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マユの手紙
幼稚園から中学を卒業するまでスイミングスクールに通っていた。全く泳げないところからスタートして、長い間泳げなかった時期を経た後、急に泳げるようになったらすいすい進級し、小3の頃には一番上のクラスに合格して、より速く泳げることを目指すようになっていた。
マユがクラスに入ってきたのは私が4年生の頃で、同じクラスには学校も一緒で毎日登下校も一緒だった親友のキョーカとそのお姉ちゃんで6年生のユウちゃん、ショートヘアでバスケも上手くて男の子よりかっこいい5年生のアイちゃん、そして私。マユは3年生で一番年下だった。
マユは私がそれまで出会った女の子の中で文句無しで一番の美人だった。キャラクターも強烈で学芸会でピーター・パンのフック船長役を演じると聞いて、ぴったりだな!と思った。すごく頭も良くて、同じ一人っ子なのにのんびりボーっとした私にグイグイ突っ込んできた。まるでよしもとばななの「つぐみ」みたい。でも嫌な感じではなくて、私たちはすぐに仲良くなって5人は練習中もワイワイ話してて、コーチには悪魔の5人組と呼ばれていた。学校がほとんど全ての世界だった私にはスイミングの友達は特別な感じがして、週に2回の練習もより楽しかった。
でも、みんなで一緒に練習できた期間はそう長くはなくて、最年長のユウちゃんが中学生になった時期を皮切りに、続々とスイミングを辞めたり、通う曜日を変えることになったりで5人組は自然消滅してしまった。私が中学生になり、曜日を変えるタイミングと同じ頃、マユは受験勉強に本腰を入れるためスクールを辞めてしまった。
なんとなくお互いお別れが寂しかったので、私たちは手紙のやり取りを始めた。スマホもガラケーもまだない時代らしいやり取りである。お互い頻繁に書く方ではなかったけど、たまに届く手紙の中のマユは相変わらず口が悪くて私たち全員のことを呼び捨てにしていた。勉強の方も相変わらず優秀で受験勉強も余裕綽々だった。
マユは志望校にあっさり合格し、入学した後に手紙をくれた。恐らく私が「学校はどうよ?」的なことを訊いた返事だったのだと思うが、そこには、学校はいろんな子がいて結構友達も出来て楽しいよ。ユウとアイとキョーカとあんた(私)みたいな子はいないからちょっとさみしいけど。と書いてあった。
その手紙に私は何と返事をしたか覚えていない。その後お互い多忙になってしまい文通は途絶えてしまった。何年も経ち、大学生になってからふと部屋でこの手紙を見つけて、中1のマユのいじらしさに喰らってしまった。懐かしさが込み上げて慌てて手紙を送ってみたけれど、マユの家族はどうやら引っ越していて、手紙は宛先不明で返ってきてしまった。
あまりの可愛さと頭の良さに嫉妬したであろう(と私は思っている)同級生の女の子たちに帰り道に石を投げられたことがあると話していたマユ。だからなのか、マユは私たちとどんなにふざけてる時でも人の容姿についての悪口は言わなかった。マユにとっては、どんなに美しくても意地悪で石を投げつけてくるような人は醜くて、自分は絶対にそんなことはしないと決めていたのだろう。
あれからさらに年月が経ってしまい、私は完全におばさんになってしまった。マユの消息はわからず仕舞だしあの手紙に何と返事をしたかも永遠にわからないままだろう。でもたまにマユのことを思い出す。変わらずずっと鈍臭いダサい私を相変わらずめちゃくちゃ美人なままのマユはきっと「あんたやっぱアホだね」とやっぱり笑ってる気もする。でも手紙の中であんな風に私たちを恋しく思ってくれていたことは永遠に嬉しい。あの時のマユに笑われないような人にならなきゃな、と思うし、実は意外と近くにいたといてもものすごく遠くにいたとしても、元気で幸せでいて欲しい、と思わずにはいられない。