異次元の扉としての「ワインとそれをめぐる記憶」②
K A N A - U N I
since 1966
カクテルに魅了される。「スペインの冷たい情熱の赤」サングリア、B&B、マルガリータ
1970年代前半、私のもう一つの大切なお店は、元赤坂の「カナユニ」でした。
かなりユニークなお店で、ここではワインよりもカクテルをよく頂きました。
お店に通い始めた頃は、サングリアが定番でした。当時いつも飲んでいたヤーゴの瓶とは違い、手作りの本格的なサングリアで背の高いピッチャーにフルーツの皮が装飾され、見た目にも美しかったのを覚えています。
何年か通うとキールが登場します。お店のお客さんから「パリでこんなのが流行ってるよ」とわざわざパリから電話をいただき、教わったそうです。お店のカードにはエピソードが書いてありました。
このクレーム・ド・カシスをシャンパンで割った「キールロワイヤル」は今でも私の好きなアペリティフです。
私は元々アルコールの分解能力が高いようで、「酔っ払う」ということがありません。ですから色々なカクテルを飲み比べていました。
中でも好きなカクテルが『マルガリータ』です。
カナユニの店内は、南西ヨーロッパの雰囲気漂うアーチを背景に、釿(ちょうな)で斫(はつ)った焦茶の板張りと、“赤紅のバラ”とのコントラストが印象的でした。
そこで赤松さんによる、絶大なる声量と響き渡る高音域に圧倒されながら聴くカンツォーネやラテン音楽のギター弾き語り、「根市タカオカルテット」ベーシストの根市さんとジャズの名プレイヤー達による「Red Roses For A Blue Lady」の生演奏が行われていました。
マルガリータを飲みながら「店の雰囲気も味わいの一つである」ことをこの店の横田ママとオーナーの宏さんから教えられた気がします。
この店のもう一つの思い出は、フロアーマネージャーの浅見さんが作った「クレープシュゼット」です。浅見さんが説明しながら見事な手さばきで作ってくれたカラメルとグラン・マルニエの香りが今でも蘇ります。
大人の世界へ
私と叔母は、テーブル席に座る事が多かったのですが、そこから見上げるカウンター席は大人の世界でした。
たまにカウンター席に座ると、宏さんが色々な話をしてくれました。
宏さんはいつもタキシードで、渋さの中に温かみがあり「憧れのジェントルマン」でした。
ある日タキシードの話になり、「スタッドボタンとジャケットの裏地の色を合わせると、何気なく袖口から裏地が覗いた時おしゃれなんですよ」と「応用編」を教えてもらいました。
その日の宏さんはスタッドボタンと裏地がダークなワインレッドで、「なるほどな〜」と感心しました。
バーカウンターではバーテンダーの武居さんが、色々なカクテルを作ってくれます。
叔母が好きなスティンガーやB&Bで、ベネディクティンDOMのボトルを見せられた時、なんとも魅力的なボトルと名称に興味が湧きました。
B&Bはリキュールグラスにベネディクティンを注ぎ、マドラーを浮かせながらブランデーを注ぐとベネディクティンの方がブランデーより比重が大きいため、ブランデーが浮きグラスの中で二層に分かれなんとも美しい光景でした。
今でも懐かしくB&Bはフロートで注文します。
マルガリータの作り方を初めて見た時には感動しました。
紙に塩を振り、その上に冷えたグラスを伏せながら回転させ、グラスの縁に均等に塩を付着させる技は芸術的な美しさでした。
その時、初めてお酒と塩の相性の良さもわかりました。
マルガリータは今も大変好きなカクテルです。
シャトーディケムとの出会い
ある時、品格を感じさせるようにロートアイアンで壁面配置されたワインが一本だけあるのに気がつきました。
武居さんに質問したところ、「カナユニ」がオープンした頃、「お店の格になるようなワインを置いたほうが良い」と言う話になり、デザートワインの最高峰である「シャトーディケム1967年」を置いたとの事でした。
その頃の私は、ディケムの67年が「グレートヴィンテージ」であることは知りませんでした。
そしてそのボトルはまるで、店の歴史と共に、ジャズの名プレイヤーの演奏や歌声を感じながら熟成しているようでした。
いつも何気なくこのボトルを眺めて感じたのは、時代と共に「黄金色から徐々に琥珀色に変わっていく様子」でした。当時は、このシャトーディケムが後に私にとって「運命的なボトル」になるとは思ってもいませんでした。
レストラン カナユニ
住所:東京都港区南青山4-1-15 アルテカベルテプラザB1F
電話:03-3404-4776
参照資料
2005〜Forever
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