【CR CUP/Valorant】 コミュニケーション研究者から見たSugar Smokersのコールとチームプレイ【#しゅがすもWIN】
今回のValorantのCrazy Raccoon Cup(通称CRカップ)は,ダイヤモンド以下(もしかしたらアセンダント以下?)のランクの人たちで4チームが形成され,試合中にコーチ陣がリアルタイムにアドバイス・指示ができるという点で,これまでのValorantのCRカップと少し毛色が異なっていて面白い大会でした。そのうえで今回「コール」の仕方とチームプレイの性質について,面白い点があったので記事にしてみようかなと思った次第です。
何がおもろかったん?という話
今回追ってみていた「Sugar Smokers(しゅがすも)」は,リーダーのきなこさんと,白雪レイドさん,トナカイト(ヘンディー)さん,橘ひなのさん,天鬼ぷるるさん,そしてコーチのAdeさんによるチームで,スクリム初日から本番まで,雰囲気とチームワークに優れた印象でした。
その5人の選手の中でもぷるるさんがおそらく参加者の中では一番低いランク(アイアン~ブロンズ?)だったと思うのですが,これまでValorantの大会経験がなく,大会特有のコールの多さや,コーチのAdeさんの指示をこなすことでいっぱいいっぱいの印象でした。(ちなみにOverwatch2を友人とVCを繋いでプレイした経験からすれば、あれだけ話しながらプレイできるだけですごいと思います。)しかし3日間のスクリム,本番と経験を重ねるごとにコールの仕方,「チームプレイ」への関与の仕方が変わっていったところに,すごいなぁと感じると同時に,チームプレイって何?という点を考える上でも興味深く感じました。
ただ,「おもろかった!」というだけではアレなので,コミュニケーション研究者の端くれとして,みなさんにあまりなじみがないであろう「会話分析」という分野の視点から言語化してみようという試みです。この試みで「しゅがすもほんと尊いぴえん」と感じる理由の一端を理解できたら面白そうだなと考えています。
また、この記事を通じて,ふだん何気なく行われている会話に潜む面白さや,会話分析という世界の一端に,少しでも関心を持っていただけたら嬉しいなと思います。
具体的に何を見るの?
コールといってもさまざまあって,全部にふれるとアホみたいな量になるので,一番分かりやすく,この記事を書くきっかけにもなった「ウルトコール」の事例4つに注目してみたいと思います。
また今回は,わたしが見ていた白雪レイドさんの配信をもとに,順を追って見ていきます。タイムスタンプも記載しますので,ぜひ実際の配信の様子を見ながら読み進めてみてください。
事例1:「ウルトあるウルトある」(スクリム Day 1 / 2:16:00~)
さて,09行目のように,スパイク設置音が聞こえた直後にキルジョイ(のぷるるさん)が「ウルトある」と言うことには,どんな機能(≒効果)があるでしょうか?
①まず,「ウルトある」という言い方(=発話の形式)は,まさに「いまウルトがたまっていて使用可能である」という情報を報告するものとなっています。これが報告であるということは,いつ・どんな状況で聞いても基本的には変わらないものといえるでしょう。たとえば,ラウンド開始時に聞いても,ウルトオーブを拾ったり敵を倒したりして貯まった瞬間に聞いても,いまのような状況で聞いても,報告としての性質は変わりません。
②しかし,この報告をいま(=09行目)聞くことで,たんに「使用可能である」ということ以上の理解ができそうです。つまり,今まさにサイトに設置される(/された)なかで40秒ほどの間に対処しなくてはならないという問題に直面している状況(あるいは条件と言っても良いかもしれません)下において,「ウルトが使える」という報告は,いまこの状況に対処するための方法として結び付けることが,より自然な理解と言えるでしょう。
③実際,11行目できなこさんは「ウルトあるよリテイクあるよ」と,ぷるるさんのウルト報告をもとに,今後の選択肢としてキルジョイのウルト(=ロックダウン)を使ったリテイクの可能性を提示しています。また,結果としてはウルトは不要となりましたが,Adeさんの発話(12行目)「やもう戦ってウルトいらんウルトいらん」に見られるように,「や(=いや)」と直前にあった「ウルトを使う選択肢」に否定を示してから「戦って」と指示を出しています。ここでAdeさんがただ「戦って」だけではなく,「いや」という否定や「ウルトいらん」という指示を使っているのは,まさにぷるるさんのウルト報告が対処方法の選択肢として理解可能だからこそと言えるでしょう。
④また,個人的にAdeさんやこのチームがとてもいいなぁと感じたポイントが,スパイク解除ができたあとに,Adeさんが「ぷっさんナイスコール」(13行目)と,ぷるるさんのコールを評価している点でした。このラウンド中のぷるるさんの発話は,(おそらく)04行目と09行目だけで,ほぼ確実にウルトコールが評価対象といえそうです(実際,その後のコメントとしてAdeさんがウルトの使うタイミングを説明しており,その評価がウルトにかんする評価だったことが後から分かります)。結果としてこのラウンドではウルトを使わない方針・展開でしたが,ぷるるさんのコールが「評価されうるコールであった」と示すことで,コールのやり方自体が正しいことが理解可能になっています。
