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もらえなかった風船

小学校6年生のとき、アイススケートリンクの入口で小学生に風船を配っていた。おねえさんが僕に風船を渡そうとすると、もうひとりのおねえさんが「絶対中学生だ。渡さなくていい」と言った。
おねえさんは風船を引っ込めた。入口を通ったところに、お父さんお母さん弟が待っていて、小走りに追いついた。
弟は風船を持っていた。お母さんが「風船もらわなかったの?」と聞いた。「うん」「小学生なのに?」
僕はその時、何も成り行きを説明せずに「ええねん」と言った。
60を越えた今も時々思い出す。その時の自分がかわいそうで、キュンとする。
風船がすごく欲しかったのではない。
「うん。ええねん」と言った自分が、ひたすらかわいそうなのだ。

もしかしたら、何事につけ、筋が通るまで抗議するのは、あのときの自分のためかもしれない。

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長澤靖浩
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