上級官僚ポストにおける政治任用制の勧め
はじめに.
まず、政治任用制とは、政府機関の要職につき、任命権者である政治家の裁量により、専門的な政策能力や政治的忠誠心などに基づき任免する制度を言います。
例えば、アメリカの政府(官僚)は、全職員300万人中4000人程を、上級ポストの人材を、民間人から起用しております。
ですから、大統領が変わる度に、日本の官僚制度で言えば、局長以上の全ての人事が、大統領の意図に沿った人材に全て入れ替わるんです。
その一方で、日本は、資格任用制を採用しております。
資格任用制とは、公務員などの採用において、専門能力の優劣によって採否が決められる制度を言います。
つまり、公務員試験を課し、その試験を突破した者に限って、官僚職を得られるというシステムです。
日本を始め、イギリスやフランスなど、大体の国は、資格任用制を採用しております。
ただ、近年では、アメリカの政治任用制を真似るような改革が行われております。
例えば、第二次安倍内閣における官邸主導や小泉内閣における国務大臣への民間人の起用が、その一例です。
以前投稿した官僚制改革のnoteにおいては、最後の方で、簡単に政治任用制について触れました。
ですが、本noteでは、改めて、政治任用制に的を絞り、日本の官僚機構に、政治任用制を更に導入する事で、得られるメリットについて、考えて行こうと思います。
1.改革は実施されやすくなる
まず、現在の日本においては、堀江貴文氏や孫正義氏など、数え切れない程優秀な実業家が存在します。
そして、政治任用制を採用すれば、事実上、官僚機構のトップに、そういった優秀な実業家達を据える事が可能となります。
一般的に、アメリカにおいては、政治任用制によって採用される非常勤公務員達は、平均任期2年~3年から去らなければならないため、短期間で成果を上げようとするそうです。
その理由としては、政府の重役に採用され、結果を残す事が出来れば、各々のキャリアの構築に繋がりますから、官僚職を退任した後でも、民間企業等から大量のオファーが舞い込むためとされています。
かたや、アメリカにおいても、その身分が定年まで保障される職業公務員達は、国益よりも省益を優先する、言わば、自己の利益を拡大する傾向があり、改革を阻んでしまう傾向があるとのことです。
ですから、社会において実績を残している実業家達を官僚のトップに据えられる点や、被政治任用制の改革志向の観点において、政治任用制を採用すれば、改革はし易くなると結論付ける事が出来ます。
特に、規制緩和を念頭に置いた改革等を行う場合においては、政治任用制は特に有用だと言えるでしょう。
2.特に政治任用制にすべきだと思う役職
①外交交渉職
日本の半導体産業の衰退の理由は、いくつか挙げられますが、1980年代に制定された日米半導体協定が大きな転換点になったと考えられております。
日米半導体協定では、日本市場における外国製半導体の比率を20%にするという購買義務が課されるなど、非常に不平等な協定を結ぶことになってしまったとされています。
そして、日本が、対アメリカの交渉において、毎度大きく敗けてしまう要因の一つとして、外交交渉の担当者の違いがあるとされています。
アメリカの重要な外交交渉を担う担当者は、政治任用制によって、民間人から起用されます。
そして、アメリカ側の外交交渉を担う重要なポストを占めるのは、大体が、民間企業に従事し、熾烈な戦いを勝ち上がってきた実力者である場合が殆どです。
その一方で、日本側の外交交渉の担当者は、外務省の課長・局長級の職業官僚であり、言わば、民間での社会経験が皆無である交渉の素人であると言えるでしょう。
その勝負の結果は、考えるまでも無く、外交交渉の歴史を見れば解る通り、日本はコテンパンにやられてしまいました。
外交や国家間の交渉と言うのは、その結果次第で、国の命運を180度変えると言っても過言では無い程、重要と言えます。
これまでで言えば、半導体産業の日本からの消失や、将来的には、ガソリン車の国際的な締め出し等、その枚挙には暇がありません。
ですから、日本においても、国際的な交渉を有利に進め、日本企業に有利な国際ルールを作り上げる上でも、政治任用制によって、交渉力が高い民間人を、担当者に据える事は、必須だと言えるでしょう。
②報道官
現在、日本の官邸の報道官は、官房長官が担っております。
ですが、報道のプロとして考えれば、他にも、もっと適任である女性キャスターや男性キャスターが山程いるはずです。
実際、アメリカにおいては、Kayleigh McEnany報道官やJen Psaki報道官と言うような、若い女性が起用されており、実際の会見を見ても、あらゆる質問にハキハキと答えており、政府の信頼性の高さがあるとの印象を受けました。
