ホロロギ

北海道出身のゲームクリエイター志望。シナリオ担当。デジタルイラストは趣味程度に。

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マガジン

  • 創作物の陳列棚

    短編小説、コミックエッセイなどです。「この人、普段どんなの作っとるんだ?」と思われたら、是非覗いていってください。

最近の記事

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短編小説「グズの男」

これは、後から聞いた話だ。 俺も、そいつの身の上については、何も知らなかったよ。だって、ろくに会話したことなかったもの。 あるとしたら、そいつが俺の店にやって来て、一番安いラーメンを注文する時だけ。食って、会計して立ち去るまで、雑談なんかする余裕なんかない。こっちも、住宅地の真っただ中にある食堂とはいえ、仕事帰りの若いやつらが、そこそこやって来る。一人で営んでいるんだから、客と話しているゆとりなんか、これっぽっちもありはしないよ。 そいつを見た限り、いつもげっそりした顔で、

    • 「こんなの自分でも書ける」って本当?

      とある小説投稿サイトのアカウントを作った。 ウェブ小説というもの自体初めてで、右も左もわからない状態。 試しに作品を投稿してみたものの、まったく読んでもらえない。 早々に心が折れそうになっていた。 弱っている時は、昔の嫌なことが芋づる式に思い出される。 「こんな文章、俺でも書ける」 書きかけのゲームシナリオを、かつての仲間に読んでもらった時に言われた。 面と向かって言われたのではない。だいぶ後になってから、相棒から聞かされた。相棒が私の耳に入らないよう、配慮してくれたのだ

      • 創作者のイマジナリー・エネミー

        自分が本当は何を書きたいのか、最近ずっと考えている。 自問自答してみても、自分が自分に嘘を吐いてくることもある。 自分の心の声を聴くことは、おもいのほか難しい。 イラストレーター志望の相棒も、最近ずっとモヤモヤしていた。 絵を描くのが楽しくない。そもそも楽しいと思ったことが一度もない。 かといって、他に何をしたらいいかわからない。 何も楽しくない。原因が何なのかも、判然としない。 だから、相棒の心の声を聴いてみてほしいと、私に頼んできた。 私は心理カウンセリングの知識など

        • デジタル絵本「いごこち いいとこ」

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        短編小説「グズの男」

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          9本

        記事

          短編小説「あの岸へ」

          晴れ渡っていたはずだった。淡く青く澄んでいた空は、どんよりとした暗い雲に塞がれることが前よりも多くなった。雨を降らす雲ではない。緞帳(どんちょう)のような雲。悲しいお芝居に幕を下ろす、厚く重い雲。 終わりなんて、悲しくない。何事も終わるもんだろう、と斜に構える心地だ。今まで私は幸せばかりではなかったし、幸せも不幸せもいつまでも続きはしないもの。終わりの兆しが見え始めると、むしろ終わりというのは案外、礼儀正しいやつなんだと見直したくなるくらいだ。 この近くに水があるのか、涼

          短編小説「あの岸へ」

          笑うツボが他の人と違うだとか

          野村万作・萬斎の狂言を観に行ったことがある。 始めに少しだけ狂言について解説があった。狂言をよく知らない人にも楽しめるよう、予備知識を授けてくれた。 それまで狂言というものが、もっと高尚で畏まった伝統芸能かと思っていたのだが、そんなことはなかった。時代を超えた面白さに、劇場は幾度も爆笑に包まれた。 先日、私にギャグ小説が書けるかどうか、相棒と雑談をしていた。 以前noteにも投稿した短編小説を、知り合いに見せたところ「もっと笑いが欲しい」という感想をもらった。内容が生真面目

          笑うツボが他の人と違うだとか

          ぶっ飛んだ人のブレインストーム

          私はかつて「一人で会議をする」ということを、しばしば行っていた。 と言っても、ただノートなどに考えを書きなぐっていくわけではない。 脳みその中にクリエイティブな会社があると想定し、何人かの社員で、特定の議題について意見を出させるのだ。 現実的で、会議のまとめ役を務めてくれる社員。 感覚的でありながら面白いことに目がない社員。 メルヘンやファンタジーに詳しい社員。 そんな編成で、アイディアを洗練させていく。 自画自賛になるが、社員たちが意外と優秀で、私一人きりで考えている時よ

          ぶっ飛んだ人のブレインストーム

          短編小説「グッドラック」

          ガソリンの準備はできている。 ライターは、さっきコンビニで買った。 包丁は、三徳と刺身用が一本ずつ。念のため、ハサミとカミソリも家から持ってきた。どっちも、糊やら髭やらがこびりついて、刃はギトギトだ。だが柔らかいものを切るくらい、造作もないだろう。俺の首の皮さえ切れれば、それでいいのだ。 駅の改札を通る時は、さすがに緊張した。駅員に気づかれたらご破算だ。ホームでのんきに電車を待つ、サラリーマンやおばさん、女子高生たちも、みんな自分のスマホの画面に釘付けになっている。俺のこと

