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派遣業界徹底改革の提言

1.日本のIT業界が成長が遅れる真の理由

まず、率直に述べると、日本に存在するIT企業の大半は、IT企業では無いのです。

日本のIT需要は大半が、社内システム開発を占めており、大企業や国が発注元のプロジェクトの場合、まず富士通やNTTデータ等の大企業が仕事を受注します。

そして、元請けとなった1次請けの企業は、子会社や下請け企業といった2次請けへ、請け負った仕事をそのまま横流しします。

さらに、その2次請けが、その下請けの3次請けの企業に仕事を流して...と言うように、横流しにされた仕事は、最終的には、3次請け~6次請けの会社にまで流れ着き、実際にプログラマーやSEとして実務を行っているのは、3次請け~6次請けの会社の従業員だけという構造がIT業界には蔓延っているのです。

ですから、1次請け~2次請けの上流の会社には、プログラミングが出来たり、システムの設計が出来るような実務が出来るエンジニアはおらず、営業マンだらけで、元請けに近ければ近い程、IT企業とは名ばかりの仲介業者だらけになるのです。

その結果、末端のプログラマーやSEを直接雇用している会社に、発注金額が届くまでに、何社からも中抜きされてしまい、それが雇用元の会社に届く頃には、元の発注金額の半額以下の金額になっている事も珍しくありません。

そうなると、末端企業は、従業員にまともな給料も払えず、長時間のサービス残業をさせざる負えなかったり、20年間働いても月給20万のままというような低水準の待遇にせざるを得ないのです。


また、1次請けは、3次請け以下の会社がどんな会社かも知らず、会社名すら解らないのは当たり前で、逆に、3次請け以下の下請け会社は、自分達の上流の会社の事を知りません。

具体的に説明いたしますと、5次請け会社に雇用されているプログラマー山本太郎さんが居た場合、4次請けの会社には、

「株式会社5次請けの山本太郎です。」

と紹介します。

そして、4次請けの会社は、その山本太郎さんを使い、3次請けの会社には、

「株式会社4次請けの山本太郎です。」

と紹介します。

そして、3次請け、2次請け、元請け会社も、同様の事を行い、発注元の会社には、元請けの従業員だと騙し、雇用させます。

ですので、元請けの会社の営業と3次受け、4次受け、雇用元の5次受けの営業ですら、お互いに顔を会わせる事はありません。

実際に繋がりがあるのは、直に仕事を発注したり、受注して、やり取りのある企業間だけです。

また、前述の通り、元請け会社は、山本太郎さんが、実際には5次請けの会社の従業員だと知りませんから、山本さんの雇用元会社の営業は、プログラマーに職歴を偽らせて、無理矢理発注元にねじ込むという事も平気で行っています。


逆に、元請け側のメリットとして、労災や残業代未払いなどの労働紛争が発生した場合でも、「下請けに発注しているから。」の一言で、責任を逃れる事が出来るため、慰謝料を払ったり、労働基準法で定められている補償を行わずに済むのです。

これはIT業界の一部の話ではなくこれがIT業界の当たり前の構造なのです。

この構造は、最低でも、1990年から30年以上に渡って続いています

ですから、いくらIT業界の規模が拡大しても、その市場に出回るお金は、上流の企業に中抜きされて、末端の薄給の待遇の悪いエンジニア達には届かないが故に、エンジニア達の質が一向に伸びず、日本のIT業界は、世界に置いて行かれてしまったのです。


何故、IT業界にだけ、このような多重請負構造が蔓延ってしまったかと言うと、業務の内容上、偽装請負だと認識されづらいので、行政の摘発から逃れ続けてきたのが、主な理由だと考えられます。

偽装請負については、後述いたしますが、製造業では、1985年のプラザ合意以降、急激に円高が進行したため、海外の安い人材を使って商品を作る海外企業に対抗するため、正社員を減らし、偽装請負により、安い労働力を確保する流れが出来はじめ、1997年に発生したアジア通貨危機以降、偽装請負が激増し、当たり前に蔓延るようになってしまいました。

その結果、2000年代後半からは、行政の積極的な介入により、偽装請負から派遣社員や期間工への雇用形態の転換に成功し、製造業においては、偽装請負が段々と減っていきました。


2.小泉内閣の派遣改革の真相

前述の通り、プラザ合意とアジア通貨危機と、立て続けに起きた円高が加速させるような国際情勢の変化により、2000年頃の日本の製造業は、東南アジアの安い人件費による安い商品と円高による大打撃を受けました。

