「博物館×テクタイル~大昔の生き物と私たちの暮らし」延長戦:相場さんからの回答掲載
11月03日(水)にACADEMIJANは「博物館×テクタイル~大昔の生き物と私たちの暮らし~」というタイトルで、サイエンスアゴラにてオンラインイベントを行いました。当日ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
イベントでは、南澤孝太さん(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 教授)、芝原暁彦さん(地球科学可視化技術研究所 所長、恐竜学研究所 客員教授)、相場大佑さん(三笠市立博物館 主任研究員)、森健人さん(一般社団法人路上博物館 代表理事)の4名の先生が登壇し、古代から現代までのさまざまな生き物についてのお話と、テクタイルを使って遠隔で標本に「触る」体験を、お届けしました。
以下からアーカイブ動画をご覧になれます。
また、(この記事とは別に)イベントの振り返り記事を後日noteに投稿する予定ですので、そちらもお楽しみに!
さて、イベント当日は予想以上に多くの方にご参加いただくことができました。とても嬉しい反面、登壇者の一人であった相場さんに対する参加者からの質問やコメントについて、返答できなかったものが多くありました。
ですがなんと、イベントの中で返答できなかった質問やコメントについて、イベント後に相場さんからコメントをいただきました!本記事にて、そちらをドドーンと掲載させていただきます。
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当日のイベントの中では、相場さんからクイズを2つ出題し、参加者の皆さんに思いついた答えをコメント欄に書いてもらいました。以下に、イベントの中で参加者からいただいた答えの一部と、イベント後に相場さんからいただいたコメントを掲載いたします。
イベント中に出題した相場さんからのクイズ①
「なぜ白亜紀末にアンモナイトは絶滅し、オウムガイは生き残ったのか?」
【参加者からの答え(一部抜粋)】
・オウムガイは深海に潜ったから
・体の大きさ
・食べるものが違ったから?
・オウムガイはアンモナイトより代謝が低い?
【相場さんからのコメント】
みなさん、すごい。ほとんどの方の答えが正解だと思います。一応解説をします。
アンモナイトとオウムガイは、生まれた時の大きさが違っていました。アンモナイト約1〜数mmに対し、オウムガイは約3cmです。最大で30倍もの差があります。
生まれたばかりのアンモナイトは小さくひ弱なプランクトンで、体の密度が海水より小さく、生まれてすぐに海の浅いところに本人の意思とは無関係に浮上してしまった可能性が指摘されています。おそらく、海の深いところに比べ、浅いところの方が環境変化の影響を受けやすく、アンモナイトは赤ちゃん時代を生き抜くことができなかった可能性が考えられます。他にも、食べていた餌も関係しているかもしれません。環境変動の影響により、アンモナイトの赤ちゃんが食べていたと思われる微小なプランクトンが減り、食糧不足に陥ったのかもしれません。
一方のオウムガイは、自然に浮上してしまわず、最初から比較的自由に泳ぎ生息域を決定できたと思いますし、餌もアンモナイトより選択肢があったと思われます。
ちなみに、小さい子どもを多く産み寿命が短い繁殖戦略のことをr戦略、大きい子どもを少なく産み寿命が長い繁殖戦略のことをK戦略と言います。アンモナイトはr戦略、オウムガイはK戦略と言われています。アンモナイトのr戦略が、K/Pg境界の大量絶滅時には仇となったのかもしれません。
しかし、疑問が残ります。イカ、タコを加えて考えるとどうでしょうか。イカとタコも実はアンモナイトと同じく赤ちゃんが比較的小さく、r戦略的な繁殖戦略をもちます。なのに、現在も生き残っています。つまり、頭足類の絶滅は、赤ちゃんの大きさや繁殖戦略だけでは説明ができないのです。最近では、代謝率が関係していたのではないかという考えもありますが、誰もが納得するような「定説」は提唱されていません。こちらについてももしよかったら考えて見てください。クイズの答えの中で、新たな謎を提示してしまって申し訳ないです。笑
イベント中に出題した相場さんからのクイズ②
「時代が新しくなるほど、異常巻きアンモナイトがのびたのはなぜ?」
【参加者からの答え(一部抜粋)】
・深いところに行ったことで浮力により伸びた?
・生育環境が、アンモナイトにとてもあっていて、のびのび成長できたから。。。
・気のゆるみ?
・泳ぐスピードかな
・海が温かくなって丸い状態で体温を保持する必要がなくなった?
