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曽祖父、日本から妻を迎える(明治45年)

1912年(明治45年)に、保次郎は23歳のヨキ(曽祖母)と結婚しました。

曽祖母は単身渡米でお嫁入り

この時に保次郎は一時帰国してヨキと一緒に再渡米したようだ、と前回書いたのですが、そのあと伯母(保次郎の孫で、父の姉)に電話で聞いたところ、ヨキは1人で渡米したはずだ、と教えてもらいました。

確かによく調べてみると、ヨキ名義の船のチケットは残っているのに保次郎自身のチケットは見当たりません。後述しますように、当時は夫となる日本人移民のもとへ単身渡米した「妻」が多くいた史実を考えれば、ヨキ1人だったというのは辻褄が合います。私は長年なぜか保次郎も一緒に渡米したと勘違いしていましたが、実際は本で読んだ日系移民史の通りだったんだ! と思ったら、なんとも言えない感動が湧いてきました。

というわけで、以下は単身渡米したヨキの渡航書類一式です。

B4サイズのパスポート。外務大臣が子爵というところに時代を感じます。

船のチケットと領収書? 横浜からサンフランシスコへ向かったようです。

Medical Inspection Card、もしくはInspection Card。つまり健康診断カード? おそらく健康状態に問題がないことを証明しないと渡航できなかったのではないかと思います。

ちなみに曽祖母の名前は「Yoki」のはずなのに、船のチケットや健康診断カードはなぜか「Kiyo」になっています。役所の公的書類はさすがに間違いがないのですが、この手のスペルミスは他の書類でも見られます。保次郎とヨキは新潟の人なので、訛りがあって正しく聞き取ってもらえなかったのかな? と推測しますが、なんともテキトーな感じがして面白いです。

そして渡米後はカリフォルニア州でMarriage Lisenceを発行してもらったようです。

このころ保次郎は30歳くらいで、ヨキも当時の女性としては結婚が遅い年齢です。伯母の話によれば保次郎とヨキは遠い親戚で、「アメリカに居るこういう人が嫁さんを探している」という縁談話が出て、ヨキが嫁ぐことになったようです。

それにしても、海の向こうの言葉も文化も違う国へ、「夫」だけを頼りに1人でお嫁に行ったヨキの心境はどんなものだったのでしょう……。

日本人移民(日系1世)の結婚事情

ところで、この当時アメリカの日本人移民(日系1世)の結婚事情はどんなものだったのか。

日本人移民の多くは単身で渡米した男性なので、在米の日本人女性はほとんどいませんでした。彼らが結婚したいと思っても、白人との結婚は禁止されていたこともあり、日本人以外と結婚することは考えられない時代でした。となると、日本から女性を連れて来るしかありません。

経済的な余裕があれば日本に帰って相手をみつけて結婚し、同伴で再渡米する「迎妻帰国」という方法を取ることができました。

しかし多くの人は、長期間仕事を休んで帰国したり日米間を往復したりする余裕はありません。長期間日本にいると徴兵に引っかかるという問題もありました。しかも1908年(明治41)年の「紳士協約」により、日本から呼び寄せる家族以外の渡米は認められなくなりました。

そこで「写真結婚」という方法が考え出されました。本人は在米のまま故郷の親類縁者に縁談を頼み、相手と写真を交換することで「お見合い」して、結婚が決まったら日本で入籍し「妻」となった女性が単身渡米する、というものです。写真結婚で嫁いできた女性たちは「写真花嫁」と呼ばれました。

この写真結婚はアメリカ側から問題視されて後々禁止されるのですが、お見合い結婚が普通だった当時の日本の感覚では、さほど不思議なことではなかったかもしれません。ですがアメリカでは、結婚式を挙げていない夫婦を正式に結婚しているとは認めないため、「写真花嫁」が上陸するには届け出や許可が必要でした。

鶴谷寿著『アメリカ西部開拓と日本人』(NHKブックス、1977年)の中で、こう書かれています。

シアトルでは、移民局で移民官が夫たるべき者と妻たるべき者の身元を調べた上、差し支えないと認めた者は上陸させたが、その際、夫は証人1名を伴ってシアトル市のキング郡裁判所に出頭しなければならなかった。そして2ドル50セントの手数料を納めて婚姻許可書を得た上、再び移民局に出頭し、キリスト教会の牧師か本願寺出張所の開教師の司式のもとに結婚式を挙げ、始めて正式の夫婦と認められて上陸を許可されたのである。

保次郎夫婦のMarriage Lisenceも、このような背景があって発行されたものなのでしょう。やはり手数料を支払っていたようで、以下のような領収書も残っています。3ドル50セント也。

この領収書もよく見たら保次郎の漢字が間違ってます。本当にテキトーで、笑えます。

【参考文献

『日系アメリカ人の日本観 多文化社会ハワイから』(高木真理子著、淡交社)

『一世としてアメリカに生きて』(北村崇朗著、草書房)

『アメリカの日系人』(黒川省三著、教育社)

『アメリカ西部開拓と日本人』(鶴谷寿著、NHKブックス)

『外国人をめぐる社会史 近代アメリカと日本人移民』(粂井輝子著、雄山閣)


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