やはり、国民の信頼を得たり、国際的な信用を得るためには、若くて、ハキハキと応答が出来る、女性キャスターのような報道官が適任だと考えます。
そのためにも、国会議員や官僚達から、適任者を探すのではなく、政治任用制によって、民間から女性キャスター等の適任者を探すべきだと考えます。
3.最低限事務次官ポストだけは政治任用制にすべき
現在の日本の官僚制度の概要としては、上記の画像にある通り、大臣~大臣政務官までが、政治任用制であり、事務次官以下は、資格任用制の採用が成されております。
そして、以前申し上げましたが、事務次官ポストは、事実上の名誉職と化していると言う現状があるようです。
なので、実質的に何の役割も持たぬ名誉職になるのであれば、民間から事務次官ポストの人材を起用し、政策実行と組織の監査の両側面において、民間人による監視を実施すべきでしょう。
4.透明性の向上の観点から
前章で述べた通り、民間人が、"首相の意図に沿って、政策をちゃんと実行しているか?"という事を確認する事、つまり、政策の実施の有無について、監督を行う事は勿論重要です。
ですが、それ以上に、汚職・賄賂・斡旋の有無を確認するような、組織の監査という役割の必要性は、今後大幅に向上すると思います。
何故なら、これまでの自民党政権は、増税を繰り返し、"大きな政府"を目指しており、政府の肥大化に伴い、汚職や賄賂の危険性は向上するからです。
現在の官僚組織でも、グレーゾーンの汚職である天下りが横行しております。
天下りと言うのは、実質的に何の仕事をしなくとも高い報酬を貰えたり、数年間在籍するだけで、退任時に6000万円程の退職金が貰えたりする慣行の事です。
そして、今後、政府の予算が拡大し、政府の権限が大きくなれば、天下りの加速は勿論、その他の汚職についても、発生の危険性が上昇してしまう事は明らかだと言えます。
ですから、そういうった官僚組織の不正を監視する意味においても、政治任用制は、大変有用であると、考えられるわけです。
まとめ.
ただ、基本的には、組織というのは、トップの人間次第で全てが決まると言っても過言ではありません。
ですから、自民党政権である内は、政治任用制を導入したとしても、大して政治成果は上げられない可能性は高いです。
しかし、アメリカで言えば、トランプ政権の時、影の大統領と呼ばれたスティーブン・バノンのような優秀な民間人に、実質的に、実務のほぼ全てを任せ、上手く行けば、高い政治結果を出す事が出来る可能性もあるでしょう。
そして、別に、全ての上級ポストを、全部民間人にすべきだと言ってる訳ではありません。
現状、官僚内人事のままで、各省庁は上手く機能している事は事実ですから、あくまでも、首相の新たな手札として、民間人からも、最適な人材を確保できるという事が重要なんです。
ですから、政治任用制を導入したとしても、現行通り、官僚組織の内部に適任者がいるのであれば、そのポストについては、現状維持をすべきでしょう。
また、政治任用制を導入すれば、現在の日本の政治任用制の風習についても変える事が出来ると思っております。
現在の国務大臣から政務官までの人事は、各専門的なキャリアを積んだプロフェッショナルを起用すると言うより、各国会議員や派閥に、内閣総理大臣に就任させて貰った見返りとして、役職報酬を斡旋ような、言わば、大臣職のパス回しが行われる風潮があります。
ですから、専門的知識を持っていたり、そういうキャリアを積んだ人材が大臣に据えられる事も無く、更には、数ヶ月で大臣がコロコロ変わってしまうような、国際的信用を損なうような事も起きてる訳です。
なので、日本における政治改革を大きく進めるためにも、是非、政治任用制を徹底活用すべきだと考えます。
おまけ.主要各国の幹部公務員採用制度
「官僚たちの冬 ~霞が関復活の処方箋~」によると、フランスやドイツも、局長クラス以上の幹部公務員については、政治任用制での採用をしているようです。
また、ニュージーランドでは、政治任用制ではないものの、審議官クラス以上については、公募制を導入しているようです。
政治任用制で無くとも、公募制にする事で、政治的な任用を防ぐ事も出来て、その上で、各界の専門家を、各省庁のトップに据える事が出来ます。
特に、政治任用制については、アメリカにおいても、"大統領当選に貢献した者達を情実採用している"との批判もありますので、各分野のプロフェッショナルを民間人から起用するという趣旨に逸れた情実人事を防ぐ点においては、公募制も、有用だと考えられます。
参考文献.
・アメリカの政治任用制度――国際公共システムとしての再評価
・官僚たちの冬 ~霞が関復活の処方箋~(小学館新書)