「倶舎論」をめぐって
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さて、加藤博士の業績は、日本人研究者の特性を生かした成果なのかもしれない。博士は欧米の研究事情をこう報告している。
『順正理論』が漢訳しか現存しない為に、ヨーロッパ人にはその理解が容易でないからであり、他方では、ヨーロッパの仏教学に於いては、本書と密接な関係のある『倶舎論』の学習が、たとえ上述のド・ラ・ヴァレーの勝れた註釈的研究があるにもかかわらず、一般的でないからである。(加藤純章「『順正理論』の諸問題(二)」『毘曇部第四巻月報 三蔵97』昭和51年、p.36)
しかるに、近年は欧米においても漢訳資料を使いこなす学者も出ているのである。櫻部博士はこれに触れている。
最近刊行されたコックス女史の『順正理論』巻十二―巻十四の英訳(Collet Cox:Disuputed Dharmas: Early Buddhist Theories on Exestence〔「ダルマ議論:初期仏教の存在論」〕 ,Studia Philologica Buddhica Monograph Series XI,Tokyo,1995)はこの分野における大きな貢献である。(櫻部建「新たに説一切有部研究を志す人のために」『仏教学セミナー』61,1995、〔 〕内私の補足)
本書は、『順正理論』の三世実有論を扱ったものらしいが、私は未見である。