アトピービジネスからネットニュースを信じた女まで
時々いるんです、患者さんで。
『わたし、ステロイド使いたくないんです』と。
『じゃあ、帰ってくれ。』と思う。
僕が医師になった時には、もう『アトピービジネス』は下火になってきて、みんなが『脱ステロイド』のことなんて忘れてたりしてて、そんな患者さんも少なくなってきましたが、時々います。気持ちはわからんでもない。
帰ってくれ、とはもちろん言いません。
でもその脱ステロイド患者の何が悪いか。
それを説明していきたいと思います。もちろん『ステロイドが怖い』のは、重々理解してますし、そして、ステロイド使わない方法もいくつかあります。
それでも、皮膚科医として、とても困ることがあるんです。
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ステロイドではない新治療法は多数ある
コレクチム軟膏(5月発売),ネモリズマブ(注射薬:まだ発売していない),ウパダシチニブ(内服薬:アトピー未承認)
■アトピービジネスとは
一種の社会問題だったんですよね。アトピー性皮膚炎の患者さんに、
『ステロイドをやめれば、アトピーが治る』
なんて言って、別の効果のない薬を売るという悪質なビジネスが。
命にかかわることが少ないだけにアトピーの方を対象とした悪質な「アトピービジネス」があとを絶ちません。アトピービジネスを次のように定義づけております。「アトピー性皮膚炎が治るというコトバのもとに、無益な商品あるいは医学会で認められていない治療法を、囲い込みや義理人情で縛り付けて、購入あるいは受診を強要するもの」(アトピー協会引用)
もはや、やり口は、や〇ざ。
■アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎って何ですか?と聞かれたら、僕はこう答えてます。
重度の乾燥肌です
もちろん厳密にはもっと色んな要素が入っているのですが、根本的には合ってます。
ほっておいたら勝手に乾燥してしまう皮膚。乾燥によってバリアが低下。そして炎症が起きる。痒くなる。掻く。
さらにアレルゲンが皮膚から入り込んで、アレルギーを持つ。さらに炎症が強くなる。掻く。バリアが低下する。アレルギーのオンパレードになる。
だから、『乾燥を防ぐ』+『炎症を止める』が基本治療。
乾燥は保湿剤で、炎症はステロイドの外用(塗り薬)で
対応しているわけです。
そもそも『炎症』というのはなんのためにあるのか。
それは、外敵がきたら、皮膚の近くに炎症細胞(白血球など)が集まって、敵を攻撃してくれるものです。
アトピー性皮膚炎の場合は敵は来ていないのに、
炎症起きちゃってる状態ですね。
■ステロイド外用は確かに副作用はある
ステロイドってどれくらい種類あるか知ってます?
これすべてステロイド外用剤です。皮膚科医の基本中の基本。
これをどうやって使うか。それをまず、皮膚科医になった時に学びます
つまり、皮膚科はステロイド外用を患者さんに教育する科
でも、あるんですよね。
■教育とは治療教育
入院より外来の患者数が多い科なので、
外来の短い時間にどれだけ患者さんに、
『治療教育』ができるかが、完治へのプロセスなのです。
処方して、おしまい!!
それなら、皮膚科医なんていらねぇよ!
基本的には診断+処方+『教育』です。よく皮膚科で『塗りましょうか?』って言ってくる看護師さんいないです?あれ、患者さんへの教育の一環です。
■いろんな患者さんがくる
中には嘘をつく患者さんもいたり、ほんの少ししか塗らなかった患者さんや、塗りすぎの人もいます。どの人も人間らしくて僕はスキです。
内服薬と違って『塗り方』も『塗る時間』も様々で、塗り心地も考えないといけなかったり。やりがいかな。
教育が上手くいき完治されると、『治ったよ!!』ってわざわざ言いにくるおじいちゃんとかもいて、ありがたくて可愛くてスキです。
■ステロイドが嫌いな患者さん
だから中には『ステロイドを使いたくありません』
っていう患者さんがいます。
もちろん、その気持ちわかります!
とくに、アトピービジネスによって拡散された情報は、正しいものもあれば、間違っているものもあり、特に恐怖を植え付ける書き方をしてる記事を多く見かけます。
なので、「こわい」という患者さんに寄り添うことは大事です。
■じゃぁ何が困るって。。。
理由は、患者さんの信頼関係が築きづらい人が多いんです。
なぜなら、
『ステロイドが悪い』という、
悪質な情報を信じている人だからです。
もちろん、それは個人の自由である。
軽症なら、特にステロイド処方しないこともあります。
しかし皮膚科医の目から見て、
『確実にこの患者さんはステロイド外用使った方がいい。そうじゃないと、悪化するし、治らない!!』
って人もいる場合には強く説得する。
それでも頑なに拒否する人がいる。
ネットニュースで、「ステロイド処方する医者を信じるな」と書かれているのでしょう。
そう、彼女は、目の前に専門家がいても、
ネットニュースを信じる人。
もちろん、ステロイドが怖い気持ちもわかるけど、
「一切われら医師の話を聞こうとしない人が一定数いて、脱ステロイド患者に多い」と、僕はそう感じるんです。
きっとこの情報化社会の波に呑まれていってしまうんだろうな、
と思って悲しくなる。
■誰の責任なのか
信頼関係を築けないなら、責任も取れないので、必要でも処方ができないのだ。
人の『恐怖』を逆手にとって、悪質な医療ビジネスをしている人が一番『悪い奴』。確かにステロイド処方する医者を信用するな、と書いておけば、その『悪い奴』を信用せざるを得ないのだから。
でももう一度考えてほしい。
自分で選択してしまった治療法では、
あなたしか自分の皮膚の責任を
取れないのだ。
治療選択をゆだねてくれれば
医師は責任を取る。
副作用が出れば、それに対して対応をするのだ。
それが我々の仕事なのだ
自分の身を守るために『何が正しいのかを選ぶ知恵』を持つ必要があると思う。恐怖は人の判断を鈍らせる。より冷静になりましょう。
■だから「脱ステロイド」の患者さんに言いたいこと
信頼できる医師を探しましょう。
人気があるクリニックとか、ゆっくり話ができるクリニックがいいとか、同性がいいとか。相談できる医師が複数人いるクリニックとか話がしたいから予約制のところがいいとか。
お互いの信頼関係を築くことから始めてください。
「脱ステロイド」をあっせんする医師ではなく、普通の町医者がいいと思います。親身になって話を聞いてもらって、そして、『ステロイドが怖いんです』と言ってみたらいい。
そして、話を聞いてもらって、
医師の話も聞いて、
それでも怖かったら使わない。
恐くなければ使う。
信頼関係が築けるまでは治療開始しなくても結構です。
(よって、重症時より安定期に医者を探しましょう。)
誰が発信したか分からないネットニュースではなく、信頼してる医師からの言葉を信じる勇気を持ちましょう。
「治療法を医師にゆだねる」という治療法の選択も時には必要です。
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ステロイド以外の治療法も多数出てきているので、参考までに。
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