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ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜53 『ゆめちゃん、ろうどく会をするの巻』
ついにその日がやってきた! ゆめちゃんは町のこうみんかんでろうどく会をすることになったのです。
それは二ヶ月まえのことでした。
きんじょにすむたかちゃんという男の子がゆめちゃんのおうちにやってきました。
「やあゆめちゃん。おいらしょうせつをかいたんだ。よんでくれるかい?」
たかちゃんが書いたのはみじかいおはなしでした。
おとこの人がおんなの人にこいをする大人のおはなしでした。
「わー。すてき。たかちゃん、これすごくいいよ!」とゆめちゃんはよみおえてからいいました。
「とくにここがよかった」と言ってゆめちゃんはあるいっせつを声に出してよみました。
ー彼女は泣いていた。初めて話したあの夜みたいに。一つ違うのは、その涙が僕のために流されていたということだった。
「ちょっとまって」とたかちゃんは言いました。
「ゆめちゃん、ろうどくがじょうずだね。ねえ、さいしょからよんでみてよ」
そしてゆめちゃんはさいしょからろうどくしました。
「うん、すごい。すごくいいよ、ゆめちゃん! これはみんなにもきかせてあげよう。そうだ! 町のこうみんかんをかりてろうどく会をかいさいしよう! どうだい?」
「え、どうしよう。わたしにできるかな」とゆめちゃんはふあんをかんじました。
「できるできる。やってみようよ!」
「う……、うん! やってみる!」
それからたかちゃんは、こうみんかいをおさえ、まちじゅうにはるポスターやチラシをはっちゅうし、エスエヌエスアカウントをしゅとくしてこくちしたり、とくせつウェブサイトをかいせつするなど、あれよあれよとじゅんびをすすめていきました。
ほんばん一ヶ月まえにチケットが五千円でうりだされました。
「ねえ、たかちゃん、ろうどくは10分でおわるのに五千円はたかくないかな?」とゆめちゃんはしんぱいそうに言いました。
「なにをいってんだい。きみはじぶんの才能をかしょうひょうかしているよ。ほんとうは一万円でもいいくらいなのにとくべつに五千円にしてあげているんだ。やすいもんだよ」
「そうかな……」
「そうだよ。げんにもうけっこう売れてるんだぜ」
チケットはほんとうに売れていました。ゆめちゃんが、町でクマのおばあさんと会ったときのことです。
「あら、ゆめちゃん、こんにちは。ろうどく会のチケット買ったわよ。しゅじんと二人で行くから。たのしみにしてるわね」
「ありがとう!」
いろんな人たちに声をかけられ、ゆめちゃんはどんどんきんちょうしてしまいました。
でも、こんなことを言う人もいました。カエルのおにいさんです。
「ゆめちゃんのろうどく会に行きてーげろ、おかねがねーげろ、ごめんな」
ゆめちゃんにはどうしていいかわかりませんでした。
そしてむかえたろうどく会とうじつ。
かいじょうはまんいんでした。
かいじょうの入り口には「飲食物持ち込み禁止」とはりがみがありました。
ロビーではペットボトルのおちゃ五百円、いなりずしなどのけいしょくが七百円ではんばいされていました。それを見てゆめちゃんは言いました。
「たかちゃん、おちゃが五百円って高すぎないかな?」
「なにをいってんだい。おいらたちはね、ボランティアでやってるわけじゃないんだよ。これはビジネスなんだよ、ゆめちゃん」
ほんばんちょくぜん。ぶたいのそでからかいじょうを見て、ゆめちゃんはいよいよきんちょうして、しんぞうが外にとびでそうなほどドキドキしました。
その時、ゆめちゃんは見てしまったのです。
「おいおい、そこのじいさん、ばあさん」とたかちゃんが、クマのおじいさんとおばあさんにちかづいていきました。かれらがペットボトルのおちゃを持ってきていたのをたかちゃんは見つけたのでした。
「いんしょくぶつはもちこみしちゃダメだって言っただろ? こまるなあ、ルールをまもれないのなら出ていってもらうしかないなあ」
クマのおじいさんとおばあさんはかいじょうからおいだされていきました。
そのうしろすがたを見ると、「たのしみにしてるわね」と言ったクマのおばあさんのえがおがうかび、ゆめちゃんのむねはとてもいたみました。なみだがあふれそうになりました。
そしてほんばんのじかんがきました。とてもきんちょうしたけど、ゆめちゃんはみごとなろうどくをしました。はくしゅかっさい。だいせいきょうでろうどく会はおわりました。でもゆめちゃんの気持ちはしずんでいました。
うちあげの席でさつたばをかぞえながらたかちゃんはわらいがとまりません。
「いやあ、ろうどくがこんなにもうかるとは知らなかった。よし、ゆめちゃん、毎月これをやろう! はい、今日のギャラだよ」と言って、百円玉をゆめちゃんにわたしました。
「いらない」とゆめちゃんはこたえました。
「え、どうして?」
「もうろうどく会なんてやりたくない」
「なにいってんだい。おいおい、どうしたんだよ、ゆめちゃん」
「わたし見たんだから。たかちゃんがクマのおじいさんとおばあさんをおいだすところを」
「ああ、あのじいさんばあさんか。だってあいつらは……」
「ひどいよ。クマのおばあさんがどれだけ今日をたのしみにしてくれていたか、たかちゃんはしらないでしょ」
ゆめちゃんはとうとうこらえきれず泣いてしまいました。
「ああ、しらないね。かれらはルールをやぶったんだ。ゆめちゃんだって学校でわるいことしたらせんせいにしかられるだろ? なにがちがうんだい? もうやりたくないならやらなくていいよ。きみのかわりなんていくらでもいるんだから」
ゆめちゃんはなにもいいかえせず泣きながらうちあげかいじょうを出ました。
そのすうじつご。
たかちゃんはいなくなりました。
お父さんが五おく円をだつぜいしたかどでたいほされ、一家はどこかとおくの町へよにげしたのです。
ゆめちゃんはじぶんでおはなしをかいて、もういちどろうどく会をしてみようとおもいました。みんながたのしめるろうどく会にしよう、そう思ったのです。
とてもきもちがいい、日よう日。
町のおおきなこうえんでゆめちゃんはろうどく会をしました。
それはチケットもない、だれでもさんかすることができる会でした。
クマのおじいさんとおばあさん、カエルのおにいさんもきてくれました。
ろうどくがおわると、前回よりも大きなはくしゅがおこりました。
クマのおじいさんとおばあさんは手をたたいて、カエルのおにいさんはぴょんぴょんとびはねて、よろこんでくれました。
それをみてゆめちゃんはうれしくなりました。
そんなゆめちゃんを見て、聞きにきてくれたみんながうれしくなりました。
はくしゅの中でゆめちゃんはこう思いました。
「今日はみんながよろこんでくれた! なんていい日だろう!」
・曲 有馬ゆみこ『ゆめいっぱい』
SKYWAVE FMで毎週木曜日23時より放送中の番組「Dream Night」内で不定期連載中の「木曜日の恋人」というコーナーで、パーソナリティの東別府夢さんが朗読してくれたおはなしです。
上記は6月27日放送回の朗読原稿です。
以前書きました『ゆめちゃん、はじめてのおつかいにいくの巻』の、ゆめちゃんにまたご登場願いました。
朗読動画も公開中です。
よろしくお願いします。