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【開催レポート】Open academia Lectures #1:荒木健太郎氏「雲研究者はなぜ、どのように、45万人に発信するのか」(2024年9月26日)

2024年9月26日、雲研究者の荒木健太郎さんをお迎えし、オンラインイベント「Open academia Lectures #1:雲研究者はなぜ、どのように、45万人に発信するのか」を実施しました。以下はそのあらましです。

研究者が自ら行う「情報発信」が今回のテーマ。荒木さんが毎日発信してくれる防災情報を参考にしたり、美しい雲の写真に魅せられている方は多いと思いますが、ご本人はどのような想いと心がけで科学コミュニケーションへ取り組んでいるのでしょうか。本レクチャーは、その舞台裏を知る貴重な機会になりました。

荒木健太郎さんプロフィール
雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、豪雨・豪雪などの気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取り組んでいる。映画『天気の子』、ドラマ『ブルーモーメント』気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズ、『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』、『世界でいちばん素敵な雲の教室』、『雲を愛する技術』、『雲の中では何が起こっているのか』などがある。
Xアカウント:@arakencloud

なぜ情報発信するのか:「軸」を持つ

「雲」という複雑な気象に着目し、防災気象情報の高度化の研究に取り組む荒木さん。いくら防災情報が高度化しても使ってもらえなければ意味がなく、そのためにはひとりひとりの科学リテラシーが重要であることに、あるとき気づいたと言います。

「子どもから大人まで、気象や防災に関して、理解して、かつ気軽にアクションがとれる。たとえば空を見上げて、あの雲、もうすぐ雨降りそうだねとか、ちょっと危ないかなとか、避難しようかといったように、そういう科学アクションが気軽にできる社会になるといいなと思って、活動をしています。」

SNSでは平時は雲や空の話題で気象に関心を持ってもらい、災害時には分かりやすい防災情報を広く届ける「防災・減災のための雲科学コミュニケーション」を実践しています。コミュニケーションは目的ではなく手段であって、その情報発信を通してどのような未来を実現したいのかの「軸」を持つことが重要だと、本レクチャーでは強調されました。

研究者が発信するうえで大事なこと

研究者が情報発信するうえで気を付けるべきポイントが、いくつも共有されました。以下はその一例です。

  • 自分の専門分野と社会がどのように関わっているのかを考え、一度言語化する。

  • 自分自身のキャラクターや、経験を考慮したストーリーをつくる。これを踏まえた自分だけの「肩書き」を考えるのも効果的(例:「雲研究者」)。

  • 応援してくれる人との関係性は対等であり、ギブアンドテイク。応援する敷居が低いことが大事。

  • 発信が必要になるシチュエーションをあらかじめ考えて、素材を準備しておく。

  • 自分が発信する情報を受け取る人がどう思うのかを常に想像する。投稿前に一度立ち止まる。

  • 相手が子どもであっても、端折らない、論理的な説明をする。

誰しも気になる「これだけの量の発信や書籍執筆を、研究と両立しながらどう行っているのか?」という質問に対しては、「日中は研究をしていて書籍執筆は夜にやっている」とのこと。そのうえで、研究のために行う日々の情報収集とそれに紐づく発信を「習慣化」しているのだそうです。書籍制作は同じ志を持つ仲間と編集チームを立ち上げ、効率的に進めているそう。やはり大事なのはコミュニケーションの目的となる軸をもつこと、その目的のために自分に合った(楽しくできる!)方法を探すこと、だと言います。

若手研究者との対話

後半では「実践編」として、academist Prize 第4期で「研究ファン、1,000計画」に挑む3人の研究者(櫃割さん土田さん曾澤さん)との対話を通して、3人の今後の発信に関するヒントをいただきました。

左から:櫃割さん、土田さん、曾澤さん
  • 研究者個人の活動に加えて自分の分野でのおもしろい動向をエビデンスともに発信してみる

  • 災害情報など、必要とされる情報を必要とされるフェーズごとに準備すると価値ある発信ができる

  • 平時においても過去の事象の「○○周年」など発信ができるタイミングがある

  • 情報が流れていくSNSでは大事なことは何度発信してもいい

といった、数々の実践的なアドバイスがありました。

終わりに

参加者からの事後アンケートでは、「自分が楽しむことが大事、というのは心からそう思う」「フォロワーの先には顔があるというコメントに深く共感した」「ミッションを掲げて専門分野から社会にアプローチしてゆく姿勢をお手本にしたい」「普段聞けない荒木さんのお話が聞けて良かった」「防災に対して強い信念をお持ちで、それを広めるために平時から発信されていることを知ることができてよかった」といった感想が寄せられました。

自ら「防災・減災のための雲科学コミュニケーション」を日々実践しつつ、その実践をこれほどまでに客観的に体系化・言語化されていることに強い感銘を受けました。荒木さんのレクチャーは、「Open academia(開かれた学術業界)」に向け、研究を社会に開いていくこれからの研究者・研究業界関係者にとって、非常に示唆に富むものでした。

文章:丸山隆一(Open academia Lectures 企画担当)

ペットボトルの中に雲をつくる実験をしてくださった荒木さん。

★これからのイベント(Upcoming Events)★

【10/18 開催】Open academia Lectures #2:須田桃子 氏(科学ジャーナリスト)「メディアを横断し、科学の姿を伝える」

Open academia Lecturesの第2回では、科学ジャーナリストの須田桃子さんをお迎えします。

2001年に毎日新聞に入社し、科学、医療、科学技術行政などの取材を続けてこられた須田さんは、『捏造の科学者 STAP細胞事件』(2014年発行、大宅壮一ノンフィクション賞、科学ジャーナリスト大賞)『合成生物学の衝撃』(2018年)など、丹念な取材に基づくノンフィクションの書籍も手掛けてこられました。

2020年からはNewsPicks編集部にて、Webメディアを舞台とした科学ジャーナリズムに転向。過去1年手掛けた調査を基にした連載記事「虚飾のユニコーン:線虫がん検査の闇」は卓越した調査報道として、Internet Media Awards 2024のテキスト・コンテンツ部門や、第4回調査報道大賞奨励賞を受賞したばかりです。

本レクチャーでは、新聞の科学報道、プレスリリース、Webメディア、単行本と、メディアを横断してきた須田さんに、どのような想いで科学を伝えてきたのか、苦労や試行錯誤も含めてうかがいます。

研究者の発信の陥りがちな傾向、各メディアの特性、そして、科学行政や科学の「健全性」に関わる科学ジャーナリズムの役割――。これから科学と社会をつなぐ活動を行う研究者と、科学コミュニケーションに従事する方へのアドバイスもお聞きします。

科学の「闇」の部分にも光を当てることをいとわない国内屈指の科学ジャーナリストに、その熱意と仕事術を知るまたとない機会になります。ぜひご参加ください!

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