「ゆたかな世界を、実装する」──創業から10年、ABEJAのこれまでとこれから
「ゆたかな世界を、実装する」を理念に掲げ、「人とAIの協調」の実現に向けて事業を展開してきたABEJA。事業の基盤である「ABEJA Platform」は、2012年の創業初期より代表取締役CEOの岡田陽介が構想し、研究開発を行ってきたものです。
ABEJAはこの10年間、どのような道を歩んできたのか。創業の背景や現在に至るまでの変遷、今後の展望などについて創業者でもある岡田に聞きました。
コンピュータに惹かれた小学生時代、一度目の起業ではビジネス感覚の重要性を痛感
── 岡田さんが最初にコンピュータに関心を持ったのは小学生の頃だそうですね。
小学5年生の時に学校でコンピュータを触って「すごい」と感動したのがスタートでした。
感動したことの1つがプログラミングという概念です。大雑把に言えば、自分がプログラムしたものをコンピュータに指示すると、そのとおりにやってくれる。「自動化」ではないですが、そのような仕組みがすごく魅力に感じたんです。
そしてもう1つの感動ポイントが、インターネットを通じて、その場にいながら世界中の情報にアクセスできること。小学生は基本的に自転車で行けるところが自分の行動範囲になりがちだと思うのですが、インターネットによってその範囲がものすごく広がったように感じました。当時の自分にとってはこの2点がものすごく大きかったんです。
── 高校ではコンピュータグラフィックスを専門的に学ぶべく、情報系の高校(愛知工業大学名電高等学校)へ進学されています。
当時通っていた中学校から情報系の高校へ進学することはスーパーマイノリティで、学校の先生たちからも「普通科の高校に行って、大学でコンピュータを学べば良いのではないか」と何度も説得されるほどでした。
ただ日々コンピュータに触れながら独学でプログラミングを学んでいく中で、その可能性を感じるとともに、もっと詳しくなりたいという思いが強くなっていって。そのくらいコンピュータが好きで、高校からコンピュータグラフィックスを本格的に学ぶことを決めました。
── 高校時代にはパソコン甲子園で優勝したり、デザインコンテストで文部科学大臣賞を受賞したりと、さまざまな挑戦をされています。最終的には起業の道を選んだきっかけはなんだったのでしょうか。
ずっとこもって研究をしているだけでは、社会とのつながりが持てない感覚があったんです。それまで学んできたことを通じて社会へ何かしらの価値を提供できないか、培ってきたものをビジネスにも転用できないかといったことを考えるようになったのがきっかけです。
当時は「Twitterの写真版を作ろう」といったアイデアで写真共有サービスのようなものを開発していました。技術的には十分に実現できるものだったのですが、すぐに想定外の出来事に直面したんです。
投稿される情報がテキストであればまだ良かったものの、それが写真となった瞬間に保存容量が何百倍にも膨らみ、ユーザーが増えるほどにサーバーコストがかかってしまう。最終的にはこのまま続けているとパンクしてしまうということで、当時のメンバーと話しあって辞めることを決めました。
1番の反省点はビジネスモデルです。ビジネスとして持続できる仕組みへと落とし込むというところが難しくて、それができなかった。またその時に「折衝力のなさ」も感じました。
要は営業力のようなもので「何を売っていくのか」ということです。当時ありえたのは記事広告の販売などでしたが、自分の力ではそれで継続的なビジネスを作るのは厳しいと感じていました。
── その後は一度ベンチャー企業で働かれていたんですね。
そのような時期に拾っていただいたのがリッチメディア(現 :シェアリング・ビューティー )の坂本さんです。
坂本さんはサイバーエージェントでトップ営業マンとして活躍されていた方で、彼の横につくようなかたちで経営や営業などさまざまなことを学ぶ機会をいただいて。ここでの経験が、自分自身のビジネス感覚を磨く上で一番の糧になったと今でも思っています。
── そこからABEJA創業に至るまでの経緯を教えてください。
少しずつ成果がで始めた頃に、坂本さんがシリコンバレーに派遣してくださったんですね。その際に現地でFacebook(現Meta)やGoogleのエンジニアたちが1番熱心に語っていたのが「ディープニューラルネットワーク」についてでした。言わば「ディープラーニング」の先駆けのような技術です。
