壮大な空に
1日の内のふとした時間。
ふいに空を見る。
ボンヤリと空を眺める。
寒空に浮かぶ薄い雲。
ほのかに青みがかった空。
柔らかな陽差し。
寒くはあるが冬の終わりを感じさせてくれるような空模様。
外で眺めても、家の中から眺めても、視線を上げて空を眺めるというのは心に少しばかりの余裕を与えてくれ、束の間の空白を約束してくれる。
空は全てで、万物に平等。
広大でいて壮大。
鮮やかでいてくすんだ様子もおくびを隠さずさらけ出す。
空模様が笑っていようが、泣いていようがお構いなしだ。
四季を重ね、多様な表情を見せる空は、人の辿る春夏秋冬を具現化したかのような語り口で流れていく。
水平線上に
地平線上に
全てに空は存在し
全ての人々が空のもと、暮らしていく。
何を思い
何を考え
どのように暮らし
どのように歳月を重ねていくのか。
空はその様子を飽きることなく見続け、人々は空を見上げる。
時に太陽を
時に星空を
その一瞬の時を空と一緒に過ごしていく。
空を眺め、何を考え、何を思うのか。
悠久の流れと共に、歳月は流れていく。
同じ空の下、故郷では今頃家族や親しかった友人達は何をしているのだろうと心に浮かぶ。
同じ空を見て何を考えているのだろう。
元気にしているのだろうか。
思考に浮かんできた念に浸ったところでどうと言う事はないのだが、空を眺めていると不思議と故郷と在りし日の事を思い浮かべる。
それも空は全てと繋がっているという事が大きく関係しているのだろう。
一人で空を眺めているようでいて、その意識から流れる思考と時間は全てが繋がっており、空は感知してくれ、人の歩みを内に外にと歩ませてくれる。
仰ぎため息をつきたくなるような空の下で、彩られた景色を闊歩する季節がもうじき訪れようとしている。
季節が巡る。
それは人の人生のように。
空は何を訴えかけ、人は一体何を考え生きていくのか。
その歩みは空に投影され、想起させる。
そう、空…ということで
「カウンシル・スカイズ」
英国公営住宅団地(カウンシル・エステート)の上に見える空のことを指す言葉。
昨年六月に発売されたノエル・ギャラガーのソロ・プロジェクト、「ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ」の通算四枚目のアルバム「カウンシル・スカイズ」。
故郷マンチェスターの公営住宅団地から見える空、カウンシル・スカイズを通じてノエル自身の過去と現在、未来を紡いだどこか浮遊感に満ちていて、時の流れや空間の中を歩んでいるように感じる作品。
ドリーミーに、サイケでいてアーシーなリズムも刻む。
聴いていて生まれる心地よさは、ノエル本人の時間に対する概念が非常にリラックスしたものなのかが伺え、そして故郷マンチェスターから見える「カウンシル・スカイズ」が現在のノエルに流れる全ての時間に繋がっているのかが分かる。
空から映る心と未来…。
アルバムタイトルと同じ題名の曲が七曲目の「カウンシル・スカイズ」である。
ノエルがカウンシル・スカイズを眺めて考えていたであろう、胸の内。
流れ星を見つけ、そこに最良の日を思い浮かべていたのであろうか。
その視線の先に見える空は特段何かを語りかけてくるわけではない。
宙に舞う思考はやがて空と混ざり合い、時間という基軸と混然一体となる。
考えても答えは見出だせない。
「決してやって来ない列車」とは一体何を指すのか?
もしくはそこに意味を見出すのが無粋な事かもしれない。
ただ、歌詞から「やって来ない列車」に対しての諦めのような感情は感じられない。
これから広がるであろう自らの未来の可能性に思いを巡らし、目線は流れ星を探している…。
次に進む歌詞。
ふるさとへの思いを感じる。
紆余曲折を経ての地元なのだろうか。
それは地元の空の下で蝶々を捕まえ、思いを「外側」に向けていた頃を懐かしく感じているのだろうか。
人生を歩んでいる最中にふと故郷を思い浮かべ在りし日の事を思い浮かべ、ここに至るまでの道のりを「ふるさとへの長い道のり」に想起させているのかもしれない。
歌詞は地元の団地で魔法のような出来事を信じつづけ、すべてを捧げている描写に続く。
そして団地の空の下で君を見つけたと記されている。
果たしてここで言う「君」とは人物のことを指すのか。
それともノエルの探し求めていた「夢」のようなものを指しているのか。
あえて人と比喩して「カウンシル・スカイズ」の世界を進めているのは、空に浮かんだ自らの思いのようなものも感じさせる。
人生がどう向かうのか分からない。
ただ勝つか負けるかのどっちかしかないとしている。
ここにノエルの人生の哲学みたいなものが伺える。
ふるさとの団地の空の下で、ノエルは「君」を見つけたのだ。
それはギフトとなるもの。
具体的には分からないが、生涯を一緒に歩んでいくことになるであろうものだ。
それはきっと「自分の才能」であり、その才能は「音楽」という名の「ふるさと」に通ずるはるかな道のりでもあったのであろう。
ノエルは「カウンシル・スカイズ」を通してそんな事を思い耽っていたのかもしれない。
曲はアップテンポに進み、パーカッションが効き、ストリングスやサクスフォンが空に漂う浮遊感を演出する。
カウンシル・スカイズに浮かぶ雲や、空に乗せた自らの意識を投影するかのようにリズミカルに曲は進み、歌うノエルの声は透き通るようでいて明るい。
昔の事を考え、故郷のその場所にいた頃に思いを乗せ、地続きに乗せた自らの時間は空の流れと共に流れていく。
足取りの軽いリズム感には懐古的になるわけでもない、これから先のこともそのリズムと歌声に込めているような気がする。
元・ザ・スミスのギタリストジョニー・マーもゲスト参加している中、ギター・ソロはなく返って時折響く、エレキの印象的なリフが浮遊感の中にタイトさを醸し、ロックのニュアンスを演出する。
故郷「カウンシル・スカイズ」に込めたノエルの思いを感じられる好きなナンバーだ。
空は広く、そしてどこまでも壮大だ。
そこに何かを見出さなくとも、きっと「カウンシル・スカイズ」は自分の生涯に、そしてこれからの青空の映える季節に必要なナンバーと思ったり。
好きな曲です。
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