連載小説「まん・まる」 第三章 走って、踊って、歌って、そして。5
僕と谷っぺは、校庭のベンチに座って余韻に浸っている。
「楽しかったね」と僕がささやく。
「うん。いい思い出ができたね」と言った谷っぺ。みんなで歌ったフォークソングの感激で眼がうるんでいる。
僕たちの隣のベンチには、西川と奥村さんペアがいて何かささやき合っている。結構親密な感じで、でもあたりが暗くなってきて、二人の輪郭もいまはよく見えない。
何とはなく、からだがほてってくる。ファイヤーストームはだんだん下火になっているというのに。谷っぺの体温をすぐ横に感じて息が苦しくなってくる。鼓動が聞こえるくらいドキドキしてきた。
「ジェンカ」の歌詞がよみがえっていた。
僕のなかで、以前谷っぺに宣誓したこと(※1)を、守ろうとするこころともう守れないとするこころが闘っている。
気がつけば、谷っぺの顔が僕のすぐ前にあった。しかも、ゆっくり近づいている。動いているのは僕の方か。いいのか。谷っぺが目を閉じる。僕も目を閉じる。いいのか。鼻があたる。頭を傾ける。そのとき、あぁ、ふたりのくちびるが合わさった。……歌詞のとおりに。そして時間が、とまる。
――第四章へつづく――
※1.高校生としての節度を守って、マセたまねをしないと岡っちが谷っぺに宣誓したこと。(第一章)
※北條巧磨|氷見を描くひと さんの画像をお借りしました。
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