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 麦わら帽子を被ったキジトラ猫が畑で黙々と作業している。

 強い日差しがコントラストを作ると、キジトラの意志の堅そうな模様を浮き彫りにした。

 ふと西の森を見つめる。

 西の森には「黒い湖」と呼ばれる水場があって、猫達だけではなく他の生き物もなるべく近づかないようにしていた。キジトラ猫は一度だけ「黒い湖」で喉を潤したことがあった。喉がカラカラに乾いてやむを得ず飲んでしまった。それからが大変だった。しばらくの間、我慢できないほどの痛みに襲われ、すでに癒えたはずの顔や体中にある傷跡が浮き出てしまった。

 あんな経験はもうこりごりだと思った。そして何かを振り払うように作業に没頭していった。

「今日はこの辺で良しとするか」

 そうつぶやいたキジトラ猫の表情は真剣そのものだが、裏庭で採れた枇杷の味を想像して胸が躍っていた…。


 あれから何度も町を抜け、通りを抜け、橋や川を越えて今いる場所にようやく辿り着いた。

 雨の日や風の日や雪の日や夏の暑さとうまく付き合い、大きな眼は森や空を見つめ、大きな耳は風や葉の音そして小鳥の囀りを聞いているだけで満足している。

 焚火の周りに集まった猫達に静かに詩を聞かせ、畑仕事の後には美味しそうに麦酒を飲む。

 世界で一番心地よい場所を見つけて居眠りもする。

 そんなキジトラ猫は時折、眠りながらしっぽやそこだけ白い右の前足をわずかに動かす時があった。

 夢の中でウリハムシやカメムシから作物を守っているのかもしれない。

 傍らの蚊取り線香の口から紫煙がたゆたっている。

 

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