ぷちえっち・ぶちえっち12 初めてのアオカン
この連載はちょっと笑えるちょっとエッチなエッセイです。今回は「ぶちえっち」編。かなり際どいお話です。
あの夏、僕は八ヶ岳にいた。貸別荘で2か月間の泊まり込みの長期アルバイトをしていたのだ。広大な敷地に数百個のコテージが並び、プライベート空間を楽しめる客室となっていた。シーズンピークの夏休みには、100人以上のアルバイトが働いていたと思う。ほとんどが僕と同じ泊まり込みの大学生で、男女比は半々ぐらいだった。
僕はフロント係でチェックインの手続きをしたり、顧客の要望を電話で聞いたりという仕事をしていた。フロントはバイトだけで7、8人いた。慣れてしまえばそう難しい仕事ではなく、むしろいろいろなお客さんと接するのは楽しかった。フロントのバイトのメンバーも気のいい奴が多く、割とみんなと仲良くしていた。3食付きなので、お金も貯まる。まあ、いいバイトだったのである。
ただ、一つだけ問題があった。若いので、あっちも溜まるのである。寝室は狭い部屋に二段ベットが並んでいるだけの質素すぎる造りであり、そこで自分で解消するわけにもいかない。そっち方面はいつも悶々としていたのであった。
ある日、食堂で一人の女の子と相席になり、缶ビールを飲みながら話が弾んだ。その女の子は、約50人の女子の中でも可愛さでは最下位を争う子だった。でも不思議なものである。酒に酔って話していると、だんだんと可愛く見えてくるのである。女日照りが続いているので、もう爆発寸前だったというのももちろんあった。要するに、
「誰でもいいから穴があったら入りたい!!!!!」
という状態だったのである。
僕は話をしているうちに気持ちが盛り上がってしまい、自分でも無意識のうちに、その子の手を握ってしまった。
「ええっ、どうしちゃったの」。
何変なこと考えてるのよ、と言いたげな顔でその子はニヤッと笑った。
(ああっ、いかんいかんいかん!)僕はすんでのところで正気に返って事なきを得た。まさに危なかったのである。
そんな僕に、チャンスが訪れた。
同じバイト仲間で、20歳のはるかちゃんという子がいた。際立って美人というわけではなかったが、丸顔にぽてっとした唇、大きなおっぱいとお尻で、ウエストはきゅんとしまっており、とにかく色っぽかった。ほとんど話はしたことがなかったが、もちろん気にはなっていた。
ある日のこと、僕がアルバイトがちょうど終わるころに、はるかちゃんが何か用事があったのであろう、フロントに入ってきた。僕ははるかちゃんと目が合った。なぜか二人ともお互いから目が離せなかった。僕たちは見つめ合った。
オカルトじみた話に聞こえるかもしれないが、僕ははるかちゃんが僕に抱かれたがっているのがわかった。はるかちゃんも、僕が抱きたいと思っていることを理解した。本当なのだ。あの時のことを思うと自分でも不思議である。
(ちょっとそこで待ってて)。僕は目で合図した。
(わかった)。はるかちゃんは目で合図した。
僕は急いで制服から私服に着替え、はるかちゃんのもとへと急いだ。二人並んで歩き、誰も見ていないところまで行くと、手をつないだ。一切何も話さなかったが、握った手からお互いの気持ちが伝わってくる。言葉はいらなかった。僕たちは道路わきの草むらに分け入った。
日は暮れたばかりで、かすかな薄明かりが二人を照らしていた。道路からぎりぎり見えないところまで行って、僕たちは抱き合った。お互いの服を脱がせあい、ベッド代わりに草むらに敷いた。僕たちは単刀直入に愛し合った。道路を通る車のヘッドライトが時折はるかちゃんの顔を明るく浮かび上がらせる。顔をのけぞらせて喜びに身を任せているはるかちゃんの首筋はとても美しかった。
ここまではよかった。
その2日後の朝。僕は目覚め、顔を洗い、歯磨きをしようとして洗面所の鏡を見た。ひどいことになっていた。顔一面に赤いぶつぶつとした湿疹が広がっていたのである。びっくりして、最初は何が何だかわからなかった。少し考えて、
(あっ!)
と思いついた。
中学2年生の時に全く同じ症状が出たことがあった。父親と山にタケノコ狩りに行った時である。アレルギーを起こす何らかの草に触れたせいで、全身に湿疹が出てしまったのだ。
思い当たる節は、ある。はるかちゃんと2日前に草むらで愛し合った時だ。それしかない。あの時と同じ草に触れてしまったのだ。
アルバイトに出勤すると、先輩の吉田さんがにやにやしながら僕に寄ってきた。
「お前、はるかちゃんとやったろ」。
(えええっ??なんで知ってるの?)
僕はあたふたした。
種明かしをすると、実ははるかちゃんもアレルギー症状が出て僕と全く同じ湿疹だらけの顔をしていたのである。職場が違ったので、はるかちゃんの顔は直接は見なかったが、会う人会う人に冷やかされてわかった。よく、
「嘘をついても無駄だ。顔に書いてある」。
というが、まさに二人して顔に書いてある状態を白日の下にさらしているのだ。これではいくらなんでもバレバレであろう。
僕も恥ずかしかったが、女の子であるはるかちゃんはその何十倍も恥ずかしかったであろう。はるかちゃんはすぐにバイトを辞めて、東京に帰ってしまった。
はるかちゃんと僕はそれきりである。