見出し画像

形成外科専門医が美肌について考えたこと

美容外科、形成外科医として指導している事柄

形成外科というと、傷をきれいにする手術、火傷の時の皮膚移植、程度しか認識がない方も多いと思います。
大学で医学生相手に、講義をすると、彼らでさえ、形成外科の仕事に関してあまりよくわかってないと感じます。
形成外科は、「疾病や外傷、手術によって外見、機能が正常な状態でなくなった部位を、できるだけ正常な状態に近づける」治療をする科です。
そして、美容外科は、形成外科の1専門であると考えますが、こちらは「正常な状態ではあるが、主観的、客観的に より望ましい状態にする」科といえるでしょう。
形成外科は正式な専門科として承認されており、今では大学病院でも標榜科の一つとして存在しているところもあります。
一方、"美容皮膚科"という科は正式には存在しないため、皮膚を美しくする、美肌をつくるという医療は、少し曖昧な部分もあります。
美容外科、形成外科医として医療に関わってきながら、美肌というものに関して実際に感じ、私が治療するにあたって指導している事柄についてお話します。

乾燥肌、敏感肌について

シミや毛穴、赤ら顔、ニキビ、ニキビ跡などで相談に見えた方を診察するとき、まず 自分の肌に関してのイメージや状態に関して話を伺うと、多くの人が肌の乾燥を感じており、いわゆる敏感肌であると言います。
実際 女性の肌に関するアンケートでも、自分の肌が敏感で、乾燥気味であると答える女性の割合が70パーセント近くにもなるようです。
また、他の化粧品会社によるアンケートでも、「自分は敏感肌である。」と答える人の割合は、おおむね半数近くになるようです。
そもそも敏感肌という言葉には、正確な医学的定義がありませんが、肌がひりひりしやすい、すぐ赤くなる、つっぱり易い、かさかさ乾燥しているなどの感覚的な部分かも知れません。
それにしても このように多くの女性たちが、肌が乾燥し、つっぱり易いとはどういうことでしょうか?
日本のような湿度の比較的高い環境で、且つ肌のケアーに熱心であると考えられる女性においてです。
一方、男性では、肌が乾燥する、つっぱると言う人はあまり多くありません。

乾燥肌(ドライスキン)のメカニズム

皮膚には多くの働きはありますが、最も大切な役割は、外界の様々な刺激から体を守るバリアー機能と、体内の水分やその他成分を外に逃がさないようにしる保湿、保持機能です。乾燥肌とは、皮膚の角質層水分量が減少して、肌ががさついた状態になることですが、この原因として、皮膚の保湿能力の低下があります。
皮膚の保湿能は、皮脂膜、セラミドなどの角質細胞間物質、天然保湿因子(NMF)によって決まります。
これらが失われたり、減少すると、肌の水分は減少し、また 外界の様々な刺激に対してのバリアー機能が衰え、いわゆる乾燥肌、敏感肌になります。

現代女性の乾燥肌、敏感肌と洗顔法の関係

アトピー性皮膚炎の方や、アトピー体質、正常な皮膚の保湿能力が維持できない皮膚の病的な原因がある場合を除いては、人間の肌は簡単には乾燥することはありません。
逆にいえば、人間の肌は、他の動物に比べても非常に高い調節能力を持っていると言ってもよいでしょう。
それにも拘らず、特に肌のケアーを一所懸命している女性に肌の乾燥やつっぱり感が強いのは、当たり前に多くの女性がやってきた肌のケアー、特に洗顔法に問題があるかも知れません。
「寝る前の洗顔で特に注意していることは?」と尋ねると、大部分の女性が、「化粧が毛穴に残らないようにきれいに落とすこと」と答えます。
その結果、洗顔クリーム、クレンジングフォーム、クレンジングクリームなどで皮脂に溶け込んだ化粧成分を浮きだたせ、さらに洗顔剤でダブルクレンジングなどと、一生懸命洗い落とそうと考えます。
しかし、その結果 合成界面活性剤の影響で、皮脂自体が溶かし落とされ、前に触れたような乾燥肌をつくってしまい、その上 バリア機能の低下で敏感肌にもなるとも言えます。
そして 実は皮膚の表面を乾燥させることで、かえって脂腺が刺激され毛穴の周囲は脂がたまり、むしろ毛穴が詰まり易い状態になる可能性もあります。
化粧を落とすなとは言いませんが、化粧が残ることを必要以上に、怖がるあまり、もっと大切な皮脂膜を傷つけ、肌のバリア機能を壊しているかも知れません。

石鹸による洗顔法

私が勧めている洗顔法は、化粧も含めて 石鹸で泡立ててこすらずにゆっくり洗い、水、ぬるま湯で十分に流してもらうということです。
石鹸で化粧品が落ちるのかと心配される人も多いかもしれませんが、意外と綺麗に洗浄できます。
ただ、口紅やアイラインなどは、確かに落ちにくいと感じることでしょう。
しかし、お皿についた油が、食器洗い機ならすぐツルツルすると事と同じで、合成界面活性剤なら油が落ちやすいのは確かです。
しかし 肌はお皿ではありませんから、ただ脂が落ちればよいのではないのです。
もうひとつは、化粧品は、肌の皮脂膜に溶け込み表面に付いているだけの状態ですから、毛穴の奥の奥まで入って、毛穴をふさぐことはあまり考えにくいですし、表皮はターンオーバーを繰り返していますから、バリア機能が働いている健康な肌なら 自然に角質と共に剥がれ落ちて行きます。
洗顔後はすぐに、化粧水、クリームを塗らず30分でも待ってみると、意外とつっぱり感も消えていくこともあります。
強いマッサージや 刺激になることは控えて 少し待ってみてもよいと思います。
その後、乾燥を感じる部分があれば、少量化粧水や保湿クリームをすり込まず、塗布してください。
朝は 石鹸もむしろ使わず、水だけの洗顔でもよいと考えています。
最初は不安に感じる方も、ひと月程で、つっぱり感や、肌の明るさを感じ、乾燥感も少なくなったと言う方が多いのは事実です。
自分の肌が、自分の役割を十分にできる環境をつくるほうが、実は あれこれ補うよりも大切かも知れないのです。


いいなと思ったら応援しよう!