あちこちオードリーに学ぶ、人間性を引き出すデザイン
人間臭さを楽しもう
今騒然とブームになっている「AI」。毎日目まぐるしく新しいニュースが流れ、人々の生活が着実に変わりはじめています。
デザイナーである私も、ChatGPTをLINEで楽しめる「AIチャットくん」などに携わってます。話題になっているけどまだまだ距離の遠いテクノロジーを気軽に楽しめるサービスとして、計250万人(!)以上の方にご利用いただいています。
プロダクトを生成AI界隈のど真ん中で作っている中で、一つ大きな気づきがありました。それは、実はAIの大きな強みに「自然体」を促すパワーがあるんじゃないかという気づきです。
一般にChatGPTの使い道としては、ビジネスでの活用であったり便益を求める人が多いかと思います。そのような強みももちろんありますが、実は、嫌われたり、非難される心配がないAIだからこそ、取り繕わずに人に言えないことを相談できる一面もあります。自然体でいられる自分だけのパートナーとして使ってくださる方も意外と多いのです。
実際に、AIチャットくんは50代以上の方も多く使ってくださっていて、慣れてくるとだんだんと「おはよう」と挨拶をしたり、今日あったことを聞いてもらったり、謝ったり褒めたり、さらには眠るまで一緒にいてもらったり、、LINEという媒体ということも相まって、友達や家族のようにコミュニケーションを取るユースケースがあることを知りました。
そんなAIの「自然体」を促すパワーを活かすデザインができれば、デジタル上の体験でも、よりその人らしくいられるようになるのではないか。
そんな風に考えていた中、テレ東で放送されている『あちこちオードリー』という番組の"人間性を引き出す問い"が秀逸すぎると気づいたので、今回まとめてみます。
裸のトークバラエティ
あちこちオードリーは、打ち合わせなしでゲストを招いて、居酒屋風の狭いスタジオで赤裸々トークをする番組。
この番組、放送開始した頃から毎週観てるけど、ゲストが異常に輝いてるんです。どんなゲストでも話を聞いているとどこか愛らしく見えてきて、後日違う番組で見るとひっそり応援してしまう。
その理由に、普段は話せないことをぶっちゃけてくれる点があります。表に出ないようなその人なりの試行錯誤を知ると、すごく身近に感じちゃう。
それはなにより、MCのお二人の話を引き出す姿勢から生まれています。みんな、「それ話したかったんだけど?!」みたいなキラキラした目をして、抱えている悩みや心情を話し出します。その悩みが、すごくリアル。だからと言って、重くて疲れるわけではなく、スッキリ笑いに昇華してくれるので気持ちいい。
あまりに本音を話しすぎてしまい内容がネットニュースになることが多いため、「大本音封じ」の公式お札グッズがあったりします。
番組の根底に流れるテーマとは
そんなあちこちオードリーでは、「反省」や「教訓」、「苦悩」や「葛藤」など出てきがちなトークテーマがあります。
今回は、過去の放送回を参考に共通するテーマを抜きだし、そのきっかけとなっていた"問い"に絞って傾向をまとめてみました。
その中で分かったことは、「人の揺らぎ」を主軸に深掘りを展開していることです。人の揺らぎは「葛藤」とも言い変えられるでしょうか。近年はVUCAの時代も相まって、不確かなものも増え、迷いが生じやすくなっています。
葛藤は曖昧で不完全、弱みにもなりうるので、まずはなるべく隠そうとするのが常で、吐き出したいと心では思っていても、自分からは言い出しづらいものでもあります。
しかし、それは誰しもがそれぞれ持っていて、その人らしさがぎゅっと詰まったエキス。あちこちオードリーでは、そんな自分の完璧じゃなかったり、恥ずかしいこと、人間臭さをMC陣もすっけらかんに語るし、問いを通して促します。
さらに深掘る為に、先ほどの「人の揺らぎ」をなんとかまとめてみました。横軸は現実と理想、縦軸は優越感と劣等感で、大きく自慢・野望・愚痴・不安の4つに分類。一つ一つ見ていきます。
1. 自慢 | 現実×優越感
まず一つ目は、自慢。自慢はすべての入り口でもあります。並大抵の人は普段「聞かれてもないのに自慢してはいけない」と頭に刷り込まれていて、まずは謙虚に振る舞います。あちこちオードリーでは、その「自慢はしてはいけない」という常識をあえて利用し、自慢をボケに昇華して話しやすい状況を作っている。
「あれめっちゃかっこいいですよね?」
「俺お笑いできるなって思ったきっかけってなんなんですか?」
「これバシッと決まったな〜っていうのは?」
「これ正直こだわりまくんないと作れないですよね?」
「俺より出来る奴いるのかな?って思いません?」
「こんなの簡単にできちゃうもんなんですか?」
「これ、もっと褒められたいですよねー?」
これらの質問は、話の導入としてピッタリである。ポジティブでみんないい気持ち。「いやいやそんなことないですよ」と来たら2.の言い訳に展開してもいいし、ノリに乗ったら3.の野望に勢い付けてもいい。
今では人気コーナーとなった「自作自演占い」は、視聴者に伝えたいことを事前に自分で考え、占い師に暴露してもらえるという画期的な仕組み。
