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「ふつうの軽音部」を読んでください(直球)

この記事で言いたいこと

「ふつうの軽音部」を読んでください。
そのためにいっぱい魅力を語ります。

作品情報

原作・クワハリ、漫画・出内テツオによる連載漫画。2023年1月からジャンプ+にて毎週日曜日更新。

あらすじ

高校入学を機にクソ高いギターを買ったJK・鳩野ちひろは、かねてから念願していた軽音部に入部する。
初心者ながらもひたむきに努力を重ねロック道を追求するちひろの姿に魅せられた仲間がひとりまた一人と集い、ガールズバンド「はーとぶれいく」を結成する。

概要を説明する

「ガールズバンドもの」といえばアニメ・漫画でもひとつのジャンルとして認知されており、「けいおん!」や「BanG Dream!」「ぼっち・ざ・ろっく!」など超有名タイトルを輩出している分野である。

そのガールズバンド界隈に颯爽と現れた期待の新星が「ふつうの軽音部」である。
断言しよう、この作品は2~3年以内にアニメ化してけいおんバンドリぼざろに続く大ヒット作になる!

「ふつうの軽音部」の特徴

ガールズバンドものとひとくくりに言っても方向性は様々なので、ここでは「ふつうの軽音部」における特色を列挙する。

1,いわゆる「日常もの」よりも「部活もの」のカラーが強い。
スケジュール感的にはスポーツ漫画のそれに近く、学生生活という枠のなかで時間が進んでいき、先々に控えているイベントを踏まえ計画的に準備や練習をしていくのが基本的な進行となる。

2,コピーバンドをメインに扱っている。
高校生の部活バンドならある意味当然な話でリアリティのある設定ともいえるが、ガールズバンドものの作品はなんだかんだでオリジナル曲を投入する傾向が強く、コピー中心で展開するのはけっこう珍しいタイプではなかろうか?

この要素が「ふつうの軽音部」の特徴を決定づけていると言っても過言ではなく、「選曲」が作品構成上で重要な位置を占めている。
場面の状況やキャラの心情のメタファーとして既存の楽曲が起用され、読者はその曲を通して作中の出来事を深く共有できる仕掛けになっている。
作中で知らない曲が出てきたらYoutubeなどで公式MVを視聴してから読み直すと幸せになれるぞ!

3,群像劇としての側面もある。
ちひろが所属する軽音部はかなりの大所帯であり、部内バンドは確認できるだけでも10以上、全体ではおそらく20に及ぶだろう。(みんなわりと軽率に結成したり解散したりするので総数は絶えず変動している)
ストーリーの本筋はちひろのバンドと彼女たちを取り巻く人間模様(とバンドの動向)だが、部内でちょっと挨拶をかわすだけのキャラもいずれかのバンドでパートを受け持っており、意外なところで存在感を放ったり話に絡んできたりする。
そのささやかな織り重なりが作品全体の広がりと深みを形作っている。

作品の魅力を言っていく

私の思う「ふつうの軽音部」を魅力を余すところなく語っていきたい。

「ふつう」にガチなところ

この作品における「音楽」はなんら特別なものではないし、軽音部員たちの音楽にかける熱量も人によってまちまちである。
練習に身を入れず適当にやっているやつ、部内恋愛にうつつを抜かしているやつ、果ては恋愛のもつれからバンド解散したり退部するものまで出る始末で、「部員一丸となって大きな目標に邁進する」みたいなノリを期待すると肩透かしを食らうだろう。

主役格のキャラにしたって音楽をはじめた動機が「親の影響でなんとなく」だったり「異性の気を引くため」だったり、音楽との関わりに別段ドラマティックなものはない。

だが、それはこの作品が音楽をナメているということではない。むしろその逆で「私たちのそばにはいつも音楽がある」ということ(=音楽の普遍性)にめちゃくちゃ真摯に向き合っているのである。