「ディープニューラルネットワークがこれからのビジネスにおいて重要な技術になるのではないか」といろいろな人がしきりに言っていたこともあり、興味を持ちました。
自分自身が学んできたコンピュータグラフィックスと計算の理論などで共通点が多かったことも、この分野が面白いと思った理由の1つです。通常は他の分野の先進的な論文を読むのは(必要な知識が不足していて)なかなか辛いのですが、ディープラーニングの論文は思っていた以上にスッと読むことができました。
社会を大きく変える可能性を秘めた技術が生まれてきていて、しかも自分が過去に学んできたことを活かせればアドバンテージがあるかもしれない。「これはものすごく大きなチャンスなのではないか」と考え、2012年にABEJAを創業しました。
ABEJA創業も「全く売れない」からのスタート
── 現在ABEJAの事業のコアとなっている「ABEJA Platform」のアイデア自体は創業当時から考えていたものだそうですね。
その通りです。もちろん山の登り方は少し変わっているのですが、根幹の構想はほとんど変わっていません。
前提として「日本のマクロ環境」を踏まえると、AIを始めとしたテクノロジーを有効活用せざるを得ないと思っていました。基本的に労働人口が減っていく中で経済を成り立たせていくには、外から移民を受け入れるのか、テクノロジーを活用して効率化や省力化を推進していくのかの2択になるはずなので。
後者の場合、「(ビジネスの)プロセス」がすごく重要になると思ったんです。それはプロセスをコントロールする技術こそが、日本企業の大きな強みだと感じていたから。自動車でも家電製品でも、「その製造プロセスをうまくコントロールする」ことで、最適なコストバランスを実現し、原価管理を徹底してたくさんの人たちへ製品を普及させることができる。
それが日本企業の得意分野なのではないかと感じていました。
だから「さまざまな企業が、根幹となるビジネスプロセスの中でAIをうまく活用できるようにするにはどうしたらいいか」という問いが1つのテーマにもなっていた。そのための仕組みが社会から求められるようになり、それを実現できれば大きな価値を提供できると思ったんです。
当時自分でもコードを書いていて感じていたのですが、AI(機械学習技術)をビジネスの現場で活用していこうと考えると、ボトルネックになるようなポイントがいくつもありました。
そもそも新しい技術ということもあり、便利なフレームワークのようなものもほとんどなかった時代です。開発者たちが海外発のフレームワークを手探りで解析しながら、どうすればビジネスに活用できるかを必死に試行錯誤している状況でした。
当然ながら、そのような状態ではさまざまな企業がAIを活用することは難しい。AIをビジネスに適用していくためには、「プラットフォーム」という形でさまざまなAIシステムを汎用的な仕組みとして届けていくことこそが必要だと考えました。
── 当時は今と比べてもAIやディープラーニングといった概念が浸透していなかったと思います。企業の方々の反応はいかがでしたか。
最初はプラットフォームとして提供していきたかったのですが、全く売れませんでした。
特に我々は「事業のコアのプロセス」を一緒に変革していきましょうという話をしていたので、余計にハードルが高かったのだと思います。得体の知れない23歳の起業家がいきなりそんなことを提案したところで、ほとんどが門前払いというか相手にされませんでした。
このままやっていても事業は前に進みそうにないし、資金調達もできない。「どうにかしないとまずい」ということで、まずはターゲットとなる領域を絞ってみることにしました。いわゆる「バーティカルSaaS」と呼ばれるような方法から始めることにしたんです。
最初に目を向けたのは小売業界。店舗に設置したカメラなどから取得できるデータを分析することで、店内の顧客体験の改善や業務改善に活用できる「Googleアナリティクスのリアル版」のようなイメージでサービスを提供しました。
当時ディープラーニングが得意としていたのが画像解析だったこともあり、それが小売企業が抱えている課題の解決策としてマッチするのではないかと考えたんです。当初は「実現できれば欲しいけど、そんなことできるわけない」という反応がほとんどだったのですが、実際にプロダクトを見せると多くの方が興味を持ってくださって。
だいたい2013年から2014年頃にかけてのことですが、この出来事がABEJAにとって最初のPMFのタイミングというか、事業の転換点と言えるかも知れません。
── どのようなプロセスで最初の事業領域を決めたのでしょうか。
