見出し画像

顧客本位の業務運営の原則の改定と製販連携強化


NTTデータ・エービックは、金融商品の販売システムをお客様(金融機関)に開発・提供することを主なビジネスとしております。また、「フィデューシャリー・デューティー(Fiduciary duty)」をお客様とともに考え共有することで、「そこにしかない価値」の創造を目指します。
本日は、2024年9月26日に改定された「顧客本位の業務運営の原則」について意見を述べさせていただきます。

1.顧客本位の業務運営の原則の改定

今回の改定のポイントは「プロダクトガバナンスの確立」を目的としたものとなります。
 この「プロダクトガバナンス」とは、以下のように定義されています。
 プロダクトガバナンス=顧客の最善の利益に適った商品提供等を確保するためのガバナンス
 
この「ガバナンス」とは、ここでは預かり資産業務に関わるインベストメントチェーン全体の態勢のような位置づけかと思っています。
つまり、「顧客の最善の利益に適うような商品の提供を確保するための態勢をインベストメントチェーン全体で構築していきましょう」というような内容かと思います。
 
この「プロダクトガバナンスの確立」を目的として、「顧客本位の業務運営の原則」に五つの補充原則が追加されました。
詳細については、以下金融庁のHPをご確認ください。
https://www.fsa.go.jp/news/r6/singi/20240926.html
 
この補充原則の中で、販売金融機関側に大きく影響を与える箇所が、補充原則4「金融商品組成後の対応」で定義された、以下の内容となります。

【金融商品の組成後の対応】
補充原則4.金融商品の組成に携わる金融事業者は、金融商品の組成時に想定し ていた商品性が確保されているかを継続的に検証し、その結果を金融商品の改 善や見直しにつなげるとともに、商品組成・提供・管理のプロセスを含めたプ ロダクトガバナンスの体制全体の見直しにも、必要に応じて活用すべきである。 また、製販全体として顧客の最善の利益を実現するため、金融商品の販売に 携わる金融事業者との情報連携等により、販売対象として想定する顧客属性と 実際に購入した顧客属性が合致しているか等を検証し、必要に応じて運用・商 品提供の改善や、その後の金融商品の組成の改善に活かしていくべきである。

金融庁HP(別紙2)「顧客本位の業務運営に関する原則」(改訂版)

では「販売対象として想定する顧客属性」とは何でしょうか

現在、「重要情報シート」には「商品組成事業者が想定する購入層」という項目があります。この項目がここでの定義である「販売対象として想定する顧客属性」になります。
そうすると、この『「商品組成事業者が想定する購入層」と「実際に購入した購入層」を比較検証し、その結果を運用や商品提供時の改善に生かすべき。』ということが、この補充原則に記載されている内容ということになります。
 ただし、特に投資信託の場合は、どのような顧客に該当の金融商品が販売されたのかという情報は投信会社側には伝わっておりません。そのため、販売金融機関側でその顧客属性情報をまとめて投信会社側に連携してあげる必要がございます。
 
この対応がいわゆる「製販連携強化」ということになります。

2.製販連携強化


では、実際に「製販連携強化」により、どのような業務が発生するのか見ていきたいと思います。
 以下の図をご確認ください。

販売金融機関側においては、以下のような業務が発生すると思われます。
①【金融商品販売時】「対象商品※」について重要情報シート「想定顧客」を意識して顧客に販売
②【金融商品販売後】「対象商品※ 」について実際に購入した顧客の属性情報を商品組成事業者に連携
※「対象商品」についてはまだ確定しておりません。ただし、特殊な運用を行っている商品が対象になるとされています。
 
まず、①【金融商品販売時】です。ほとんどの金融機関では、まず顧客の適合性診断を行い、その顧客の投資目的、知識、経験などに基づいた金融商品を選定するような販売フローが構築されているかと思います。しかし、適合性診断の結果によっては「商品組成事業者が想定する購入層」に合致しない顧客に販売するケースも出てくるかと思います。今回の「製販連携強化」が行われるようになると、この「商品組成事業者が想定する購入層」に合致しない顧客に販売するケースがどういうケースなのかの整理が求められてくると思います。本対応に伴い、各社の適合性診断のルールを見直すようなことも出てくるのではないかと思っています。

続いて、②【金融商品販売後】です。こちらは、実際にその金融商品がどのような顧客に販売されたのか、年齢、保有資産、投資目的、投資経験などの情報を既定のフォーマットに集計し、商品組成事業者に連携するという作業が発生いたします。
 
この「年齢、保有資産、投資目的、投資経験」といった顧客カードの情報は、金融機関によって管理方法はさまざまであり、金融商品によっても管理レベルが違っている、もしくは同じ金融商品でも取引チャネルによって別管理になっているようなケースもあるかと思います。
これらの情報を顧客ごとにまとめ、定められたフォーマットに集計し、商品組成事業者に連携するという業務が発生するということになります。
それなりの業務負荷がかかってくることが予測され、場合によってはシステム対応の検討も必要になってくるかと思います。
 
この製販連携強化については、すでに検討部会が発足し、対象商品、連携フォーマット、連携項目、連携頻度などの検討が進められていると聞いています。まずは投資信託が対象となる見込みですが、外貨建て保険や仕組債なども対象となってくる可能性はあると思っています。
 

3.製販連携強化の影響

この「製販連携強化」が行われると、どのように変わっていくのでしょうか
 販売会社から集められた「該当商品を実際に購入した顧客層」の情報は商品組成事業者の方に情報還元され、そこで改めてデータを集約し比較検証が行われます。
しかし、もともとの「商品組成業者が想定した購入層」と「実際に購入した購入層」が異なっていた場合であっても、そのために目論見書を変更し、運用方針を「実際に購入した購入層」に合わせて変更にするということは無いと思います。
 となると、「商品提供方法の改善」という方向になってくると思います。
「商品組成業者が想定した購入層」と「実際に購入した購入層」が異なっている販売をする傾向が高い販売金融機関には、商品組成事業者の意図とは違う商品販売が行われているため、そこを理解していただくよう、商品組成事業者から販売金融機関への該当商品の説明の仕方が変わるなどの対応が行われるのではないかと思います。
その結果、販売金融機関側での「商品提供方法の改善」に繋がり、例えば自社の適合性診断ルールを見直すなどで、「商品組成業者が想定した購入層」に合わせた販売を行っていくような動きが出てくるのではないでしょうか。
このような動きを想定すると、今回の製販連携強化の目的の一つとしては、適合性に合わない(と思われている)特定の金融商品の提供方法の是正があるということが言えるかと思います。
 
いくつかの販売金融機関に本件についてのお話を伺ったところ、やはり煩雑な業務が増えることに大きな懸念をいただいてらっしゃいました。
この「製販連携強化」の対象となる商品は、まだ確定しておりません。しかし、該当の煩雑な業務を想定し、該当金融商品の取り扱いを見直すような動きもでてくるのではないでしょうか。
 
わたくし共も預かり資産業務にかかわるインベストメントチェーンの一端として、本対応を「顧客の最善の利益に適う」よう、どのようなことができるのか検討していきたいと思います。