こうした評価がなければ,ぷるるさんにとってはコールが良かったのか悪かったのかが分からず,次に同じような状況でコールをすることにためらってしまうかもしれません(きっと私ならそうなっちゃいそうです)。こうした点から見ても,Adeさんのコーチングの良さが際立っていたと感じました。
⑤こうした「ウルトある」系のぷるるさんの報告は第21ラウンド(2:34:00~)や,第二試合の第9ラウンド(3:04:43~)などでも見ることができます。チームプレイの中での「ウルトある」系の報告の機能をふりかえると,②や③で見たとおり,その時々の状況に応じてウルトが使えることを報告することで,ウルトを使用した方針を想起させる機能がありそうです。「想起させる」と表現したのは,「ウルトある」という形式がまさに「報告」であり,提案や指示ではないからです。つまり,自分から方針を提案するというよりは,ウルトの使用・不使用やタイミングの提案や指示を,チームメイト(とくにコーチ)から引き出す方法の1つと言えるでしょう。
事例2:ウルト使用を指示・提案するコール(スクリムDay 2 / 2:29:55~)
ぷるるさんのウルトコールの種類として,ウルトある系の報告が多かった背景には,ほかのメンバーとのゲーム理解度の差もあるかもしれませんが,キルジョイ(=センチネル)という役割も影響していると思います。
たとえば,今回レイズを使っていたレイドさんは,デュエリストで先陣を切ってエントリーする役回りになることが多かったと思います(このあたりはプレイ経験がないのでフワフワですが)。またひなのさんもスカイを使う場面ではイニシエーターとして状況把握をしながら,攻めるべきポイントを見つける役割を担っていたように思います。
①今回の02行目のレイドさんの「ほしいほしいほしいウルト」という発話は,言い方としても機能としても分かりやすく「依頼」あるいは「要求」として理解でき,さきほどの「ウルトある系」に比べて,直接的に「ほしい」と「ウルトを撃つこと」を求める機能を果たしています。そうした発話に対して求められるのは「承諾」か「拒否」ですが,ヘンディーさんは04行目で「オッケー」と要求を承諾しながら即座にウルトを発動させています。
②また,結果としてセットプレイが開始されたのとほぼ同時でしたが,03行目のひなのさんの「ウルト行った方がいいかも」は,言い方の形式として「ウルト行った方がいい」という現状への評価になっています。この評価を受け入れるか否かは,そのままウルト「行く」か「行かない」かといった行動につながるでしょう。その点において「提案」としての機能を果たす発話になっていると理解できます。一方,「かも」と評価を弱めるやり方は,「ウルト行った方がいい」という評価をヘンディーさんあるいはレイドさんが,受け入れない選択をとりやすくする方法になっています。こうしたひなのさんの機微にあわせたコールこそが,本番初日2戦目後のインタビューでコーチのAdeさんから,ヘンディーさんとともにコールの面で「超助かってる」と評価されている要因なのかもしれません。
③レイドさんとひなのさんのやり方を見比べても分かるように,ゲーム上の役割は,どのような言い方をするかに大きくかかわってくるでしょう。エントリー役のレイドさんが「行った方がいいかも」と提案をすれば,行くかどうかの判断はヘンディーさんに委ねられ,かみ合わなくなってしまうかもしれません。逆に,ひなのさんが「ウルトほしい」と要求すればヘンディーさんやレイドさんのタイミングが合わないかもしれません。こうして考えてみると,ウルトコール1つをとっても,さまざまなやり方があり,IGL(In Game Leader)として「指示」ができれば良いという単純な問題ではなく,適切なタイミングで適切なコールをすることが重要だということが見えてくるでしょう。
事例3:「ウルトがありますーので!」(本番2日目 / 1:00:45~)
さて,ここからが個人的にとくに面白いどころか,スクリム初日から見ていたがゆえに感動したポイントです。
①まず注目したいのは03行目の沈黙です。2秒ちょっとの沈黙ってどれくらいの感じだと思いますか?短いように感じるかもしれませんが、0.4秒くらいから違和感につながると言われたりもしていて、2秒ともなれば明らかに「いま無言の時間だ」と直感的に気づくレベルと言えるでしょう。
そうした中でぷるるさんが05行目で「ウルトありますーので、!」と切り出すのは自然でありつつも難しいことかもしれません。ただ、それよりもすごいのは、これまでのぷるるさんのウルトコールが(聞き逃しもあるかもしれませんが)これまでに示してきた「ウルトある」系だったのに対して、よりチームメンバーに働きかける機能を持ったコールだという点にあります。
