神の力を貰ったので遠慮なく世界を癒します (124) 幸せとは?
リオとレオンはあまりに壮大な話に言葉を失った。イーヴが冷めたお茶を下げて、熱いお茶を淹れてくれる。
リオは村長とイーヴを気の毒に思った。だって村長は何も悪いことしてないよね?逆恨みみたいな嫉妬のせいで愛する人を殺されて、その後も何かと邪魔されて・・。
村長はそんなリオの表情を見てクスッと笑うと話を続けた。
「我は様々な文明の滅亡を見てきた。局所的なものから、世界全てが崩壊するような文明の滅亡もあった。我々が実験のために創った世界は五つ。その中で既に三つの世界が滅亡した」
(え!?そうなの?じゃあ、残っているのは・・・?)
「この『混沌の世界』とリオが住んでいた魔法のない世界だけだ」
「他の世界はどうして滅亡したのですか?」
リオの質問に村長は少し考え込んだ。
「まだ経過観察を行っている最中だから結論はまだ出ていない。滅びる文明には共通点があるだろうか?何が滅亡の原因なのだろうか?ずっと問い続けてきた。しかし、我は最近こう思うようになった」
村長がふぅと溜息をつく。
「これはあくまで私見だ。仲間たちの考察も取り入れる必要がある。最終的な結論はまだ出ていない」
「それでも村長のご意見が聞きたいです!」
「私も興味があります。聞かせて頂けますか?」
リオとレオンの真面目な顔を見て村長は首肯した。
「我の考えでは文明の滅亡の予兆として二つの重要な要素があると思う。一つ目だ。『The road to hell is paved with good intentions』という言葉を知っているか?」
「はい、『地獄への道は善意で敷き詰められている』でしたっけ?」
リオの答えに村長は頷く。
「かつてお前の世界で『魔女狩り』という行為があった。当時、異端を排除することが善であると信じた人々がいた。しかし、結果を見るとそれは人権を踏みにじる愚かな行為であった」
「はい。歴史で学びました」
「善意にこだわる人間は近視眼的だ。自分がやっていることが正しいと思い込み、俯瞰で物事を見ようとしない。大義があっても本質を見極める目が無い限り、その道は地獄へ向かう」
村長の言葉には文明について長年研究してきた重みがある。
「滅亡した文明の幾つかは素晴らしいものであった。その文明を更に高めるために様々な技術が生まれた。しかし、その分住んでいる環境への負担が大きくなる。最終的に文明を支えることが出来なくなるくらいにな」
村長は辛そうに溜息をついた。
「文明のために尽くした人々は全員善意から行動していた。良い意図を持って努力をしていたんだ。しかし本質を理解することが出来なかった。文明は進めば良いというものではない。それで滅亡した文明があった」
(・・・そうなんだ。前世地球でも少し当てはまるところがある気がする)
「もう一つの要素は、人々の考え方だ。お前の居た世界では『マインドセット』と呼ぶのだろう?」
リオはコクリと頷いた。
「これも我の私見だ。しかし、利己的な人間が増えすぎた文明は滅びる。『自分さえ良ければいい』という人間が増えた文明は滅亡への道に向かう傾向がある」
ああ、村長がよく言う『利己的』『利他的』ね。
村長の話は続く。
「利己的な文明では力の差が大きくなる。強者は弱者を助けるのではなく、自己の力を増すことに熱心になるからな。力の差は権力・貧富の差を産み、一握りの者が力を独占する。
力の独占は専制を産み、専制は恐怖を産む。恐怖は我が身を守らなくてはという防衛本能を刺激する。それがますます自分の身さえ良ければという考え方を助長するのだ。
そして権力者は、自分以外の命の重さを軽く扱うようになる。自分の命に比べて他人の命が軽くなる。命に対するダブルスタンダードが生まれる。簡単に人の首を切る独裁者が自分の命には執着したなんてことはよくある話だ」
(・・・・うん、これもなんか聞き覚えがある話だなぁ)
「逆に利他的な文明は長く続く。自分だけでなく他の人間のことまで思いやることができる文明こそが生き残るのではないか。魔法があるから、科学力があるから、力があるからではなく、人に対する慈しみ、愛情、思いやりの気持ちが最終的な文明の方向性を決める気がしてならない」
村長は無念そうに言う。
「少なくとも利他的な文明では自死率が低い。これはデータが示している。セイレーンの星でも自死を防ぐための手立てがあったのではないかと悔やまれてならない」
そして村長はパッと顔を上げて、リオの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「だから、リオ、お前は希望なのだと思う」
(おぉ、なんだいきなり!)
レオンは何故か満足気に頷いている。
「村長の仰る通りです。リオほど利他的な人間はいません」
(レオン様、そんなキラキラした瞳で言わないで・・・。私は結構欲張りだし、我儘ですよ・・・)
黙って話を聞いていたイーヴが噴き出した。
「リオは本当に可愛いわね。私を助けてくれたのに、手柄自慢もしなければ、恩着せがましいことの一つも言わないのよ」
「・・・え、だって、それは元々私の能力自体、村長から頂いたものですし・・みんなの協力がなかったら出来なかったし、何よりスタニスラフの手柄ですよね・・・?」
オドオドとリオが言うと、村長とレオンまでもが笑いだした。
レオンはリオの肩をギューッと抱く。
「リオ、君は私の自慢だ」
耳元で囁くレオンの低音の声は色気に溢れている。
イーヴと顔を見合わせた村長は満面の笑顔だ。
『村長のこんな笑顔初めて見る』と見惚れていたらレオンが咳払いした。眉間に皺が寄っている。しまった。
「リオ、お前のような人間は影響力が大きい。周囲の人間はお前に影響されて、自分も他人の役に立ちたいという気持ちになるのだ。それが波紋のように広がり、利他的な人間を増やす原動力となる。だから、リオ、お前たちのいる文明は長く続くのではないかと思うぞ」
そういって、村長は四枚の紙をリオに見せた。
(なんだろう???)
リオとレオンが覗き込む。
(あっ!)
以前ポワティエの七夕祭りに行った時に、リオ、レオン、サン、マルセルの四人で書いた願い事だ。
自分の願いは覚えている。
『世界中の人々が健康でありますように』
馬鹿の一つ覚えと言わないで欲しい(汗)。
レオンの字で書いてあるのは
『リオが生涯幸せであるように』
おそらくサンの字だろう。
『リオの幸せを願う』
マルセルは
『リオ様とレオン様が永遠に幸せでありますように』
と書いてくれたようだ。
「全員が他人のための願い事を書いた。自分のための願いは一言も書かずにな。このような人間が増えれば、おそらく文明は続いていくのではないかと我は考えるようになった」
村長はリオを見て優しく微笑んだ。目と鼻の奥がツンとする。
ダメだ。どんなに我慢しても号泣だ。ボロボロこぼれる涙をレオンが拭ってくれる。
(周囲の人たちの愛情こそが私の加護で私の幸せだ。ありがとう、みんな・・・)
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神の力を貰ったので遠慮なく世界を癒します (125) 自由|北里のえ (note.com)