「0.5」という数字は何を指すか?(金利における単位)
住宅ローンを借り入れたいと思い近場の銀行窓口に赴いたとしよう。そして「今の金利は0.5です」と行員から説明を受けたら、「金利は0.5%なんだな」ということが文脈で判断できる。一方でシステムのインプット/アウトプットにおける「金利:0.5」とは何を意味するのだろうか。
約定した住宅ローンの金利を銀行員がシステムに入力するとき、「金利」欄にはどんな数値を入れればよいだろうか?システムから出力されたデータの「金利」欄にある「0.5」という数字は何を表しているのだろうか?
結論
人間は「%」と「bps」という単位を用いる
システムやDBでは「%」と「bps」に加えて絶対値も扱う
インプットするときの単位は「%」か「bps」かよく確認すべし
システムアウトプットはどの単位なのかをよく確認すべし
ゼロ金利は「絶対値」「%」「bps」のレベル/境界を曖昧にした
絶対値 : 0.5
ここでいう絶対値は数学的な$${ |-10| =10 }$$というプラスマイナス符号を無視することや距離(ノルム)ではない。本稿では、以下で触れるような単位がついていない純粋な数値そのものを便宜上こう呼ぶことにする。
絶対値は数値計算する際には登場するものの、会話やドキュメントに登場することは少ないため正式な呼称やそのコンセンサスはないように思える。
計算例
「金利:0.5」が絶対数を表していた場合、ローン100百万円の1年間の利息計算は以下のとおりとなる。なお日数計算などは省略する。
$$
50,000,000 = 100,000,000 \times 0.5
$$
パーセント : 0.5%
% : percent は文字通り100分の1を表す。0.01という小数点の数字を「%」といった単位による変換することで、人間が認識しやすい扱いやすい自然数で表現することに意義がある。
一般的なローンや預金などの金利はこの「%」で表現されている。冒頭の窓口での会話では、この文脈に従って「金利:0.5%」と理解されている。
なお、一般的な文脈ではパーセントとは暗に「比率」を前提とされている場面が多い。今年の売上は前年比120%の好成績だ、など。金利の文脈ではパーセントは比率ではなく0.01という数字を表現するために用いる。加えて○○金利が前年比95%となったといった表現は基本的に行われないことにも注意を要する。
計算例
「金利:0.5」がパーセントを表している場合、ローン100百万円の1年間の利息計算は以下のとおりとなる。
$$
\begin{array}{lcl}
500,000
&=& 100,000,000 \times 0.5 \% \\
&=& 100,000,000 \times 0.005
\end{array}
$$
ベーシスポイント : 0.5bps
bp, bps : basis point は10000分の1を表す。1%を更に1%した形で理解され、例えば 3bps = 0.03% = 0.00003 ということになる。「bps」は「%」と同じく小さい数値を表す単位として金融、とりわけ金利の分野で広く使われている。絶対数でみると非常に細かく、ゼロの数を見間違えやすいことが想像される。「0.3bps」と「3bps」を見間違えることは少ないだろうが、「0.000003」と「0.00003」を見間違えることなく即座に処理できる自信は筆者にはない。
計算例
「金利:0.5」がベーシスポイントを表している場合、ローン100百万円の1年間の利息計算は以下のとおりとなる。
$$
\begin{array}{lcl}
5,000
&=& 100,000,000 \times 0.5 bps \\
&=& 100,000,000 \times 0.005 \% \\
&=& 100,000,000 \times 0.00005
\end{array}
$$
(補足)馴染みのないベーシスポイント
ベーシスポイントという表記は普段の生活でお目にかかることはほぼない。債券などの金利変動やデリバティブの分野では日常的に用いられる。例えば日本国債10年の年利回り(以下、10年国債)が前日比0.6bps下がったなどという。これは10年国債の指標そのものの数字が0.006%(つまり0.00006)だけ下がったことを意味する。日経225が800円下がったといった表示と同等である。
金利や利回りの変動だけではなく、変動する金利に加減算するスプレッドなどの多くはbpsで表示されることが多い。身近な例では住宅ローンを変動金利で借り入れたときに適用されうる優遇幅などだろうか。変動する金利として基準金利(店頭金利)があり、そこから優遇幅分だけ金利が下がる。この下げ幅が25bpsとすると、これは基準金利から0.25%を引いた値が実際に利息計算に用いられることを意味する。もし顧客に提示される際には「0.25%」で表示されると思われるが、金融機関側での諸々の管理ではbps単位で行っていることが多い。
単位表示が省略された結果
下表では太字の$${ \mathbf{0.5} }$$という数字が左上から右下に向かって並んでいる。これは各単位での「0.5」は、他の単位では幾らなのかを一覧化している。単位の省略は日常的に起きるが、お互いに共通認識がないと100倍、10000倍もの違いが発生してしまうことになる。