②「ウルトがありますので」という形式は、一見すると「ウルトある」系に見えます。しかし「〜ので」という形式は、「AなのでB」といった複文構造の一部として理解可能です。つまり、ただ「ウルトがある」と報告するのではなく、さらに「ウルトがあるのでB」という後半部分を想起させる構成になっています。だからこそ、ぷるるさんがBの部分を言っていないにもかかわらず、06行目でAdeさんが「Aはリテイクいける」とBの部分を発話することが可能になっています。
③さて、ぷるるさんから始まった「ウルトがありますので、Aはリテイクいける」という形式と機能について考えてみましょう。形式としては、このラウンドの状況についての評価と位置付けてよいでしょう。さらに、この評価に対する応答として、「同意=ウルトでAリテイクする可能性の承認」「不同意=その可能性の拒否」という性質があり、実質的な機能としては「提案」であることも見えてきます。つまり、これまでのぷるるさんのウルトコールでは、「ウルトが使用可能」という報告にとどまり、誰かの提案を引き出すための方法であったのに対して、ここでは聞き手(チームメンバーや視聴者)が、ぷるるさんからは直接語られていない「提案」の部分を具体的に想起し、対応することが可能になっているということです。この点から、ぷるるさんにとって可能なコールの幅が広がっていることが見えてきます。
事例4:「ウルトありまぁす!ので来られたら返せまぁす!」(本番2日目 / 3:50:24~)
①06・07行目のぷるるさんのコール「ウルトありますので来られたら返せます」は、報告であると同時に「相手がとって来たらウルトで返す」という提案、というよりもむしろ告知や予告と言えるでしょう。これに対する反応として、それに問題があるなら「いや・・・」という否定が、問題なければ承認が予想されます。実際、08行目以降を見るとコーチのAdeさんをはじめ、チームメンバーが「はーい」と承認していることが見て取れます。
②もちろん、ここでぷるるさんが「AなのでB」の形式を自分で完結させている点もすごいのですが、本当にすごい点はこれまでと違ってコーチのAdeさんが「ぷっさんナイスコール」と言っていないことにあります。「コール」をする目的は「評価してもらう」ことではなく、チームメイトに戦略や方針を提案したり指示したりすることにあると言えるでしょう。そうした中で、ぷるるさんのコールからはじまるやりとりが、Adeさんからの評価ではなく、チームメイトからの承認によって終了するということは、まさにコールがコールとして機能している証拠でもあります。
事例1と3では、「ぷるるさんがコールをしたこと」自体が評価のポイントとなっていましたが、最終的に決勝という場にきて「ぷるるさんのコールがコールとして自然に理解されていること」がはちゃめちゃにエモく、個人的にしゅがすもを見ていて感動した点で、しゅがすもほんと尊いぴえんと感じる正体の一端だと考えています。さらにいえば、一週間弱の短期間でこうした変化ができることの背景にあるぷるるさん自身の取り組み方がかっこいいなと思いました。
チームワークの正体
事例1、3、そして4を通じて、少しチームワークの正体が垣間見えたようにも思えます。少なくともコールという一点においては、それがコミュニケーションの中で「特異なもの」として認識・理解されないことが、良いチームワークの一端であるように感じます。特異というと強い印象かもしれませんが、より分かりやすくいうなら「ひっかかりがないもの」と言い換えてもよさそうです。
事例4でふれたように、コールの目的は戦略や方針を提示したり、あるいは今回は見ていませんが情報を伝えることでチームとしての認識を共有したりする点にあるでしょう。そうしたコールの目的や意味をふまえれば、戦略の決定や情報共有のプロセスのなかでコールが自然と処理され、際立っていない状態こそがコミュニケーションとしての「チームワークの良さ」と言えるかもしれません。(もちろん、あるコールが勝敗を分かつこともあり、それが個別的に評価されることもあると思います。)
チームワークを育むこと
最後に、いかにしてチームワークを育むのか、その方法について少し考えてみたいと思います。職場や部活、教育などの場で、チームワークに困っている、気になっているという方にとって、何か参考になる点があれば良いなと思っています。
Varolantにかぎらず、職場や部活などのチームにおいて、「雰囲気は良いんだけどパフォーマンスはいまいち」ということはあります。当然のことながら、雰囲気が良いだけでチームワークが向上するわけではありません。上で述べたように、「チームワークが良い状態」が「ひっかかりの無い状態」と考えるなら、「ひっかかった」ときの対応が重要になります。
①たとえば事例1のあと、実はAdeさんは「ぷっさんナイスコール」だけでなく、ウルトを使うタイミングなどのコーチングを挟んでいます。「ナイスコール」だけであれば、ぷるるさんのコールから想定される選択肢の否定へのフォローだけになってしまい、なぜその場でそのコールが「違った」のかが分からずに終わってしまいます。それでは雰囲気は良くなったとしても、自然なコールができるようになることには寄与しないかもしれません。
