まだまだですが
先日、誕生日を迎えた。
もうとっくにキャピキャピ騒ぐような年齢ではなくなってしまったが、誕生日を迎えるとここからまた1年!と正月を迎えたような清々しさを感じるので、私は誕生日が好きだ。
今からもう随分昔のことだが、新卒で入社した会社はとても忙しく、私のようなトロいタイプの人間は毎日ただただ要領の悪さを実感しながら深夜まで無の状態で働くばかりだった。
隣の部署にいた専門職のKさんはそんな出来損ないの私にもいつも優しかった。Kさんは背がひょろりと高く、白いシャツに紺色のニットとパンツをいつも着ていてさっぱりとした短い髪で姿勢が良くてかっこいい職人、という感じがした。ペットボトルのおまけをくれたり、出張のお土産をこっそりくれたりした。目尻にクシャッと皺を作って私に笑いかけてくれた。
就職がなかなか決まらなかった私を雇ってくれた職場だし、と、私なりに頑張っていたが、入社して1年経つ頃、もうダメだ、ここではやっていけないんだ私は、と思う決定的な出来事があり、私は会社を去ることになった。
その頃はもう本当に心がギリギリになっていて、いつも一緒にご飯を食べたり休日にも会うほど仲が良かった同期のMちゃんや姉のように慕っていた先輩ですら一緒にいるのがキツくなっていて、うっすら嫌いになりかけていた。
最終出勤日、お別れの菓子折りを社内の人に配り挨拶をし、Kさんにもお菓子を持って行った。
Kさん「今日までよく頑張ったね。本当にお疲れ様。君はまだ23歳で僕の半分しか生きてないんだから、これから先たくさん楽しいことを経験しなきゃダメだよ」と両手で握手をしながら言ってくれた。いつもの、クシャクシャの笑顔で。あの日、もう私は社内のどの人のことも好きじゃない、と思っていたけれど、Kさんだけは会えなくなるのは寂しいな、と思った。ちょっと涙目になったけれど、ぐっと堪えて精一杯の笑顔でお礼を言って会社を去った。
Kさんはここに私が向いていないことを誰よりも先に気付いていたのかもしれない。本当は楽しいことがすごく好きな女の子だ、ということも見抜いていたのかもしれない。きっとすごく哀れに見えていたのだろう。
あれからもうかなりの時が経った。嫌いだった上司からは退職時に君みたいな人はもうどこも雇ってもらえないよ、と嫌味を言われたが、退職して1ヶ月後に入社した職場で、今も楽しく働いている。
あの時のKさんの年齢にはまだなっていないけれど、もうあの頃の若さと必死さと愛嬌だけで可愛がられていた新人ちゃんだった面影はとうになくなった私はきっとどこかでKさんとすれ違っても気付いてはもらえないだろう。Kさんの言った意味と合っているのかは自信はないけれど、あれから私はたくさんたくさん楽しいことを経験して、今に至っている。誕生日を迎えるたびにあの日のことを思い出すのだった。Kさんはきっと今も第一線で活躍しているのだろう。あのさっぱりした白いシャツと紺色のニットに短い髪で、今も若い子に笑いかけていて欲しい。