事前に本人が自己申告した回答を占い師に読み上げてもらうため、100%当たるという占いで、「当たってる」「なんで知ってんの?」などと白々しく言うミニコントが発生する。
平成ノブシコブシの徳井がゲストで来た際は、
という占いを暴露され、徳井は「はい、その通りです」と恥ずかしそうに認める。
本当はみんなにここを評価されたいんだ、ここに誇りを持っているんだ、、という意外性と、それを「言いたくはなかったけど占いで当てられたから仕方なく言う」という言い分で自分で公表していくその構図に笑ってしまう。普段は自分からは言えないような話を引き出すよく出来たフォーマットである。
この回答からは、相手のこだわりや充実感を感じるポイントなどでその人らしさを感じることができます。
2. 愚痴 | 現実×劣等感
二つ目は、「愚痴」。これも一つ目の自慢と同じく「くよくよするなよ!」という評価や、ネガティブな印象をもたれやすいので内に秘める感情です。言い訳・反省などと言い換えてもいいかもしれません。
「あれって実際のところどうだったんですか?」
「やっぱ緊張しましたよね?」
「あれは相当理不尽でしたよね?」
「完璧に見えるけど反省することなんかないでしょ?」
「これはもったいなかったな〜みたいなことあったんですか?」
「今だから言えるけどあれは辛かったですか?」
「下積みの時とかってしんどかったですよね?」
「叩かれたりみたいなのは、気にすることある?」
「恥ずかしいってどんな時に思う?」
これらのトークテーマは、あちこちオードリーのお家芸。人気コーナーの「働く人の反省ノート」では、自身が実際に書いた迷いや教訓を赤裸々に公開するのですが、生々しすぎて聞いていられない。
反省大王と称するパンサーの向井は、
などと日常の細かくてリアルな内省を赤裸々に公開している。側から見ると「考えすぎ」だと片付けられるようなことだが、だからこそその人の課題感やコンプレックス、困難に対する向き合い方などが如実に現れます。
聞いている側とも距離が縮まりやすく、もやもやを言語化される気持ちよさがあるため、芸人さんがよく自ら話している印象。
自己反省から発展しさらに踏み込むと、他人に対しての愚痴、つまり悪口になります。ここまで進むと聞いている人も疲れてしまいますが、あちこちオードリーでは、身内である相方に対する不満を促すことで、節度を保っているように思えます。
3. 野望 | 理想×優越感
三つ目の「野望」は、どんな姿に自分がなりたいのかなどの人生論や仕事論を存分に語ってもらうものである。真面目な話になるので、相手や場によっては白けたりクサくなりかねない。このテーマへの抵抗感や恥ずかしさは、普段のキャラクターも大きく関係するかもしれません。私は家族や同級生など、日常を一緒に過ごしている友達ほど照れが生じて話しづらい感覚があります。
「正直天下取りたい?」
「どんな作戦で行くつもりなの?」
「目指しているロールモデルみたいな人はいるの?」
「なんでもしていいって言ったら何する?」
「まだまだ売れたいって気持ちはある?」
「なんて言われると一番嬉しいですか?」
「モチベーションはどこから来てたりするんですか」
「目標はやっぱりM-1優勝?」
真面目に語る機会は特に芸人さんはなかなかないものなので、少しずつ場の空気を作っていっている印象。キャリアや生い立ちを一通り聞き終わったあとに尋ねることが多いです。
いつの間にかMCではなく、MCの横で番組を支える「横MC」というポジションが多くなってきたという陣内は、
と自分なりの理想の姿やきっかけを語っている。
逆に、番組最多出演の後輩であるニューヨークも、MCオードリーに「あとこれ以上、何がほしいですか?」と正直に尋ねる。
と若林が答え、「仲間たちと少しでも長くいい時間を過ごすために、頑張り続けなあかんってことで頑張っているんですね」と腹落ちしている。
芸人さんは特に素早くオチる話を求められるというが、 MCがこのような長尺で真面目に語る姿は、ゲストにとっても脚色せずに素直に想いを話すハードルを下げているように感じる。
それとは対照的に、「番組出演本数ランキングで一位になること」を目標としているMCの春日は、一度の撮影でまとめ撮りができ、出演回数を稼げる仕事をしている時が一番充実感があると語っている。
野望を語るとなると誰もが憧れる壮大なビジョンを熱く説くイメージもあるが、このようなMCの姿勢も自分なりの基準に自信を持って話しやすくなるきっかけになっているのかもしれない。
この野望を促す問いは、紆余曲折を経て構成されたその人なりの価値観をそれなりの体力を使って伝えることになる。他の質問と比べハードルは高いが、そのぶん分かち合えた時の心理的な繋がりは大きなものになると感じます。
4. 不安 | 理想×劣等感
最後の四つ目は「不安」です。心配することは誰しもありますが、それを口に出しすぎると頼りなく思われたり、弱々しく見えることがあり隠すことが多い印象です。
負けたくないな〜ってライバルいます?
