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企業犯罪への対処法を考える:各国の法人処罰制度比較


はじめに.

最近、ビッグモータージャニーズのような、コンプライアンスを違反するような企業が話題になっております。

ですが、現状、海外諸国を見ても、企業が主体となって行う犯罪(企業犯罪)に対して、有効な手段が確立されておりません

確かに、競争法(独占禁止法等)金融法(金融商品取引法)のような、典型的な企業犯罪については、日本を始め、どの国においても、処罰規定が存在しております。

しかし、そういった法律に引っかからないような企業犯罪については、何の法律整備も成されていないと言うのが現状です。


ですので、本noteでは、各国の企業処罰の制度の比較を行い、日本においても、有効な対策は打てないのかについて、考えて行こうと思います。


1.現行刑法を用いた処罰の問題点

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まず、基本的に、今の刑法と言うのは、"自然人"を処罰するための法律であり、法人のような、組織を罰するための法律にはなっておりません。

そして、刑法による処罰を行うためには、一個一個の犯罪行為に対して、厳格に、あらゆる証拠を用いて、公判を開いて、丁寧に証明していく作業が必要とされます。

また、刑法は、犯罪行為者自体が罰せられる仕組みとなっており、仮に経営者が指示して行われた犯罪行為であっても、経営者の指示が立証できない場合は、基本的に、罰せられるのは、実行者である従業員だけとなります。


例えば、1955年に発生したとされる森永ヒ素ミルク事件では、18年に及ぶ刑事裁判の結果、"代表取締役や工場長は無罪となり、工場の製造課長だけが禁固3年の有罪となった"との事です。

勿論、森永ヒ素ミルク事件では、実際の被害者が多数生じているため、被害者と森永乳業との争いについては、民事訴訟主導で行われ、森永乳業側が、ひかり協会と呼ばれる被害者に対して補償を行う財団を設立させ、一応の決着が図られたようです。

しかし、森永ヒ素ミルク事件での、刑法上の処罰の有効性を考えた場合、代表取締役が何の責任にも問われない点や、当事者企業に対し、実効性のある罰金刑を課せていない等、全く持って、有効な処罰が行われていないと考えられるでしょう。


そして、現代の話に戻りますが、ビッグモーターに適応される刑罰を考えると、店の前の街路樹を故意に枯らしたり、お客さんの車に対して故意に傷を付ける行為は、器物破損に該当します。

更に、保険金不正受給に関しては、損保ジャパン等の保険会社に対する詐欺罪が成立します。

しかし、前述したように、結局、処罰されるのは、実行者である従業員だけですので、器物破損や詐欺罪が、仮に有罪となった場合でも、ビッグモーターは、実質何のダメージも負いません


そして、次に、ジャニーズの話に移りますが、仮に、ジャニー喜多川氏が存命していた場合は、刑法上であれば、強制わいせつ罪青少年保護育成条例違反での処罰が可能です。

しかし、刑法は、既に死亡している人を罰する事は出来ないため、ジャニーズに対しても、刑法上では、何の処罰も行えない事になります。


2.各国の企業処罰制度

ドイツの法制度(行政法)

ドイツは、秩序違反法(Gesetz über Ordnungswidrigkeiten:OWiG)と呼ばれる、犯罪を犯した企業に対して、過料を課せる行政法を設けている事で有名です。

ただ、秩序違反法は、軽犯罪に対する処罰規定となっており、以下の通り、罰金額が1000ユーロ以下と、企業に対する罰金としては、ほぼ何の実効性も持たないような金額になっています。

行政犯罪法 (OWiG) 第 17 条 罰金の額
(1) 罰金は少なくとも 5 ユーロ、法律に別段の定めがない限り、最高 1,000 ユーロです。


アメリカの法制度(刑法)

かたや、アメリカでは、企業犯罪に対しては、刑法による処罰に重きを置いております。

アメリカでは、1991年に、以下の画像のような、組織体に対する処罰の量刑ガイドラインを策定したとのことです。

組織体に対する処罰の量刑ガイドライン

概要を説明すると、企業の行った犯罪レベルに応じて、そのレベルに応じた罰金を課せるという事です。


アメリカの量刑ガイドラインのポイントとしては、予め、法律によって、処罰される犯罪や罰金額について定める事によって、役人の裁量によって、不当な罰金が課されない事を保証した上で、有効な罰金を課せる点にあると思います。


スイスの法制度(刑法)

以下の通り、スイス刑法総則には、企業を処罰出来る規定が存在いたします。

スイス刑法総則 第102条 
 ある企業において、その企業目的の枠内で業務活動遂行中に、重罪又は軽罪が犯され、かつ、当該企業の欠陥ある組織体制により特定の自然人に当該犯罪行為を帰責できないとき、その重罪又は軽罪は、当該企業に帰貴される。この場合において、当該企業は500万スイスフラン以下の科料で処罰される。
 第260条の3、第260条の5、第305条の2、第322条の3、第322条の5 若しくは第322条の7第1項による犯罪行為に関する場合において、又は 1986年12月19日付の不正競争に対する連邦法第4条a第1項第a号による犯罪行為に関する場合において、そのような犯罪行為を阻止するために、あらゆる必要かつ期待可能な粗織的対策を実施しなかったことにより企業を非難できるとき、当該企業は、そこにおける自然人の可罰性から独立して処罰される。
 裁判所は、特に犯罪行為の重大性、組織的欠陥及び惹き起こされた損害の
重大性並びに当該企業の経済的支払能力に応じて、科料を量定する。
 次の各号に掲げるものは、本章において規定される企業とする。
a. 私法上の法人。
b. 地方公共団体を除く公法上の法人。
c. 会社。
d. 個人事業主。

