ぷちえっち・ぶちえっち20 そんなことないよ
僕は大学1年、19歳の時に、高田馬場のバーでバーテンのアルバイトをしていた。店は深夜5時までやっていて、バーテンダーは全員若い男性で客と話をする。今でいうガールズバーの逆バージョンみたいな店で、女性のお客さんが多いのが特徴だった。
そのお店に、3日と空けずに来る常連の明美ちゃん、という子がいた。僕は6時の開店と同時にお店に入っていたので、明美ちゃんもいつも6時に来てよく話をした。僕以外の人とはあまり話さない。僕はいたく気に入られていた。
明美ちゃんは僕より3つ上のOLさんで、お世辞にもかわいいとはいえない子だった。もじゃもじゃ頭が特徴で、顔がとても大きく、まあるい鼻が上向きでちょっと黒人男性のような顔立ちだった。本人もとても気にしていて、あまり自分から積極的に話すタイプではなかった。
僕は仕事なので、かわいいか、かわいくないかは二の次である。よく店に来てくれて、お金を落としてくれて、店の雰囲気を壊さない客が上客である。明美ちゃんは上客であった。
「私みたいなブスと飲んでも楽しくないでしょ。ごめんね」。
明美ちゃんはよくそう言った。僕は
「えー、全然。そんなことないよ!」
といつも答えた。実際、話すととてもまともだったし、全然嫌ではなかった。
ある日、明美ちゃんがもじもじしながらこう言った。
「あべちゃん、今度一度ごはんたべにいきたいな。でも、こんなブスと一緒にいるの見られたらやだよね」。
「えー、そんなことないよ。行こう行こう」。
僕は明るく答えた。
それから、高田馬場界隈の居酒屋に2度ほど行った。
「お姉さんだから私が払うわ」。
と言って、明美ちゃんは飲み代をおごってくれた。居酒屋に行った後は、そのまま店に顔を出してくれる。いわゆる同伴である。同伴料金などはなかったが、開店から飲んでくれるので店としてはありがたい。
それからしばらくしてのことである。僕が、何かの拍子に自分の下宿に女の子が二人で遊びに来た、という話をした。すると明美ちゃんが、
「私もあべちゃんちに行ってみたい。でもこんなブスじゃいやだよね」。
「うん?」家に来るというのは、外で飲むのとは違う気がした。ちょっとまずいんじゃないの、と逡巡する気持ちが少しあったが、いつもの癖で、
「そんなことないよ。ぼくんちで飲もう」
と言ってしまったのだ。
数日後、明美ちゃんは僕の家にいた。6畳一間、風呂なし台所トイレ共同というぼろ下宿である。
「お酒とおつまみ買ってきたから飲みましょ」。
明美ちゃんは上機嫌であった。僕たちは小さなテーブルをはさんで向かい合って座り、お酒を飲んでしゃべった。
2時間ぐらい飲んでいるうちに、僕はだんだん楽しくなってきた。明美ちゃんも、店にいるときとは違い大きな声でよく笑う。気が付くと、明美ちゃんは僕の隣に座り、お酒を作っていた。
明美ちゃんは、やや太めであった分、おっぱいはめちゃくちゃ大きかった。二人で横に並んで話していると、胸の谷間に目が行く。19歳、性欲まっさかりである。穴があったら入りたいお年頃だ。あ酔ったせいなのか、なにかドキドキしてきた。そんな時である。
「あっ、やっちゃった」。
あけみちゃんが黒のミニスカートにお酒をこぼしてしまった。
「大丈夫?ちょっと待って」。
僕がティッシュを持って、スカートを拭いていると、明美ちゃんが足を開いた。スカートの奥の、赤い扇情的なパンティが目に入った。
明美ちゃんは僕にしなだれかかってきた。お化粧のにおいと、女の汗のにおいが僕の鼻孔に一気に入ってきた。
「あべちゃん、一度だけでいいから抱いて。こんなブスじゃいやだ思うけど」。
ここは「ごめん、それはできない」というべきだった。しかし僕は、「そ、そ、そんなことないよ」
と言って明美ちゃんを抱いてしまった。
ことが終わった後、僕は後悔し落ち込んでいた。まだ純情だったので、好きでもない人を抱いてはいけない、と考えていたからだ。
「ごめんね」。
僕は言った。明美ちゃんは
「別に謝ることないよ」
といった。今になって思うと、ここは謝ってはいけない場面だった。女性の心を傷つける言葉だった。
次の日。僕はいつものように出勤し、バーテンの服にロッカーで着替えていた。すると、人の不幸や失敗が好物の大嫌いな同僚の優斗がにやにやしながら僕の方へと近づいてきた。
「おい、あべ。お前明美とやったんだって。あんなブスとよくまあできたな。お前、ひょっとしてブス専?」。
と楽しくてたまらないというにやけ顔で言った。
えええーっ、何で優斗が知っているの???
昨日の今日である。もちろん僕は誰にも話していない。一体全体どういうことなのか?
もちろん、僕ではないのだから明美ちゃんがしゃべったのだった。しかも、明美ちゃんは高田馬場中の友人・知人に電話して、「あべちゃんと寝た」と報告して回ったのである。そんなことになるなんて全く考えもしなかった。
お店の若いバーテンを落とした、という自慢なのか、「ごめんね」といった僕への復讐なのか。あれから明美ちゃんは店に姿を見せなくなったので理由はわからずじまいだ。
ただ、僕はそれからしばらく、「明美とやった男」「ブス専」などと呼ばれ、知らない人からも「ほらほら、あの人よ」などと後ろ指を指されてしまうことになったのである。女性の怖さを初めて知った19の夏であった。