それが如実に表れるのが、作品の見せ場のひとつとなる「ちひろの歌唱シーン」である。
作中の人物はそれぞれ心のなかにわだかまりを抱えている。端から見れば大したことないようなものでも、本人にとっては切実な問題であり、行き詰って前に進めなくなることもある。
そんなとき、ちひろの歌声を聞くことで彼女らの(彼らの)気持ちは少しだけ解きほぐされる。ちひろのひたむきさと熱意が伝わり、彼女ら(彼ら)の中にある音楽への思いが甦り、前に進む勇気を取り戻す。

それはちひろの歌声が特別だからということではなく、「ふつうの」歌が持ちうる本来の力なのである。
とても嫌なことがあって打ちのめされた日にチャリで街道沿いを爆走しながらデカい声で喚き散らすように歌ったときの、くたびれきったメンタルが音を立てて回復する感覚を私たちは知っている。

私たちはふつうに傷つき苦しみ絶望し、そしてふつうに歌によって救われていることをふつうに繰り返している──。
「ふつうの軽音部」の「ふつう」とは、そういう意味であるように思う。

丁寧で洗練された構成

原作者のクワハリ氏は、「ジャンプルーキー!」というジャンプ系の新人発掘サイト出身の作家である。「ふつうの軽音部」もここに掲載された原作に作画担当がついてジャンプ+で連載化された流れとなっている。

このルートで連載に至るということは間違いなく商業経験のないルーキーなんだろう(本人談によると同人経験もないらしい)が、ぶっちゃけそんなの信じられないくらい構成が巧みである。
百歩譲ってまっさらな経歴が本当でも、人生二週目か天狗が化けているかのどっちかだと思う。

具体的に言うとキャラの配置や動かし方に一切の無駄や淀みがない。
ちひろを中心としたガールズバンド「はーとぶれいく」結成に至るまで、心地のいいテンポで話が進むようにペース配分され、バンドメンバーもごちゃつかせず少しずつ投入してちひろとの接点を増やすように話が組み立てられている。

それだけにとどまらず、かなり先の展開まで見据えてちょいちょい伏線を散りばめる塩梅も絶妙で、続きへの期待がするっと刷り込まれてしまう。
上述の群像劇要素も併せて考えるに、クワハリ氏は相当に緻密なキャラ別タイムテーブルを用意してると思われる。

キャラを個性豊かに描く作画

クワハリ氏の完成度の高いシナリオを彩るのは出内テツオ氏の作画である。
出内氏といえば球場飯漫画の「野球場でいただきます」が代表作。

絵柄としてはクッキリした線と目力が特徴的で、「ふつうの軽音部」の作風とがっちりマッチしている。
ちひろの実直さや音楽へのストイックさを表現するには適切な線だし、目力の強さは感情を大事にしているこの作品において重要な位置を占めている。
また個性豊かにキャラを描き分けていることも特筆に値し、数コマ登場する程度の脇役ですらきっちり印象に残る造形をしている。

ちなみに私の最推しキャラは巽玲羽(たつみれいは)さんである。
出内氏の絵柄の強いところ(瞳孔が収縮しきったようなガンギマリ一歩手前の目力、豊かな髪量、八重歯、長い手足)がぎゅうぎゅうに詰め込まれたハイパーストロングガールだからである。

19話「大海を知る」より引用

邦ロックへの造詣の深さ

私自身は音楽に疎いので体系立てたことは言えないのだが、それでもクワハリ氏の選曲は絶妙で邦ロックへの知識の深さやセンスの鋭さを推察できる。
作中で扱われた曲を調べて聞くたびに「あ、これめっちゃ好き……」となる。今のところハズレなし。

特にちひろがバンドメンバーを引き入れるときに歌う曲のチョイスは神がかっており、キャラの背景や心情を的確に表現していてそれを聞きながら本編を読むときの没入感は凄まじいものがある。

とりあえずこんなところで!
この記事を読んで少しでも「ふつうの軽音部」が気になったかたはぜひ読んでみてください!

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