生きていることは愛を伝えられること

【生きていることは愛を伝えられること】

息を引き取る
臨終

目を閉じて
息を吸って
吸って
吸って
吸った息が吸い込まれていく
遥か奥のほう
時間と空間の始まる前
星々の産まれる場所
魂のふるさと


やすらぎと覚醒が
ひたひたと
さざ波をうつ
永遠の今ここ


息を吹き返す
蘇生
目を開けて
息を吐いて
吐いて
吐いて
吐いた息が広がっていく
遥か彼方
渦巻く無数の銀河
光の速さで広がる宇宙の端っこに到るまで
すべてを抱きしめる

息を吹き返した私は
いのちにあふれる
この世界に耳をすます

あどけなく笑っている子ども
はしゃぎまわる犬
私の傷つけた女の慟哭
爆撃機の音
くるおしい愛の歌

こんなにも不如意で
おどろおどろしく
せつなく
すべては一瞬で喪われて
奔流に吞み込まれる
泥の河ではあるけれども

ああ
ここに還ってきてよかった
だってほら
落ち込んでいる人がいたら
背中にそっと手を置いてあげられる
話を聞いてあげられる
話を聞いてもらえる

生きているということは
愛を伝えられるということ
この世界に
ほんの短い逗留をしている間だけ
私たちにはそれができる

それなのにそのいのちを
憎しみを伝えるために
いがみ合うために
殺し合うために費やすなんて
なんというもったいない命の削り方

生きていることは
愛を伝えられること
笑いあえること

もうすぐ還る魂のふるさとに
どんなにやすらぎと覚醒が満ちていようとも
さあ　今は
君を抱きしめ
子どもたちと笑い
青い空に流れる雲を見つめ
両手を思い切り広げて
歓びも悲しみも
すべてを抱きしめよう

すべてを抱きしめよう