領域を絞るにあたって、約300社に対して営業をしました。特にツテなどがあったわけでもないので、ひたすらテレアポですよね。企業の代表電話を調べて電話をすると、基本的には受付で断られる。最初は「いかに受付の段階で断られないかを試行錯誤する」ところからスタートするのですが、該当の部門につないでもらえたとしても、大体が門前払いです。
当時の泥臭さは自分で振り返っても異常で、テレアポもLPの制作も自分たちですべてやっていましたし、時には出待ちのようなことをしてみたこともあります。
そんなことをやり続けていた中で、唯一話を聞いてくださったのが小売業界の方々でした。
あの頃は日本でディープラーニングがほとんど普及していないような状態の中で、サービスを売っていかなければならなかった。その時に「これがディープラーニングを活用したソリューションなんです」と示せるプロダクトがあったことで、一気にお客様たちの理解も進み、期待を寄せていただくことができたように感じます。
実際、ディープラーニングがどのようなものかがほとんど浸透していなかったため、ある時は「(ハードウェアなどのようなイメージで)AIというのをちょっと見せて欲しい」と言われることもありました。
── まずは小売業界でしっかりとプロダクトを確立しつつ、少しずつプラットフォームの準備も進めていったんですね。
そうですね。プラットフォーム化を打ち出すタイミングを狙っていました。
ただそこについては紆余曲折というか、社内でもいろいろな意見があって。スタートアップはリソースが限られるので「顧客も増えてきているのだから、成長が見込める小売領域にフォーカスした方が良いのではないか」という声も出ました。
簡単に言えば「広くやるか、深くやるか」という議論なのですが、小売業界向けにサービスを提供していて、顧客の課題解決に向き合い続けていれば「最終的には事業の方向性がプラットフォームの方に集約されていくな」ということがだいぶ見えてきていたんですね。
そうであるならば、小売の一部の領域に限定するのではなく、より幅広い課題に対応できる汎用的な仕組みを内包したプラットフォームにしていく必要がある。それを対外的にも強く打ち出し始めたのが2015年ごろからです。
このタイミングからパートナー企業とのエコシステムを構築するための取り組みも始めましたし、記者会見を通じて「プラットフォーム構想」のようなものを発表しました。
「ABEJA Platform」立ち上げの裏で4回のスクラップアンドビルド
── そこから「ABEJA Platform」というかたちでサービスのベータ版をローンチしたのが2017年の9月、正式ローンチは2018年の2月でした。そこまでの流れを教えてください。
ここまでお話ししてきた通り、研究開発自体は2012年の創業期から着手していました。
2015年に構想を発表して以降も2〜3年かけて作り込んだ後にローンチしたかたちになるのですが、その間だけでも4回ほどスクラップアンドビルドを繰り返しています。
これはもう少しうまくやれたのではないかと反省する部分でもあるのですが、特に「作ろうとしているもの」や「社内の体制」と、「アプローチしようとしている市場」のバランスが難しかったです。
大企業のお客様が中心だったこともあり「ダウンタイムを最小限にしなければならない」といった高いレベルのものが求められます。その要望に応えられるシステムを作る難しさがありました。
同時に日本の大企業では、導入にあたって安心感や信頼性が重視されることが多いです。当時は比較的若いメンバーが中心で運営していたので、システム自体は作れたとしても、営業をしていく上での難しさを感じることもありました。
当時米国でPalantir Technologiesというデータ分析企業がものすごい勢いで伸びていたのですが、彼らの場合も初期のシステムは比較的若いメンバーが作ったらしいのです。ただそれを広げていく上で、自分たちだけでは難しいと考え、エンタープライズセールスの経験が豊富な人たちをどんどん採用していった。
その結果として国防総省やCIAといった機関とも取引をするまでに成長していて、その辺りは「抜群にうまいな」「これが正解ルートだったのかな」と反省もしました。
一方で、当時から意識的にやっていて良かったこともあります。たとえば「このビジネスは絶対にブランドが重要になる」と考え、ブランド作りに積極的に投資をしてきました。
