【比較・社会保障財源論】:消費税増税は、現役世代のためになる
まず、社会保障費の原資というのは、租税を原資にするか、社会保険料を原資にするかという裁量が、各国家に与えられており、各先進国によって、その比率はバラバラである訳です。
次に、下図(図1)の通り、国民負担率のグラフというのは、各国の税金や社会保険料の負担率の高さを確認出来るだけに留まらず、各国の社会保障の財源に占める租税と社会保険料の比率を確認する事も出来ます。
今後の日本においては、高齢化率が上昇する事に伴い、社会保障費は今後も増え続ける事は間違いないため、その財源を確保するという観点において、今後の日本国民は、"消費税を増税するか"、あるいは、"社会保険料を引き上げるか"という二択のいずれかを選択しなければならないという事になります。
その上で、巷では、"消費税を増税した方が、現役世代のためになる"という主張を目にする事があります。
なので、今回は、"消費税を増税した方が、現役世代のためになる"という事を実証し、各国の社会保障の財源に着目しながら、"高齢者の社会保障を維持しつつ、少子化に歯止めを掛けるためには、どうすればいいのか?"という事についても、私なりの考察を述べさせていただきたいと思います。
1.社会保険料の比率が低い国程、出生率は高い
まず、上図の各国の合計特殊出生率の推移のグラフ(図2)を見てみると、アメリカ、フランス、スウェーデン、イギリスが、比較的高い合計特殊出生率を誇っているのに対し、日本、イタリア、ドイツ、韓国は、総じて、低い合計特殊出生率となっている訳です。
更に、先程の国民負担率のグラフ(図1)と以下の国民負担率のグラフ(図3)をご覧いただくと、アメリカ、フランス、スウェーデン、イギリスのような出生率が高い国においては、国民負担率に占める社会保険料の比率が小さく、イタリアを除き、日本、ドイツ、韓国のような出生率が低い国においては、社会保険料の比率が高いという事がお解りいただけると思います。
なので、一般的には、有識者の間でも、"社会保障の財源における社会保険料の比率が小さい程、現役世代に有利となる"という事が、通説となっております。
何故なら、社会保険料というのは、現役世代の労働者のみが負担するものである一方で、消費税等、租税であれば、全世代が公平に負担するものという性質の違いがあるからです。
ですから、結論として、"消費税を増税し、現役世代の社会保険料負担を軽減する事は、現役世代を資する結果となる"という事が言える訳です。
2.フランスについて
ただし、フランスは例外的で、図1のグラフで示されている通り、国民負担率が70%に達する程、社会保障費自体が巨額である訳です。
しかし、それでも、図2のグラフを参照してみれば、先進国の中で、合計特殊出生率が、トップクラスに高い事も、お解り頂けると思います。
つまり、社会保障費が巨額であったとしても、子育て支援等、若者世代が得をするような予算を捻出していれば、きちんと出生率は上がるという事です。
また、原理原則として、社会保険料というのは、現役世代の労働者のためのお金でありますので、社会保障費が巨額であっても、失業保険の例に倣い、徴収した社会保険料を、直接、現役世代に還元して、手取りを増やすというような施策も打てる訳です。
ですから、一章で掲げた出生率の高い国々においては、"最初から税金や社会保険料を取らない"というスタイルであったのに対し、フランスのように、"税金は取るが、子育て支援はしっかり行う"というスタイルであっても、現役世代は恩恵を得られるという事です。
ただ、フランス型の場合であれば、企業負担が、更に増えてしまうという事は、間違いないと言えるので、負担に耐え切れない中小零細企業が続出し、結果的に、失業率が上昇してしまうというリスクは、免れないと言えると思います。
また、フランスというのは、大企業の大半が、国営企業であるとされており、そういった点も、高い国民負担率が許容される一因となっている事は否定出来ないため、一概に、日本においても、フランス型のような社会制度が作れると言う事は出来ないのではないかと思っております。
3.社会保障の原資に成り得る租税について
上図(図4)からお解り頂ける通り、消費税は、リーマンショック等の不況下においても、安定した税収を誇るとされており、一般的に、社会保障費の原資というのは、ある程度の安定性が求められるとされておりますから、基本的には、消費税が、社会保険料に代替えし得るような、社会保障の原資となる訳です。
ただ、その一方で、フランスには、一般福祉税(CSG:Contribution Sociale Généralisée)と呼ばれるような、社会保障に充てるための財源の確保を目的として、富裕層を対象に、資産所得や投資益の保有者に大きな税負担を課す税制がございます。
ですから、日本においても、消費税のみならず、富裕層を対象にしたような、金融所得課税や資産課税も、社会保障の原資に成り得るという事が言えると思います。
結論.
まず、現役の労働者にとっては、"消費税の増税"が有利であり、その他の人々にとっては、"社会保険料の増額"が有利であると言える事は間違いないと思います。
そして、イギリス・スウェーデン型とフランス型のどちらが良いかという事についての個人的な意見を申し上げますと、イギリス・スウェーデン型を目指す方が良いのではないかと考えております。
その主な理由としては、税金も、社会保険料も引き上げて、国民負担率が70%に到達してしまうような社会主義国家体制というのを、日本国民は、誰一人として、望んでおらず、民意が得られる可能性が無いと考えているからです。
更に、日本の場合、少子化の主な原因は、婚姻率の低下にあるとされており、少子化解消のためには、婚姻に至ってない若者の所得を高め、婚姻率を増やすという事が重要であり、そのため、子育て支援をいくら手厚くしても、少子化を改善する効果は殆どないと考えられる事も、理由の一つに挙げられます。
社会保障制度は、必ず改革する必要がある
ただ、現在の社会保障を維持すると、高齢者への社会保障支出だけが伸び続け、結果的に、消費税も、社会保険料も上がる一方で、現役世代は何の恩恵も受けられないという本末転倒になる可能性が高い訳です。
また、高齢者の社会保障費に、多額の租税や赤字国債が用いられてしまえば、事実上の緊縮財政が続いてしまう訳ですから、その分不況も進み、国力や経済力の更なる低下は免れないと言えるでしょう。
ですから、社会保障の財源の比率を見直すという事以前に、社会保障を改革し、高齢者への社会保障支出額を、現状の日本の国力に見合った程度にまで、しっかりと調整する事は必須であるという事は、間違いないと言える訳です。
参考文献.
・社会保障財源の制度分析
・税と社会保障: 少子化対策の財源はどうあるべきか (平凡社新書1062)