この花の香り、だれを呼ぶ??|あぶらやま植物ブログ⑥
みなさん、こんにちは。
新緑がまぶしい季節になりました。
森の中を歩いていると、その時期その時期でいろんな香りに包まれることがあります。
例えばゴールデンウィークの時には、日中ホオノキの甘い香りとシイノキ独特のむんとしたにおいが森中に立ち込めていました。
そしてここ最近、業務を終えて自然観察センターを出る時、決まって甘い香りがしてくるのです。「ん?まだホオノキが咲いてる?いや違う。」
数日、ハテナが飛び交っていましたが、ようやくその香りの正体が分かりました。
スイカズラとテイカカズラです。
彼らは日中にも開花しているので、私はてっきり朝に咲くものだと思っていました。ですが、実は夕方から咲き始めるお花たちとのこと。
ちょうど咲き始めで香りが強い時間帯に遭遇していたというわけです。
花はどうしていい香りがするの?
前回のブログでは「花の色」について書きました。そこでも触れていますが、色同様「花の香り(におい)」は、昆虫たちを呼び寄せる大事なツールとなります。
ただざっくり「昆虫」といっても、昆虫類はこの地球で最も種数が多い生き物。多種多様な昆虫が存在します。植物たちはその中から自分の送粉、受粉に都合の良い昆虫を自身の花の色、香り、形、そして蜜の量でいわば狙い撃ちして呼び寄せています。
今回は多様な「花の香り」がどんな昆虫たちを呼んでいるのか、ちょこっと深堀りしてご紹介したいと思います。
◆ヒトにとってもよい香り、「芳香」を放つお花
スイカズラやテイカカズラのような①よい香りがする、かつ②夕方から咲く③白色、淡い黄色、もしくは淡い紅色の花たちは【夜間に活動するスズメガ類】をターゲットにしているといわれています。
暗い森の中、まずは香りでその存在を気づいてもらい、近づくと浮かび上がってくる白色の花で、ここにおいで!と呼び込む作戦です。
これから咲くカラスウリやクサギも同じ作戦をとっています。
カラスウリは朝にはしぼんでしまいますが、スイカズラたちはそのまま日中も開花しています。日中スイカズラにはハナバチが、クサギにはアゲハチョウがよく来ています。
一方、昼間によい香りを放つホオノキのターゲットは主にハナムグリなどの【甲虫類】。ハナカミキリたちも来るようです。ハナバチも訪れますが、ホオノキの送粉者としてはあまり機能していないという研究結果が出ています。
◆生臭いにおいのお花は誰を呼ぶ?
冒頭にお話ししたシイ類の花は、ヒトからするとよい香りと言い難い、むっとするような生臭いにおいです。これらに寄って来るのは【甲虫やハナアブ類】。
◆悪臭で呼びたい昆虫は?
生臭いを超越して、もはや悪臭の領域のお花たちも存在します。
植物学者の田中肇さんの表現だと「トイレのにおい」・・・。
そこまでのにおいのお花は油山では思い当たりませんが、初春に先駆けて咲くヒサカキの花はガス臭がして、臭いっちゃ臭いです。
そしてこのお花には【ハナアブやハエ類】がやってきます。
◆無臭の花は??
中には全く香りのないお花もあります。
ウツボグサなどの紫系統やツツジなどの赤系統のお花はにおいを感じられないものが多いそうです。
前者は【ハナバチ媒花】、後者は【チョウ媒花】。
田中肇先生によると「ヒトと昆虫との感覚器の違いから匂いを感じられないのかも知れないが、ハナバチやチョウは視覚で花の存在を感知する能力が高いため、花は強く匂わないものと考えられる。」とのこと。
呼びたい昆虫によっては香りはさほど重要でない場合もあるようです。
その香りどこから香る??
ちなみにお花の香りって、そもそもどこから出ているのでしょうか?
蜜から?花粉のついてるおしべから??それとも???
「花の香りの秘密」という本では「香り成分が合成される主要な場所は、花弁の表皮細胞です」とあります。
花弁、つまり花びらが香るものが多いようです。
香りがするお花に出会ったら、ぜひ花びらをクンクンしてみてください。
さて、今回は「花の香り」についてご紹介しました。
ですが花ではなく、葉っぱが香る(におう)植物も結構います。そしてその香りは花とは全く違う目的だったりします。それはまた今度、どこかのタイミングでご紹介できたらなと思います。
さあ!森はもう初夏モード。
これからやってくる夏も、その後の秋も、香りが楽しめるお花たちが登場してきます。ぜひクンクンしながらの森さんぽをお楽しみください♪
参考文献:
田中肇氏「花の色香」ミツバチ科学
渡辺修治氏、大久保直美氏「花の香りの秘密」フレグランスジャーナル社
ビル・S・ハンソン氏「匂いが命を決める」亜紀書房
文・写真:ABURAYAMA FUKUOKA自然観察センター 土屋志乃
※ヒサカキは写真AC
ABURAYAMA FUKUOKA 自然観察センター
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