②一方、「ナイスコール」がないままにコーチングが行われていたなら、ウルトコールが「違った」ことが浮き彫りになり、ともすれば「ミス」として理解できてしまうかもしれません。こうした手法の場合、違ったあるいはミスということが分かりやすくなるため、改善の意識につながるかもしれません。一方で、良いチームワークの学習中の人にとってはミスをすること、それを指摘されることは怖いものでもあります。それを回避するためには、そもそもコールをしない、チャレンジをしないことが合理的な方策の一つになるでしょう。そうした意味では、チームワークの向上が個人のメンタルの強さに依存すると同時に、「ひっかかりがない」のではなく「ひっかかりが観測できない」状況に陥る、つまり問題が潜在化する可能性もあります。
③これらを踏まえれば、チームワークとそのスキルを育むためには、チャレンジを認めることと、ひっかかりについて示すこと、この両方が重要であり、Adeさんのやり方がいかに優れているかが見えてきます。たしかに、ストイックにミスを指摘すればチームワークのスキルが向上することもあるでしょう。しかし、チームワークの醸成を個人のメンタルの強さに賭けることは合理的ではなく、本人にかぎらず周りの人々のチャレンジ意識を抑制しかねません。
チャレンジを適切に評価し、改善のために適切なコーチングをする。非常にシンプルなことですが、実践するのは容易ではないでしょう。学習中の相手が何ができていて、何ができていないのかを正確に把握するだけでなく、その相手に対して自分が適切に評価し、コーチングできているかも把握する必要があります。それをするためには、今回見てきたように「記録」をふりかえり、何をしているかを記述してみることが重要になってきます。
私たちは他人のふるまいを客観的に見ることは多くても、自分のふるまいについてはそうではありません。私たちのコミュニケーションは想像以上に高速で、想像以上に無意識的な部分があり、想像以上に自分のふるまいについて無自覚です。私たちは考えているように行動しているわけではなく、「記録」なしに考えるとあらぬ方向へと舵をとりがちです。だからこそ、コミュニケーションがうまく行かない、向上しないというときは、一度その様子を撮影してみてください。何度かそれをみているうちに、みなさんにも「ひっかかり」が見えてくるはずです。なぜなら皆さん自身が、分析のプロではなくともコミュニケーションの実践者としてはプロなのですから。
おまけ:会話分析的な視点
私自身、まだまだ会話分析を学んでいる途上で、見えないこともたくさんある若輩者ですが、誤解を避けるという意味でも、会話分析という分野の特徴を少しばかり解説しておこうと思います。
今回の分析から気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんが、会話分析では「この人はこう考えているはずだ」という分析をしません。だって相手の考えを読み取るなんて無理だし、なんなら自分の考えだったよく分かんないじゃん。という感覚です。実際、コミュニケーションにおいて相手の考えを読み取るなんてことはしていませんし、個人の内心はコミュニケーションの構築に影響を及ぼしません。たとえば、料理を食べて「まっず!」と思っても「おいしいです」と言ったりしますよね。
重要なのは、ある行動が「他人から見てどう見えるか」という理解の可能性にあります。私たちが思った通りに「まっず!」と言わないのは、思ったとおりに言えば「ヤバいやつ」と思われるからでしょう。そうした意味でもコミュニケーションは「自分が思うこと」というよりは、「他人からどう見られるか」によって左右されています。そうなると、私たちのコミュニケーションの軌跡・結果は、「他人からどう見られるか」の積み重ねで、その場その場における適切なふるまいのあるべき姿が描かれていると言えます。少なくとも私は、会話分析とはそのあるべき姿(=秩序)を明らかにする学問だと考えています。
日本において会話分析は、少なくとも一般社会においてほとんど認知されていないと思います。しかしながら、私たちの社会の基盤はコミュニケーションにあり、会話分析という学問としての学術的関心や目的はさておき、その手法自体は広く応用できる可能性を秘めています。noteの記事では身近なテーマを取り上げていこうと思いますが、この活動を通じて少しでも会話分析の楽しさや有用性を社会に広めることができればいいなと考えています。(そんなにしょっちゅうは書けないので、執筆ペースはとても遅いと思いますが…)
さいごに、1万字を超えるめちゃくちゃ長い記事をここまで読んでくださったみなさまにお礼申し上げます。気になることや、こういう問題はどうなの?という質問など、コメントいただけましたら気づいたときにお返しさせていただきます。
それではまたいつか次の記事で!
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