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あの子の名前、なんだっけ
中学2年。14歳。
中2といったら、男子よりも女子の方がませていたし発育も良くて、田舎のボーッとした普通のオレは意味もなく毎日ドキドキしていた。
小六の終わり頃に「ズームイン朝」という、今でいう朝ワイド番組に映画の宣伝で小林聡美と尾美としのりが出演していたのを何故か覚えている。二人ともほぼ喋らなくて、田舎のボーッとした普通以下のオレは「大丈夫かな、この二人」と余計なことを思っていた。同時にこんな映画、面白いのかな、とも思っていた。
それが映画「転校生」とのファーストコンタクトだ。小六の時はある事情があって大半を叔母の家で過ごしていた。その頃は映画館に足を運ぶこともなく、従って「転校生」を観ることもないまま、普通に中学生になった。ちなみに映画館に行かなかったのは叔母のせいではない。オレの問題だ。
ある事情というのは、お袋が大病を患い長期入院したことだ。今でいうシングルマザーだったので、何も出来ないボーッとした小学生をお袋の姉である叔母が預かってくれていた。
今と違ってヒット曲は誰もが知っていて、その歌を聴けば当時を鮮明に思い出すことが出来る。叔母の家で過ごした日々のほとんどのシーンには松田聖子の「赤いスイートピー」が流れていた。今でもこの曲を聴くと泣きそうな気分になる。それも叔母のせいではない。オレの問題だ。
学校の音楽の時間は苦痛だった。人前で歌ったり、リコーダーを吹いたりするのが嫌だった。クラシックの曲を鑑賞させられるのも嫌だった。
「転校生」のオープニングとエンディングにはシューマンの「トロイメライ」が流れる。モノクロからカラーへ。カラーからモノクロへ。さいとうかずおが撮った8mmフィルムの尾道の風景は、いまだ行ったことがないにも関わらず、何故か自分の原風景のようだ。そのバックに流れる「トロイメライ」とともに。
中2の音楽の授業で「トロイメライ」を聴く時間があった。その後の休み時間に、同じクラスのとても発育のいい女子が唐突に「転校生って面白いよね」とオレに言った。彼女のことを特に好きではなかったが、それ以来、何故かその子のことが気になるようになった。
バカだ。
テレビ版「転校生」は劇場で上映されたオリジナルより短い。オレはこの短いバージョンの方が好きだ。急に気になるようになったあの子の記憶とともに、オレの大事な部分にずっとしまってある。
何度観たか分からない。何度泣いたかも分からない。
あの子の名前、なんだっけ。さいとうかずみじゃないことだけは確かだ。