推し短歌⑨「初恋のひと」
17歳の時、私は幼馴染の同性に恋をしていました。
毎週彼に自転車の荷台に乗せてもらって海辺まで向かい、防波壁に2人腰掛け、お互いの近況を話してから帰るのがお決まりのコースでした。
どれくらい彼のことが好きだったかと言われれば、彼との会話を携帯電話に録音して、ひとり、部屋でこっそり聴いていたぐらい好きでした。いつも彼を身近に感じていたかった。ただそれだけでした。
ある秋に、彼は「修学旅行のお土産」と言って、ロザリオのネックレスを私にくれました。
ロザリオといえば十字架。十字架と言えば誓い。
何か意味があるのではないかと内心期待しながらも、そんなはずはないと打ち消しました。
その意味を尋ねることのできないまま私は大学に進学し、彼が残った故郷を離れました。
下宿先は、公園が目の前にある、緑爽やかな山沿いのアパートでした。
風薫る新生活が始まった5月のある日、彼から
ラインが来ました。
共通の知人である女性との、交際の報告でした。
それを見た時、ふわっと風が吹いて白いレースのカーテンが揺れました。
私の中で何かが終わった瞬間でした。
未だ上手く言語化できていない何か。それが、確かに終わったのです。
無意識のうちに体はハンガーラックへと向かっていて、彼の十字架をそっとごみ箱に捨てました。
ゴミ捨てのルールを破ってしまった、最初で最後の日でした。