はじめに言の葉ありし 言の葉は神のかたはらにあり 言の葉は神なりし 先逹の少納言より懸想文をいたゞいた。 ひとめで見解いた。このふみは異國外つ國の智慧をもってしたゝめられている。おそらくは唐國よりも外にある、思いもよらぬ世界の経典を學ばれたのだろう。いづれにしてもわたしは、先逹の嗜みぶりに驚き舌をすぼませてしまった。 さてしも不思議なのは、いかなるゆゑでわたしに懸想文をお贈りなされたということだ。たゞちにお逢いして語らいあうゆかりもなく、屋敷の房でひとり、ふみをした