【相場さんからのコメント】
みなさん、考察していただきありがとうございます。「のびのび成長できた」「気の緩み」などユニークな発想、ありがとうございます。また、少しドキッとする回答もありました。このクイズにはまだ正解がないので、回答はできませんが、いくつかのコメントについて検討したいと思います。体の大きさは体温保持に関係するので、寒い地域に住んでいる生き物ほど体が大きいという話があります(例:ホッキョクグマなど)。今回のアンモナイトに関しては果たしてどうでしょうか。もしも殻が解けたとしても体そのものの体積や表面積は変わりません。つまり、体温保持機能には大きな変化はなかったはずなので、寒冷化と体の大きさという視点からの検討は、議論から外すことができるかもしれません。また、同様に殻の重さも変わらなかったはずですので、重くなり泳げなくなったということも考えにくいです。一方で、重さは変わらなくても、殻の形は変わっているので、体全体のバランスは変化し、泳ぐ能力にも何かしらの変化があったでしょう。このように、考えられる可能性をひとつひとつ検討しながら「一番もっともらしい答え」を探していくのが科学です。
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イベント中に参加者のみなさんからお寄せいただいた質問への、相場さんからの回答を以下に掲載いたします。
参加者からの質問①:
異常巻きアンモナイトの水中姿勢が気になります。
ほどける状態が進むほど、イカのような水中姿勢になったりしたのでしょうか?また、遊泳能力は縦方向か横方向どちらかに向いているなどわかっていますか?
異常巻きアンモナイトは生活史のなかで、生息水深が変わると聞いたことがあります。
相場先生お答え願えないでしょうか?
参加者からの質問②:
異常巻きの四角いアンモナイトはおよげましたか?
質問①、②への相場さんからの回答:
異常巻きアンモナイトの生息姿勢については、形によりますが、基本的には軟体部(本体)が殻の口の部分が必ず殻全体の下側にあったはずです。成長が古い部分には隔壁があり、中に空気が入っていたので、ここが上になっていたはずです。泳ぎの能力についても殻の形によりますが、最近の研究ではニッポニテスはああ見えても殻全体で形を見れば割とコンパクトで、流れが強い環境下でなければ割と上手に泳げたとされています。他には、棒のような形をしたアンモナイトは上下運動に適していたと考えられています。生活史の中での生息水深の変化については、いくつかのアンモナイトで、化学分析などで推測されていて、生息深度を変化させるものもいたようですが、異常巻きアンモナイトについてはよくわかっていません。
参加者からの質問③:
アンモナイトの標本を触った時に臭いを感じました。
あまり良い臭いではなかったのですが、あれは多くの人が触った脂の酸化した臭いなのか、保護剤の臭いなのかわかるなら教えて下さい。
質問③への相場さんからの回答:
アンモナイトの臭い。一つ考えられるのは、黄鉄鉱で置換されたアンモナイトです。イギリス産のものが有名ですが、錆びた鉄のような臭いがします。
参加者からの質問④:
アンモナイトのガタガタのミゾは、年輪みたいなものなのでしょうか?
質問④への相場さんからの回答:
ガタガタの溝は、成長によって継ぎ足されるという点では年輪のようなものですが、一つが一年を表しているというものではありません。溝ひとつがどのくらいの時間で作られるかわかっていないのでアンモナイトの年齢や寿命もよくわかっていません。
参加者からの質問⑤:
もし今アンモナイトが生きていたらどんな進化をしていると思いますか?
質問⑤への相場さんからの回答:
大変面白い視点の質問ですね。この質問は配信終了後に登壇者の間でも話題になりました。
少しつまらない答えになってしまいますが、まずは、イカがそれに当たると思っています。イカとアンモナイトの共通の祖先は、アンモナイトの殻に似た構造の空気が入った殻(形状はまっすぐ)を持っていました。イカの進化において、はじめにその殻が体の内側に取り込まれ、次に浮力機能を失い邪魔になった殻が退化しました。このようにイカは、一貫して速く泳ぐことに適した体に進化してきました。アンモナイトがもしもK/Pg境界を生き残ったとしたら、同じように速く泳げる体に、殻が退化する進化したかもしれませんね。
もしくは、もしもアンモナイトがもっと深海に適応していたとしたらK/Pg境界を生き延びることができたかもしれないと思います。そこからのまったく逆の発想で、現在の深海性の頭足類のように、クラゲのように漂い、体力を消耗しないようにゆっくり動き、微小プランクトンを吸い込んで食べるような、かなり受動的な生き物に進化していたかもしれません。
参加者からの質問⑥:
オウムガイの卵は何cmですか?
参加者からの質問⑦:
世界最小のアンモナイトは何mmでしょうか?
質問⑥、⑦への相場さんからの回答:
オウムガイの卵は3cmから5cmくらい、アンモナイトの卵は、1mmから数mmくらいです。
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みなさん、いかがでしたでしょうか。アンモナイトの世界の奥深さが感じられたのではないでしょうか。
イベントでは、アンモナイトはもちろん、ストロマトライトやラッコの毛皮など、古代から現代までさまざまな生き物の標本が登場し、それらを触ったときの触感をテクタイルという技術を使って体感してもらいました。アーカイブ動画でも、動画中で紹介されるような膜が振動するタイプのスピーカーをご用意いただけると触感を体感できますので、ぜひチェックしてみてください。
それでは改めまして、イベントで質問やコメントをしてくださった参加者の皆さん、ありがとうございました。
後日、イベント全体の振り返り記事をnoteに投稿する予定です。そちらもお楽しみに!
(執筆:細谷享平)