わかりやすいモノではなく「プロセスをハンドルするプラットフォーム」というものに対して価値を見出していただき、お金をいただくビジネスだからです。しかも事業のコアとなるプロセスをやらせてくれという話ですから、お客様もそう簡単には「はい、導入します」とはなりません。
モノがあったとしても、それが認知されていなかったり、しっかりとしたブランドが構築されていなければ、このビジネスは難しい。そのために「ABEJAがAIのリーディングカンパニーになっていくんだ」というブランドを本気で作っていくための投資をしようと決めました。
それは単に頑張って広告を打つという話ではありません。ABEJAのことを多面的に、かつ正しく認知をしてもらうために自社イベント「ABEJA SIX」を開催したり、有識者委員会などにも積極的に顔を出すようにしました。
当時は社内でも大反対にあったのですが、2018年〜2019年ごろからその成果が少しずつかたちになったように感じています。
── 当初は小売業界以外の企業にはなかなか相手にされなかったというお話もありました。ABEJA Platformをローンチした頃には反応の変化なども感じられていましたか。
その通りですね。2016年にダイキン工業さんとの業務提携を発表しているのですが、小売領域以外にも本格的に広がっていったという観点では、これが1つのターニングポイントになりました。
やっぱり2012年の時と比べてAIやディープラーニング自体の認知度自体も広がっていましたし、ABEJAとしても少しずつ実績が積み上がり、ブランドもでき始めていた。創業当初とは異なり、いろいろな企業の方とお話ができるようになっていたんです。
特にダイキン工業さんは業界のリーディングカンパニーとして注目もされていたので、「ダイキンさんと一緒にやられているなら」と他の企業の方々と話が進めやすくなった効果もありました。
300社以上のデジタル変革に伴走
── 2018年に開催したAIカンファレンス「SIX 2018」では、ABEJA Platformのローンチなどとともに会社のフェーズも「フェーズ2」へと移行するというお話をされました。そこからの約5年間でどのような変化がありましたか。
社会的にAIに対する期待感がものすごく広がっていった一方で、「実態として自社のどの工程で活用していくのか?」といったところとのギャップが大きくなったのがこの4〜5年だったと思います。
着実に進化はしているし、実装も進んでいる反面、「AIはやっぱり魔法の杖ではなかったよね」ということがはっきりしてきた。その先にある「データの谷」や「精度の壁」、「オペレーションのデコボコ道」といった課題が浮き彫りになってきたのかなと。
少し裏話をすると、実は2018年12月ごろから、この先数年間は「耐える経営」をしていかなければならないと意思決定をしたんです。日本の大企業の方々もAIの活用に関心はあるものの、実運用という観点ではなかなか前に進まなかった。これは耐えるしかないなと。
一方で、決して事業への手応えがなかったわけではありません。当時、AI起点のテクノロジースタートアップとして、ここまで大きな資金調達をした会社は限られていました。しかも未上場の状態で、なおかつサービス側にかなり寄った企業はABEJAくらいでした。
だからこそ「これはすごく良いポジショニングができている」と強く認識していたんです。
NVIDIAとGoogleというテックジャイアントと資本を含めた関係もあって、「他社とは比べものにならないくらい良い環境で研究開発ができる」という自信がありました。株主の方々のご理解もあり、このタイミングで普通ならば許されないくらい長期的な視点を持った研究開発投資も行っています。
同時に「ずっと日本に留まっていても仕方がない」と考え、シンガポールやアメリカにも拠点を作り、海外での取り組みも始めました。
ただ、それがコロナのタイミングで一気に変わった。「AIを始めとしたテクノロジーを本気で活用していかないとまずいんじゃないか」と考える企業が増え、AIを用いたDXや業務変革がいきなりメインストリームになったような感覚でした。
このマーケットのポジティブな変化については、正直、完全に読み違えました。そして、結果的には2018年に意思決定をした「耐える経営」にとても救われることになったんです。
この時期に投資したものがあったからこそ、コロナ渦において、ABEJAは極めて力強い成長を実現しました。競合他社の中にはソリューション事業に特化して短期的な利益を重視するところもありましたが、ABEJAは調達した資金を元に短期的な利益を度外視して、準備をすることができた。その結果として今の優位性を作り出せたのです。