          短編小説「グッドラック」

          魂を削って作品を作る・後編

          画像生成AIの登場で、イラストレーター志望だった相棒は、すっかり未来を悲観するようになってしまった。 相棒が尊敬するプロのイラストレーターの作品が、とうとう画像生成AIに学習されたらしい。ネットに模造品が出回り始めたのだ。 そのアーティストが、長い年月と努力の末に生み出した、特有の美しい画風なのに、簡単に学習されて量産されてしまう。 こんなことが起きていると、のびのびと創作することができず、不安でいっぱいになってしまうものだろう。 それなのに、SNSでは理解を得られない。

          魂を削って作品を作る・後編

          魂を削って作品を作る・前編

          私は今まで、さまざまなジャンルの文芸に挑戦してきた。 中でも、ものすごい力の入れ具合だった作品がある。 生き急いでいる少年を主人公とする、ライトノベルだった。 作品制作にあたり、数ヶ月間、図書館に通い詰めた。 あれこれ資料を渉猟した。分厚い本も臆せず読み、必要なら大型の本でも、リュックに入れて借りて帰って読んだ。 たった一語を調べるために、英和、和英、英英辞典を何度も行ったり来たりした。異常なまでの言葉へのこだわりがあり、納得できるまで調べた。 書き留めた情報は、キャンパス

          魂を削って作品を作る・前編

          パンを買うお金で物語を買ったら

          私が二十歳くらいの頃、身の回りの友人ったちは、誰も小説の価値を知らなかったように思う。 ライトノベルや純文学を書いたことのある人は、ちらほらいた。 だが、たいていは「副業にしたくて書いてます」という人や、作品を読んでみても理解できないのに、相手が文学賞を取ったとわかった途端に、その作品を褒める人などだった。 高い志を持っていたり、純粋に楽しもうと望んだりして書いているは、およそ見当たらなかった。お金や名誉のために書いている人ばかり目についた。 今は、小説を気軽に発表できるプ

          パンを買うお金で物語を買ったら

          最近なにか書いてる?

          年配の男性の同僚に、世間話をしていたついでに「最近、何か小説書いてる?」と訊かれた。 彼には、私がnoteに投稿した短編小説「グズの男」を、投稿前に読んでもらったことがあった。 私は「どこか気になるところ、あります?」と、小説を読んでもらった折に、その男性に聞いた。 彼は、「どこかあった気がするけど……」と言いながら、慣れていないふうに、パソコンの画面をスクロールしていた。 結局、気になるところというのは思い出してもらうことはできなかった。 私は今一度、自分で推敲し、投稿ボ

          最近なにか書いてる?

          夢も希望もなくても次はある

          私と相棒の間には、共通の友人が数人いる。 その中に、一時期一緒にゲームを作ろうと、サークルを結成した人物がいる。 去年のことだったか、いろいろな理由で、そのゲーム制作のサークルを解散した。 その後、その人がどうしているか、私は相棒に尋ねた。 すると相棒は「あいつはダメです」と呆れたふうに返してきた。 その人は、まだ二十代の若者だった。誰が見ても、人生はこれからと言えた。いろいろなことに挑戦できるし、まだまだ経験を積んだ方がいい年齢でもある。頭もいいし知識もあるという話だった

          夢も希望もなくても次はある

          「最愛カスタマイズ」第3話

          シーン1 住宅街(夕) 閑静な住宅地のただなか、一人で家路をたどる、無表情の最愛。 その後を追う不審者。正体は、春日ソフトウェアの社員で、戦闘アプリの開発担当者の間渕。 間渕「最愛ちゃん」 話しかけられ、振り返る最愛。 最愛「間渕さん」 黒っぽい服装の間渕が、やや離れたところに立っている。穏やかな微笑を浮かべている。 間渕「久しぶり」 最愛「どうしたんですか?」 間渕「社長からのお達しでね。君から、戦闘アプリの入ったガジェットを回収してほしいって。急ぎだそうだから

          「最愛カスタマイズ」第3話

          「最愛カスタマイズ」第2話

          シーン1 春日家(夕) 四月下旬の某日。 最愛の父親・小太郎が帰宅する。春日家のリビングのドアを開け、小太郎がスーツ姿でバッグを提げて現れる。 小太郎「ただいまー……」 ドアを後ろ手に閉める小太郎の前に、立ちはだかる人影。 部屋着姿の最愛が、いきなり小太郎の正面から、片手をついて凄む。 最愛「パパ、私に言うことあるよね?」 小太郎「えっ? えっ? なに怒ってるの?」 バッグを抱きしめて、徐々に腰を落とす小太郎。 暗い笑顔を浮かべて迫る最愛。 最愛「パパの戦闘アプリ

          「最愛カスタマイズ」第2話

          「最愛カスタマイズ」第1話

          《本編》 シーン1 私立古手川学院高校一年一組の教室(昼) 四月中旬、某日。 机についている最愛の手元。数本のドライバーを駆使し、ガジェットの蓋を開けて、調整をしている。 最愛M(モノローグ)『カスタマイズは、私の人生で最も大事なこと。ずっと愛せるものに囲まれていたいから』 完成したガジェットを掲げて、席を立ちあがる最愛。 最愛「できたー!」 静まり返る教室。黒板には「研究発表」の文字。 黒板消しを片手に、発表中だった菊正が、教壇に立ち尽くしている。 恩田先生や生

          「最愛カスタマイズ」第1話