仏教豆知識
その3
さて、藤井氏は、この後、さらに、医療としてのマインドフルネスに触れています。
医療におけるマインドフルネスの実践は、その根底に2つの確立された手法が存在している。「マインドフルネスに基づくストレス低減法(mindfulness-based stressreduction,MBSR)および「マインドフルネス認知療法(mindfulness-based cognitive therapy,MBCT)である。これらは両者とも、マサチューセッツ大学医学部の分子生物学者、ジョン・カパットジンに由来している。…これらのマインドフルネスの手法が一般的な瞑想実践と異なる点として、治療方法がマニュアル化されていることおよび、医療手段としてエビデンスが積み重ねられていることが挙げられる。…MBSRおよびMBCTが治療法として有効であることは、科学的に実証された事実といえる。(藤井修平氏「マインドフルネスの由来と展開―現代における仏教と心理学の結びつきの例として」『中央学術研究所紀要』46,2017,pp.64-65)
マインドフルネスは、こうしてエビデンスを得て、普及していったようです。さて、藤井氏によると、この言葉と仏教の関係は、以下のようです。
「マインドフルネス」という英語自体は、仏教用語からの訳語としてそれ以前から定着していた。原語はパーリ語のsati〔サティ〕であり、…イギリス人の〔世界的パーリ学者〕リース・デーヴィッズがmindfulnessを用いると、この訳語が普及することとなった。この語を米国の上座部・大乗仏教徒が広め、カパットジンが自らの治療法の基本理念としたのである…(藤井修平「マインドフルネスの由来と展開―現代における仏教と心理学の結びつきの例として」『中央学術研究所紀要』46,2017,p.66、〔 〕私)
確かに、リス・デーヴィッズは、当時、パーリ語の最高権威でしたから、その訳語を重んじるのは致し方ないでしょう。しかし、パーリ語satiは、そもそも「記憶」「集中」という意味です。マインドフルネスも、その程度の意味合いの訳語かもしれません。そこに、ことさら、宗教的な価値を認めるべきではないと思いますが、カパットジンという分子生物学者は、格別な意味を感じ、研究の指針としたのです。ちなみに、パーリ語は、古代インドの言葉で、ブッダの使った言葉に近い言語とされています。