性別の基準。

島に来てからもう干支２周目になる。
もう慣れたようで慣れてないようで
どこまで足を踏み入れるのかで全く違う暮らしになるのだと思う。
私が暮らしているところは
比較的移住者が集まりやすい地域なので
伝統のお祭りや集まりは無縁な場所。
良い時もあればちょっと寂しいときもある。
内地でいろんな繋がりをスパッと切り離して
知り合いもいない島にやってきたときは
違うかもしれないけど
芸能人が海外に行ったときのような開放感に包まれた。

誰も知らなーい！

最高なのである。
だからすっかり今となっては定着してきたSNSにも
名前や顔は見せない。
島民の人口は内地のひとつの市と変わらないし
みんな行くスーパーは同じなので
ある意味すぐ有名人になれるからだ。

島に来て初めて出来た友達は今も記憶に新しい。

ドラッグストアに行ってレジを済ませて
花柄のエコバッグを取り出したときに
『そのエコバッグかわいいですね』
と言われた。
島で誰かに話しかけられるのが初めてだったので驚き
『えっ？あ、ありがとうございます。なんか自分の柄でもないようなやつなんですけどなんか気に入っちゃって』
と答えた。

『よかったらうちのポイントカード作りませんか？』

たぶんこれからずっと来るので作ることにした。
必要事項を書いてその人に渡すと、申し訳なさそうな雰囲気で話をしはじめた。

『あの…。ほんと嫌な思いをされたらほんとに申し訳ないんですけど、前に来られたときに見かけてから、お話するきっかけがあったら話したいなと思っていて。
実は、私の学生の頃にそっくりなんですよ。』

……？

『あ、すみません。いい気持ちはしないですよね…』

ここまで読んで、ドラッグストアの人がどんな人なのか
私がどんな人なのか。当たる人はいるだろうか。
話の続きはこうだ。

『今はすっかりおじさんだけど、昔はよく女の子に間違えられていて、小さい頃なんなスカートはかされてたんですよ。昔から細いし白いから。あ、今度その頃の写真持ってきましょうか？』

『あ、そうなんですね。いやいや、嬉しいですよ。
私はよく小さい頃男の子に間違えられてましたから』

写真を見たいとも見たくないとも言わなかったけれど
それはさすがに遠慮したのか、その後持ってくることはなかった。

おじさんを芸能人の誰かにむりやり例えるとするならば
堺雅人。
私は学生時代は森田剛に似ていると言われた。
このふたりは似ていないが？

私は顔出しをしていても（シルエットや横顔とか）
『あなたは男性じゃなかったのですか？』
という書き込みが何度かあり、なにがどうなって人にそう感じさせるのだろう。と思うことがよくある。
共学だったにも関わらず女の子からモテたり、
女子校の先輩方から入学を勧められたり。

それなのに女の子っぽいおじさんの昔に似ているとは？

たしかに、かわいいと言われるよりもかっこいいと言われる方が嬉しいのは確かだったりする。
小さい頃から、性別って実は体の違いだけなんじゃなかろうかとさえ思うのだ。

ちなみにおじさんとはすっかりお友達になり
なにかあったらすぐどの薬や化粧品を買えばいいのか聞くので、大変助かっている…いた…。

いたのだか、キャッシュレスの時代に対応し兼ねてしまったのか最近ドラッグストアを辞めてしまったのだ。
私はおじさんの最終出勤日に手紙を渡した。

『似てると話しかけてくれてありがとう』と。

それからたまに島ですれ違うのだけれど
ドラッグストアから出てしまうと不思議なもので
あまり積極的に声をかけない自分がいるのだった。