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ho-sai

咳をしても一人

私はこの句が好きだ。
美しいものをみた時の間隙に、するりとさし入るほどに好きなのだ。
はじまりはTVに触発されて詩歌をたのしむようになり、より良いものを作らんと手本をあさる。そんな尾崎放哉の名も知らぬころ。なんだこれは、とよく分らぬぐあいで私の海馬に沈思したのが出会い。
それから自作の詩歌が100をこえ。幾分か、詩作への肩の力の抜けて。放哉の晩年をしる機会にこの句は私のなかで完成した。
独白であり、状態であり、台詞でもある。3文字のかたまりを3つの節でくぎり、1つの節をよみ進める度に節のひびきが重なりあって、3拍子のワルツのように、情景のなかをリフレインしていく。
静謐な室で――白白と障子戸をぬける陽あかりはとどかぬ四隅を青暗くしずめて――床から身をおこす放哉。
老境に、長年の孤独と緊密なしたしみから漏れでたおもい。
以来、海馬をうかぶ浮きは夜を照らす月となった。

そんな放哉の断片をかり、まこと勝手で、ちょこざいではあるが返句を送ろうと思う。

しんしんと耳鳴りの降らる

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