さらに、日本には正社員制度が根付いており、柔軟な人員調整が出来ず、従業員1人当たりにかかるコストが高いため、どうしても、従来の経営方法では、商品の価格を抑える事は不可能に近かったのです。

そういった時代背景の中で、好きな時にクビを切れて、低賃金で人手を集められる偽装請負が、違法であるにも関わらず、1999年辺りから製造業を中心に、急速に普及していきました


請負契約とは、「業務受注者が、委託された業務を完成させることを約束し、業務発注者は完成された仕事の結果に対して報酬を支払う契約」の事を言います。

つまり、請負契約ならば、派遣元の会社A社の従業員が、派遣先の会社B社の現場に派遣された場合は、A社の従業員は、派遣元の会社A社の保有する機械や資産を使って、業務を行わなければなりません

例えば、工場に派遣するのだったら、派遣先のB社の工場に、A社の資産である生産機械一式を置き、また、A社の従業員には、A社の担当者が直接指示を出す必要があります

建設会社に、家の建設を依頼する事を想像すると解りやすいでしょう。

家を建てる場合、依頼主は、お金を支払う以外の事は行わず全ての作業を受注先に委ねる形になります。

これが、請負契約です。


一方、偽装請負では、請負契約をしているにもかかわらず、発注元のB社の担当者が、直接A社の従業員に指示をしたり、B社の機械や資産をA社の従業員に使わせたりします

B社の従業員が働いている現場に、A社の従業員が混じって作業している場合も、偽装請負と見なされます。

また、B社が、A社の従業員に、時給制や月給制に換算した報酬をA社を介して支払う場合も同様です。

お気づきかと思いますが、偽装請負の業務内容は、派遣会社の業務そのものなのです。

ですから、派遣社員制度とは、合法的に、偽装請負を企業が業として行う事を認可するための制度だったのです。

偽装請負の場合は、陰に隠れているので、行政の目が届き辛いのですが、派遣会社の場合は、会社毎への認可制を取っていて、経産省による統計値も取りやすいので、行政の手が届き易い点で、全く異なるのです。

そこで、製造業を中心に広がる偽装請負蔓延の流れを止めるため、小泉内閣は、派遣制度の大改革に踏み切り、その代用となる派遣制度を企業が利用出来るようにしたのです。

そして、キャノンやニコンといった大企業までもが、偽装請負を行っている事が社会問題となり、偽装請負労働者による訴訟など多発した末、行政が徹底的に摘発し続けた結果、製造業界においては、偽装請負から、派遣社員や期間工への移行させる流れを作る事に成功したのです。


3.対策

これまで、政府は、労働基準法や労働派遣法等の法改正だけで、派遣会社への規制を進めてきましたが、リスクを負ってでも法を守らない中小零細派遣会社が多く、そういう企業が多発すると、真面目にコンプライアンスを維持する企業の方が、競争に敗れ、潰れてしまうため、最終的に法を破っても気にしない企業ばかりが増えていきます。

ですから、法改正だけではなく、徹底的に、行政の権力を行使し、大胆な改革を行わなければ生産性と成長性を削いでいる中抜きが蔓延る日本社会を変える事は出来ません

この項では、取り得る対策を、次々に上げてゆきます。

①元請けの報酬手数料の上限を制限する

不動産の売買や賃貸と仲介する宅建業者は、受け取れる仲介報酬額に上限があり、宅建業法にその旨が定められています。

宅建業者も、下請けに外注し、多重請負構造を作れるのですが、元請けの受け取れる報酬に上限があるため、多重に請負先を作れば作る程、元請けの取り分が減る事になり、仕事の横流しを防ぐ仕組みになっています。

これを派遣会社にも取り入れ、発注元の依頼金の額が、1円~10万円までは手数料の上限を20%、10万円~50万円までは15%、50万~100万までは10%と、元請け派遣会社の受け取れる手数料を法律で制限してしまえば、宅建業と同様に、仕事の横流しを防ぐ事ができるでしょう。

②三次請け以下のIT企業は全て罰する

多重請負が蔓延っている日本のIT業界の世界からの大幅な遅れを巻き返すためには、他の業界よりも、さらに厳しい規制が必要です。

ですから、3次請け以下の多重請負を行う企業を、全て違法とし、徹底的な摘発を行う必要があるでしょう。

2次請けまでならば、発注元ー元請けー2次請けと、元請け会社には、発注元と下請け双方に直接的な繋がりがあり、2次請けの会社で問題が起こったとしても、元請けを取り締まれば、全貌が明らかになりやすく、責任も問いやすいので、行政の手が届き易くなります。