この数年間に関しては、ABEJAの状況が社外の方々からは見えづらかったというか、そのギャップが大きい期間だったと思います。実際に「ABEJAさん、最近不調なんですか?」と聞かれたこともありましたから。
私としてはもう少し「耐える経営」の期間が続くだろうと思っていましたし、それを取締役会などでも宣言していたので、粛々と研究開発や事業拡大に向けた投資を進めていました。
そのタイミングで目指す世界と現実のギャップ(こういう世界を実装しようとしているのに、テクノロジーはこんなに期待はずれなのかというギャップ)を感じてしまい、辞めていくメンバーが多くいたことも事実です。
── 外部の環境が一気に変わったこともあり、ABEJAとしても2018年からの4年間、特にコロナ渦において事業が大きく変化したということですね。プロダクトの打ち出し方も変わり、『最新鋭の製造機械と製造ノウハウを持ったAIシステム工場(デジタル版EMS : Electronics Manufacturing Services)』という打ち出し方になりました。
大企業のお客様たちは自社のプロセスに対して自信やこだわりをもたれていることも多いので、ABEJA Platformをそのまま使うというよりも「お客様が作ろうとしているプラットフォームに対して、ABEJA Platformの開発するパイプラインの一部を組み込んでいただく」ケースがものすごく多くなってきています。
言わばABEJAの持つ仕組みが先方のプラットフォームの一部を担い、オペレーションに貢献しているようなイメージです。
現在はヒューリックさんが展開しているスマートオフィス「Bizflex by HULIC」や、三菱ガス化学さんのプラント腐食配管の外観検査システムのプロセスの一部などに、ABEJA Platformを活用いただいていたりします。
たとえば、化学プラントでは配管の腐食が進むと爆発事故などにつながる危険性があるため、運転担当者の方が腐食配管の画像を撮影し、保守担当者の方がその画像を見て対策を判断していました。
そのプロセスにABEJA Platformを組み込むことで、AIが画像から腐食度合いを判定し、その結果を人が評価する。そして運用をしながらAIの再学習を行っていくという「AIと人が協調したモデル」を実現しています。この仕組みによって、精度を維持しながら検査にかかる人的なコストを抑えることにもつながりました。
現在は多様な業種のビジネスプロセスの中に我々の仕組みを導入いただけるようになり、周囲の方からは「こんなところでもABEJAの仕組みが活用されていたんですね」と言われるような例も増えてきていて、手応えを感じています。
── 特にどのような部分がABEJA Platformの強みになっているのでしょうか。
我々の1番の強みになっているのが、時間をかけて作り込んできたEMS(AIシステム工場)の仕組みです。
AIの領域に関しては、最小限のコスト構造のもと、クライアントから要望されるものをガッと作って納品する構造になっている企業も少なくありません。もちろんこのアプローチも良いとは思うのですが、特に大企業に活用いただくにあたっては、危機管理やセキュリティ、システム設計など高い要求水準を満たせるものが必要になります。
我々のアプローチは「極めて効率化されたセキュリティ水準が高い工場をすでに保有していて、それをお客様に対してラインごとに細かく提供できる」というもの。さまざまなニーズに応えられる最新鋭の工作機械がずらっと並んでいて、それを操る職人のような人材(ABEJAのコンサルタント)もいます。
お客様からは「このような業務フローを実現したいから、AIを活用したい」といった相談をいただくことが多いのですが、そもそもそのニーズに合致したAIを設計できる会社が少ない。その上で開発したAIを本番環境に落とし込み、思い描いているビジネスプロセスを実現できる会社となると、ほとんどありません。
特にABEJA Platformは「ミッションクリティカル性」の高い、お客様のコアなビジネスプロセスで活用いただいているので、そのプロセスを作り込んで運用するところまでを「一気通貫でサポートできる」点が1番のアドバンテージになっていると思います。
グローバルでは半導体や電子機器の領域でTSMC、FoxconnといったEMS事業者(製造受託企業)が大きな存在感を放っていますよね。分野は違いますがABEJAはデジタルやAIの領域において同じような仕組みを作っていると考えていただくと、わかりやすいかもしれません。
