように関わっているのかを考え、一度言語化する。
自分自身のキャラクターや、経験を考慮したストーリーをつくる。これを踏まえた自分だけの「肩書き」を考えるのも効果的(例:「雲研究者」)。
応援してくれる人との関係性は対等であり、ギブアンドテイク。応援する敷居が低いことが大事。
発信が必要になるシチュエーションをあらかじめ考えて、素材を準備しておく。
自分が発信する情報を受け取る人がどう思うのかを常に想像する。投稿前に一度立ち止まる。
相手が子どもであっても、端折らない、論理的な説明をする。
誰しも気になる「これだけの量の発信や書籍執筆を、研究と両立しながらどう行っているのか?」という質問に対しては、「日中は研究をしていて書籍執筆は夜にやっている」とのこと。そのうえで、研究のために行う日々の情報収集とそれに紐づく発信を「習慣化」しているのだそうです。書籍制作は同じ志を持つ仲間と編集チームを立ち上げ、効率的に進めているそう。やはり大事なのはコミュニケーションの目的となる軸をもつこと、その目的のために自分に合った(楽しくできる!)方法を探すこと、だと言います。
若手研究者との対話
後半では「実践編」として、academist Prize 第4期で「研究ファン、1,000計画」に挑む3人の研究者(櫃割さん、土田さん、曾澤さん)との対話を通して、3人の今後の発信に関するヒントをいただきました。
研究者個人の活動に加えて自分の分野でのおもしろい動向をエビデンスともに発信してみる
災害情報など、必要とされる情報を必要とされるフェーズごとに準備すると価値ある発信ができる
平時においても過去の事象の「○○周年」など発信ができるタイミングがある
情報が流れていくSNSでは大事なことは何度発信してもいい
といった、数々の実践的なアドバイスがありました。
終わりに
参加者からの事後アンケートでは、「自分が楽しむことが大事、というのは心からそう思う」「フォロワーの先には顔があるというコメントに深く共感した」「ミッションを掲げて専門分野から社会にアプローチしてゆく姿勢をお手本にしたい」「普段聞けない荒木さんのお話が聞けて良かった」「防災に対して強い信念をお持ちで、それを広めるために平時から発信されていることを知ることができてよかった」といった感想が寄せられました。
自ら「防災・減災のための雲科学コミュニケーション」を日々実践しつつ、その実践をこれほどまでに客観的に体系化・言語化されていることに強い感銘を受けました。荒木さんのレクチャーは、「Open academia(開かれた学術業界)」に向け、研究を社会に開いていくこれからの研究者・研究業界関係者にとって、非常に示唆に富むものでした。
文章:丸山隆一(Open academia Lectures 企画担当)
★これからのイベント(Upcoming Events)★
【10/18 開催】Open academia Lectures #2:須田桃子 氏(科学ジャーナリスト)「メディアを横断し、科学の姿を伝える」