また、2次請けまでならば、プログラマーやSEの実務を行う人々へ行くお金も、現状ほど中抜きされずに済むでしょう。

③偽装請負・多重派遣を実行した会社の責任者への迅速な摘発と懲役刑処置

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)
第五十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第四条第一項又は第十五条の規定に違反した者
二 第五条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者
三 偽りその他不正の行為により第五条第一項の許可又は第十条第二項の規定による許可の有効期間の更新を受けた者
四 第十四条第二項の規定による処分に違反した者

現在、労働者派遣法59条により、偽装請負を行った会社の責任者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金の刑罰を科されます。

ですが、現状、この法律を使用しての事業者の逮捕はあまり行われておりません。

中抜きをするだけの会社が得をし、それが蔓延るというのは、途轍もない程の社会的損失を引き起こしているため、偽装請負業を行っている事業者の逮捕及び懲役罰を、さらに積極的に行っていき、2次請け以下の多重請負構造を作りだした会社の責任者にも、懲役刑を課せるような法律を新設し、法律を守らない経営者は、徹底的に、一人残らず逮捕する勢いで、規制をしなければ、派遣業界の改革は不可能かと思います。


④資本に余裕のある大企業にだけ派遣業の認可を与える

派遣業は、元手がかからず、パソコンと電話だけで開業できる程参入障壁の低く、起業し易いため、2015年には、全国で8万事業者を突破するなど、おびただしい数の事業所が存在します。

そして、その事業所の殆どが、派遣会社で数年間働いて独立をしたような中小零細企業になります。

この中小零細派遣事業所の多さが原因で、派遣労働者のブラック労働や待遇の悪い労働環境が生じている事は間違いありません。


まず、大企業に比べ、中小零細企業は、発注元に対する交渉力が弱い事が挙げられます。

交渉力が弱いと、発注元の言いなりになり、段々受注金額が落ち、最終的には、赤字の仕事も、受注させられるというような事態も起こり、自ずとそのシワ寄せが、派遣社員の元へいってしまいます。

さらに、労働者派遣事業所数が多い事で、競争過多となり、発注側の無理難題を1社が引き受けると、他の会社も追随して、引き受けざる負えなくなり、結果的に、全ての派遣会社が消耗する形になってしまいます。

ですから、発注側と対等に交渉するためにも、大企業のみを残し、派遣会社による事実上のトラストを作れるような状態にする必要があると思います。


また、中小零細企業相手では、労災違法労働が発生した場合でも、法人を廃業するリスクも薄く、コンプライアンスを遵守する意識は低いため、法規制が機能しません

逆に、大企業では、コンプライアンスが守られやすく、行政の目の届き易く、監査人を置く事も義務付けられるため、法や行政による監督がし易いのです。


⑤最末端の請負企業を調査する

元請けが受注した額を確認し、それと同時に、"多重請負の最末端の企業"を特定し、いくらで仕事を請け負ったか?を確認します。

そして、元請けの受注額多重請負構造の最末端の企業の受注額を見れば、どれだけ、発注元の発注額が中抜きされているかが即座に解ります。

中抜きは、発注者が得られるメリットが、その分減ってしまうため、社会法益を守る上で、廃絶する必要があるでしょう。


4.まとめ

派遣会社や中抜き行うような業に関しては、電力会社や民間の公共交通機関関連会社と同様に、直接的な行政の徹底的な制御が必要だと思います。

何故なら、戦後から現在まで、企業の寿命は段々と減り続けており、ITによる技術革新も相まって、今後の正社員の数は、一方的減り続けるからです。

なので、非正規雇用や派遣社員という雇用形態であっても、先を見据えられるような労働環境と待遇を提供する事は、当たり前で無くてはなりません。

ドイツ、フランス、アメリカでは、派遣社員制度はありますが、その復旧率は、日本の10分の1と言う程低いのです。

その理由は、日本の正社員と非正規労働者の格差のような、身分による待遇の格差が無いからです。

ですから、正社員と非正規労働者の格差の是正の第一歩として、人身売買の末の不当な荒稼ぎが蔓延る派遣業界を改革する必要がある事は間違いありません。

参考文献

・偽装請負 (朝日新書) by 朝日新聞特別報道チーム


・中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇 (講談社現代新書) by 中沢彰吾


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