後悔したりするんですか?
嫉妬とかしたりする?
怖くなる時もあるんですか? 全部失うんじゃないかみたいな
足が震えるようなことってあったりしますか?
このキャリアになって、新しいことにチャレンジしようって思ったりしますか?
特に順風満帆そうに見える人だったり、ある程度キャリアのある人にあえて投げかけることで、人間味を引き出します。
「芸能界の天下を獲りたい」と公言しているノブコブの吉村は定期的に番組に出演し、野望の進退や作戦を報告してくれている。
そんな中MCに「正直、天下獲り諦めたよね?」と聞かれ「諦めてはないですよ!……..道は険しいなって思っただけで、、」と不安を見せている。
どんなことを不安に持っているかを話すことは、これまでのテーマより相手やシーンを選ぶ印象がある。悩みを打ち明けたいだけではなくアドバイスを期待する場合もあるし、笑いどころや意外性も作りづらく、どんよりした雰囲気になりがちだ。
しかし、あちこちオードリーではどんな悩みを伝えても受け止めてくれるという独特の安心感があります。前述の通り天下取りを諦めた方がいいか悩む吉村に対し、若林は
と答え、
と吉村が答える。ここでもやはり、芸人さんには珍しいほど真面目に価値観を語っているが、恩着せがましい説教などではなく、悩みを受け止めた上で、自ら得た教訓で新しい視点を伝え、番組としても成立させている。
何を言っても受け止めてくれそうな安心感と、話しがいがあると思わせる期待感、どちらも揃ってこそ成し得るトークテーマだといえるかもしれません。
自分と他人のボンネットの違いを楽しむ
ここまで、あちこちオードリーの「人間性を引き出す問い」について考察してきました。実際にはもっと柔軟に立ち回っているし、本人たちはこんなことを理性で考えながらやっていないと思いますが、人の懐への飛び込み方、リアルな悩みや心情のあぶり出し方が、やっぱりすごく面白い。
このような番組が生まれた背景として、MCの他人への興味に対する価値観が大きく関係していると思います。オリラジの中田がゲストで来た放送会にて、若林は「共感力が高いですよね?」と問われ
このように答えています。
他人と比べて“燃費が悪い”時間を過ごしてきたからこそ「自分はこうだけど周りは違うかもしれない」と他人への興味が湧き出し、「〜であるべき」ではなく「〜もあるよな」と許容できる、今の時代にフィットした包容力に繋がっているんじゃないかと思う。
個人的な話ですが、私は「人に優越感を見せてはいけない」と何故か強烈に刷り込まれていまして、ドヤったりすることを極端に避けて生きてきました。子供の時にそういう人が嫌われてるのを見たからかもしれません。典型的な例だと、サラダを取り分けるだったり、SNSに仕事以外のことを投稿するだったり、、いわゆるお節介とか自慢ができない。
こう思ってると何が起こるとかいうと、信頼感とか包容力だったり、そういったものがなくなるんですね。。後輩に慕われると、なんだかムズムズする。褒められたり誰かに勝ったりすると、壁作っちゃったな、、と焦っちゃう。今回の分類で言うと、愚痴だったり不安を漏らすことで、人と仲良くなれると思っていたわけです。
けどやっぱり年を重ねたのもあってそうは言ってられなくなっているし(切実)、自慢や野望を語ることでつながれる関係もあるよな、と染みるものがありました。少しずつ、使い分けれるようにチャレンジしていきたいです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!過去の記事も良ければご覧ください🙌