スイス刑法典第 1 編総則

ですが、ある記事によると、"企業が実際に汚職やマネーロンダリング事件への関与についてスイス裁判所の追及を受けることは稀(まれ)だと非難する。"との記述があり、実際に処罰をされる事は稀だという事です。


オーストラリアの法制度(刑法)

オーストラリアにおいても、一応、法人に対する処罰の規定は存在します。

オーストラリア連邦刑法 第12.1条 一般原則
① この規範は、個人に適用されるのと同様に法人にも適用されます。
この部分に規定されているような修正、および刑事責任が個人ではなく法人に課されるという事実によって必要とされるその他の修正も同様に適用されます。
② 法人は、懲役刑を含むあらゆる犯罪で有罪判決を受ける可能性がある。

CRIMINAL CODE ACT 1995

ただ、第12.4条 過失及び第12.5条 事実誤認(無過失責任)という事項限定で、適用される規定ですので、日本においても、過失や無過失責任によって、法人の代表が逮捕されるような規定が存在するため、実質的には日本と大差は無いと言えます。


3.個人的見解

以上を踏まえ、本章では、私個人として、企業処罰について、どういう方向性を持って、新しい処罰規定を設ける事が出来るのかについて、見解を述べたいと思います。

①刑法における罰金刑の新設

現状、日本の行政法上の過料と言うのは、基本的には、作為義務や不作為義務と言った、行政からの要請を間接的に促すために存在する制度です。

路上喫煙禁止条例のような、行政職員が、直接法令違反者に過料を課すという処置も存在しますが、非常に例外的です。

また、行政法においては、刑法のように、客観的な証拠を集め、第三者である裁判所に判決を下してもらうというプロセスは、一切行いません。

更に、客観的な証拠を集める事自体、検察官や警察官しか行えません。

その前提を踏まえると、企業処罰を実現する上で、罰金の額も高額になると考えられ、刑事裁判のような公平なプロセスが必要であると考えると、やはり、刑法での処罰をする他無いと言えるでしょう。


なので、私の考える企業処罰の方針としては、刑法上に、2章で述べたスイスの刑法総則第102条のように、まずは、同条一項のような企業処罰の規定を設け、次に、同条二項のように、器物破損や詐欺罪等、犯罪を限定列挙する形で、条文を新設するのが、一番現実的な選択肢であると思います。


②国会における会社の解散決議を解散要件に追加する

次に、私の個人的な考えとして、"国会にて、解散決議を行う事を条件に、株式会社に解散を命じる事が出来る"と言う新しい事由を追加しても良いのではないかと思っております。


現在、会社法第471条には、会社の解散事由として、以下のようなものが挙げられております。

会社法 第471条 株式会社は、次に掲げる事由によって解散する。
 定款で定めた存続期間の満了
 定款で定めた解散の事由の発生
 株主総会の決議
 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
 破産手続開始の決定
 第八百二十四条第一項又は第八百三十三条第一項の規定による解散を命ずる裁判

以上の六項目を確認すると、現状、会社法471条を見ても、会社の外部から、会社を解散させる事は不可能であると言える訳です。

確かに、企業の活動の自由は、憲法上でも間接的に保証されている大事な権利です。

ですが、過半数の賛同が必要とは言え、株式会社の解散事由を自由に法定できる存在たる国会が、直接の決議によって、各法人を解散させる事が出来ても、何も不自然では無いと言えるのではないでしょうか。

やはり、政府が、企業の存続の可否について、決定するのは、言語道断だとは思いますが、国民の代表者が集う国会であるからこそ、最後の防波堤になる得るのではないかと思います。


まとめ.

やはり、各国の法制度を見ても、企業への処罰の法制度は、十分に行われていないと言えるでしょう。

ですが、利益第一主義的な、コンプライアンスを率先して違反する企業に対し、行政が弱腰となり、何も有効な処罰を行えない事は、大きな問題があると思っております。

特に、今回のビッグモーターの問題の顛末について、どのような形になるかはまだ解りませんが、現行の法制度を考えると、残念ながら、当事者や国民の納得の行くような結果にはならない可能性の方が高いと思っております。

なので、そうなった場合には、企業処罰については、世界的に見ても、難しい規定である事は重々承知しておりますが、国会にて、議論の必要がある事は、間違いないと思います。


参考文献.

・企業活動と刑事規制の国際動向 (総合叢書)

・法人処罰と刑法理論 増補新装版

・刑法は企業活動に介入すべきか


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