燕

ぷちえっち・ぶちえっち5 女の子の甘い香り

この連載はちょっと笑えるちょっとエッチなエッセイです。

お前、ビョーキだよ」。

菊池が言った。
菊池は中学時代からの親友である。40年来の付き合いだ。2人とも気づけばもう50過ぎになる。
その日は半年ぶりに会って、神田の居酒屋で2人で飲んでいた。何の変哲もない店である。周囲はサラリーマンでほぼ満席だった。僕たちは一番奥の席に陣取っていた。
枝豆をつまみ、焼鳥を食べながら女の話になった。男2人で飲むと仕事の話か女の話しかない。
話のきっかけは菊池のこんな発言だった。
「最近街を歩いていると、40ぐらいのきれいな女に目が行くんだよなあ。昔は若い子に目が行ってたけど、今どきの若い子はみんな顔が同じに見える。俺も歳とったよなあ」。
 僕は即座に否定した。
「俺は20代の可愛い子にしか目がいかない。40なんて全く目に入らない。完全スルーだ」
「お前、それはおかしいよ。俺たちもう50過ぎだぜ。自分の娘より若い子見てどうすんの」。
この会話、菊池が100%正しい。若い子から見たら、俺らなんか正真正銘ただのおっさんである。虫けら以下である。アウト・オブ・眼中である。いくらこっちが好きでも、向こうが好きになってくれるのは天文学的低確率であろう。よーくわかっている。
 それでも僕は若い子が好きなのだ。
(なんで僕は年相応の人に目がいかないのだろう)。
それは長い間の僕の悩みであった。

 ところが、ある日その疑問を解決できる証拠を見つけたのだ。
 それは、ロート製薬に仕事で言って、商品開発の技術者と話をした時だった。ロート製薬というとまず目薬が思い浮かぶが、目薬以外にも様々な薬や、シャンプーなどの日用品もたくさん作っている。基礎研究も盛んだ。そこで僕はロート製薬が発見した
「ラクトン」
という物質があることを知った。
「ラクトン」は、10代後半から20代の女性だけが分泌する香りの成分だ。30歳を過ぎると急激に減り、ほとんど分泌されなくなる。
 実際に現物を嗅がせてもらったが、得も言われぬいい香りである。ふわっと気持ちがよくなる。モモとココナツを合わせたような香りなのだそうだ。
 僕ははたとひざを打った。僕は若い女性が好きというより、このラクトンの香りが好きなのだ。若い女性のそばで話していると、なぜかうきうきとしてしまうのはそのせいだったのだ。
 長年の悩みの答えが見つかって僕は晴れ晴れとした気持であった。
キャバクラやガールズバーなどに飲みに行くと、僕はラクトンの話をする。するとほぼすべての女の子が、
「私、ラクトン出てるかしら」。
と心配そうにいう。
「なんだったら確かめてあげようか」。
僕は下心なんてありませんよ、純粋にラクトンを調べるだけですよ、という調子で、女性に大接近して、一番分泌が多いとされる首筋のにおいをかぐ。役得である。
 ラクトンは香水や化粧の香りとはまた違う。実際、強く香る子もいれば、あまり感じない子もいる。個人差が大きいことも分かった。
実際は30過ぎなのに、
「20代です」。
とごまかしている子もいると思うが、僕にかかればいちころである。すぐさま見破って見せる。
 ところがロート製薬は、研究成果を生かしてこのラクトンを含んだ制汗剤などを市販し始めているのだ。余計なことである。すぐにやめてほしい。 


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