$$
\begin{array}{l:lll}
絶対値 & \mathbf{0.5} & 0.005 & 0.00005 \\
パーセント & 50\% & \mathbf{0.5} \% & 0.005\% \\
ベーシスポイント & 5000bps & 50bps & \mathbf{0.5} bps \\
\end{array}
$$
人間は絶対値で扱いたくない
上記の計算例たちを見て分かるとおり、具体的な計算を行うためには絶対値によって行われている。一方で「%」や「bps」といったものは人間が見て扱いやすくするために存在している。計算するシステム内部では絶対値しか用いないけれども、システムへ入力するのは人間であり出力されたものを見るのも人間である。
インプットは「%」や「bps」単位
人間の入力が一貫した単位で行われていれば、システムでは入力された数値は自動的に100や10000で割ることで絶対値を得ることができる。そのため、入力を行うUI (User Interface)やウィザードには「(%)」「(bps)」といった表示がされ、単位が定められているはずである。
冒頭の例で銀行員が約定したローン金利を入力する場合、UIにある金利入力欄には「(%)」の表示があり、「0.5」という数字を入力することになる。ここでもし「0.5%ということは・・0.005だ!」と思い入力欄に「0.005」を入れたらどうなるかというと、システムは0.005% = 0.00005が入力されたものとして処理され、計算される利息が100分の1になってしまう。単位を間違えて入力するというのは典型的な事務過誤だ。入力者はどのような単位で入力するかには注意が必要であり、またシステムUI設計にあたってはユーザが入力する単位を指定し表示すべきであろう。
逆に住宅ローンの優遇幅のようなスプレッド系の入力欄は「(bps)」表示となっていることもある。この場合、優遇幅が0.5%であったときは「0.5」ではなく「50」を入力しなければならない。
なお入力単位が「%」「bps」どちらなのかは業界標準や規制があるわけではないと理解している。扱う商品の性質やシステム構築時における金利水準、システムベンダのテンプレートなどに依存して決まったのだと考えられる。
一般顧客向けの商品であれば普段から「%」を用いているから、入力も「%」とするのは自然である。一方で、スプレッドのように「bps」を用いることもあれば、引き続き「%」で入力を要するシステムもある。
アウトプットの単位は何?
出力に関しては色々と悩ましい。「アウトプットの単位は何?」は心の叫びでもある。ここでいうアウトプットは主にデータベースからクエリなどを経由したり、別部署や別会社から人づてで取得したものを想定している。
アウトプットの項目の仕様が分からない。これが往々にして発生する。システム内では絶対値・%・bps いずれで保持していてもおかしくない。例えば項目に「kinri」なるものがあった。項目名的には日本円の金利に関係するものだろう・・だがドキュメントがない、分かる人間は退職済み、調査する時間もない。出力されている数値から逆に項目の仕様を推測しなければならないとき、その数値の水準感は"本来であれば"非常に有益なヒントとなるはずである。
ゼロ金利/マイナス金利の意外な弊害
代表的な金利指標の話題として、例えばアメリカの金利の文脈で「4.8」と出てきたら十中八九「%」であろうと推測される。過去のLIBORやSOFRやFF金利、社債利回りなどいずれもこのような水準感が出てくる。
では日本の金利で「0.02」と出てきたらどうだろうか。
絶対値:0.02 = 2% であろうか。日本国債30年金利などならあり得る水準だ。住宅ローン基準金利や固定金利としてもあるかもしれない。
パーセント:0.02% であろうか。TONAや過去のLIBOR、各種TIBORでもありうる。加えてデリバティブなどのスプレッドとしても十分にありうる。
ベーシスポイント:0.02bps = 0.0002% であろうか。メガバンクの普通預金金利が 0.001% = 0.1bps であったことを考えると、金利そのもののである可能性を捨てきれない。デリバティブなどのスプレッドの可能性も濃厚だ。
ゼロ金利/マイナス金利のもとでは日本円の各種金利が 0% 近傍で微小な変動しかしなくなった。取引のレベル感が極めて小さくなったため、絶対値・%・bps というそれぞれ100倍も異なるはずの数字たちが区別がつかないケースが発生してしまった。
限定的な状況だが、現場レベルにおいてゼロ金利政策たちによって意外な弊害が発生したことを記録しておく。
本稿時点ではマイナス金利やゼロ金利政策からの脱却が進んでいるため、当時の状況を知らない方が増えてくるだろう。だがヒストリカルデータでは依然としてこのような数値が記録されているため、過去の常識を知らないと不可思議に思うことになる。今の我々がバブル期の預金金利を見て仰天するのと同じように、ゼロ金利やマイナス金利というのは仰天に値する事態であったのだ。
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