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開かない花もある|あぶらやま植物ブログ⑪
皆さん、こんにちは。
朝晩ちょっと冷えるようになってきたものの、例年に比べるとずいぶん暖かい日が続いていますね。
この時期になってくると、春先や夏、初秋のように連日いろんな花が咲き始めるということはなく、ごく限られた種が開花時期を迎えます。
そのひとつが「キッコウハグマ」というお花です。
こちら直径1㎝ほどの白い花で、普通に周回路をお散歩していたら気づかないくらいの大きさ!
ちょっと試してみましょうか。
周回路を歩いてると見える景色はこんな感じ。
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皆さん、何枚目で見つけられましたか?
実際もこんな感じで、足を止め、近づいて・・・・発見!となります。
そしてじっくり観察すると、なんと!花びらがくるりんしてます♪かわいいですねぇ。
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ただ、このキッコウハグマ。常連さんたちは「今年はお花が咲いてないね」と言われる方が多いです。
実際に昨年一昨年に群生していた場所を見てきました。
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でもよーく見てみると、キッコウハグマの葉っぱはたくさんあります。
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そして上からだと分かりませんが、横から見ると葉っぱだけでなく茎が出ており、つぼみのようなものがあるのも確認できます。
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中には、咲いてないのにすでに結実して綿毛になっているものもいました。
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実はキッコウハグマは2種類の花を咲かせることで知られています。
ひとつは花びらをつけて開花し虫に送粉受粉をゆだねる、いわゆる一般的な花(開放花)、そしてもうひとつがつぼみのままで自分の花粉を受粉する閉鎖花です。
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本当であれば虫に来てもらって他の花の花粉を受粉できるのがベスト。
でもキッコウハグマが咲く時期は、虫たちがぐっと減る季節でもあります。万が一虫が来てくれなかったら子孫を残せない…それはあまりにもリスクが高すぎる!!!ならば…ならば自分の花粉を受粉して種子を作ってしまおう!からの閉鎖花!
こんなちいさな植物にそんな強さがあるなんて。本当に驚かされます。
ちなみにキッコウハグマのように閉鎖花をつける植物は56科287種ととても少数で、多くの花は開放花のみで勝負しています。
2018年帝京科学大学でキッコウハグマの開放花と閉鎖花の実態について調査をされた結果がとても興味深いです。
それによるとキッコウハグマは
①開放花のみつけるもの
②開放花と閉鎖花、両方つけるもの
③閉鎖花のみつけるもの
の3種が存在するそうです。
さらに分かったのが、開放花は閉鎖花の1割程度しか付かず、かつ結実の割合も閉鎖花は8割程度と高確率なのに対し、開放花は2割程度に留まる、とのこと。つまり「キッコウハグマはその繁殖の大部分を閉鎖花に依存していると考えられる」そうです。
それでも開放花をつけるのはやはり近親交配のみでは遺伝子的に弱くなるから。わずかな可能性にかけて、というところでしょうか。
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話はちょっと戻りますが、今年の油山、キッコウハグマは花が少ないというより「閉鎖花が多い」と言えそうです。
夏の暑さ?雨の少なさ?それとももっと別の理由?
何故なのかは分かりませんが、今年のキッコウハグマたちの多くは確実に受粉できる道のみを選んだのでしょう。
でも叶うならば来年は、あの可憐なお花がたくさん咲いている姿を眺めたいな、と思うスタッフなのでした。
参考・引用:
「キッコウハグマにおける開放花と閉鎖花形成の実態」2018帝京科学大学 赤川未里氏、岩瀬剛二氏
文・写真:土屋志乃(ABURAYAMA FUKUOKA自然観察センター)
ABURAYAMA FUKUOKA 自然観察センター
福岡市油山にすむ生きものの標本や季節の展示、最新の自然情報発信を行っています。各専門スタッフが交代で常駐していますので、自然・生きものの困り事はお気軽にご相談ください。
開館時間 9:00~16:30
休館日 毎週水曜日(祝日の場合翌平日)
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