10年間かけて磨き上げてきたブランドと信頼感、AIを軸とした先端テクノロジーの実装に関するノウハウなどは自信を持っているところです。何か1つ2つ特注品を作るなら別の手段の方が良いかもしれないけれど、そのやり方ではコアとなるプロセスに入れていくのは難しい。
数字としても、これまでに多種多様な業種・業態において300社以上のお客様のデジタル変革を支援させていただき、2022年の5月時点でABEJA Platform関連の売上が全体の83%を超えるようになってきています。(2022年8月期金額ベース)
「AIの実装があたり前になる」時代、ABEJAは新たなフェーズへ
── そのような状況において、今回「上場」という選択肢を選ばれました。
事業の成長とともに、お客様のコアとなるプロセスをまかせていただくことが今まで以上に増えてきました。ABEJAとしては、これから大企業に加えて中小企業や自治体などの課題解決にも伴走していきたいと考えています。
「安心安全」と言った時に、安全面は技術的な論点で担保できると思うのですが、安心面はそうもいかない。その観点では「上場」は重要なプロセスの1つになってくると思っています。お客様としても、非上場企業よりも上場企業の方が信頼感が増すと思いますから。
また、2018年頃からの継続的な投資により、ABEJA Platformという仕組みをより秀逸なものへとアップデートし「デジタルプラットフォーム事業」として強固な事業基盤を構築することができました。
それらが競合優位性を持ち「情報を開示したとしても、数年先までは他社が追いつけないレベルになってきている」と手応えを掴めたことも、上場の意思決定をした理由です。
── AI領域においては、2023年に入って日本でも「大規模言語モデル(LLM)」や「Generative AI」の話題が増え、社会からの注目度が急激に高まったように感じます。
まさにそうですね。我々としても、数年前からLLMやGenerative AIを含むAIの進化については研究開発を続けてきました。正直こんなに早いタイミングでこのトレンドがくるとは思っていなかったのですが、結果的には過去の意思決定が「花開いてきている」状況です。
ABEJAにも「ChatGPT」のような仕組みを業務で活用したいというお問い合わせが爆発的に増えている一方で、特に大企業の方々はChatGPTそのものを業務フローで使っていくこと自体には(個人情報の取扱いや機密情報の漏洩のリスクなどの観点で)懸念を持たれているんですよね。
そこはまさにABEJA Platformの工場の仕組みが得意とするところでもあるので、我々の強みを活かせる領域だと思っています。
── 最後に今後のABEJAの展望について教えてください。
エンタープライズ領域に関しては、これまで培ってきたAIシステム工場の仕組みがかなり成熟してきています。先ほども少しお話した通り、今後はこの仕組みを大企業だけではなく、中小企業や自治体など他の領域にもどんどん転用していく計画です。地域の観点では日本だけではなく、グローバル展開も見据えています。
もっとも、やりたいことはたくさんあるのですが、現時点ではリソースに限りがあるので一部に絞ってやっているような状況です。大企業向けに関しても普及率で言えばまだまだ余白しかありませんし、中小企業向けや自治体向けはこれから始める段階なので、伸びしろしかない。
AIシステム工場であるABEJA Platformについても、さらに秀逸なものにしていきたいと考えていますし、改善できる余地があります。今後はこのシステム工場の土台の上に、Insight for Retailのようなパッケージをどんどん増やしていく方針です。そこにも大きなチャンスがあると考えています。
AI領域で10年間事業を続けてきた中で、幻滅期を越えて「あたりまえに(AIの)実装が始まるフェーズ」に突入したと認識しています。実は、思ったよりも早かったという感覚です。
これは新型コロナウイルス感染症によってデジタルの利用が加速度的に早まった影響も大きい。ABEJAとしては10年間という期間にわたって継続的に大胆な投資を続けてきたことが、ここにきて大きなアドバンテージになっていると感じています。
この期を逃さず、一緒にスピード感を持って事業を推進してくださる方がいれば、ぜひABEJAに加わっていただきたいです。
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