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スクワットにおけるニーアウト・ニーインを分析する!(解剖学編)

スクワットにおけるニーアウト(膝を外側に出す動作)とニーイン(膝を内側に入れる動作)は、どのような意味をなしているのだろう?
多くのスクワットを観察してみると、ニーアウト・イン動作を確認できる選手の比率は全体の半数くらいのように思われます。
この動作を解剖学観点から分析します。
次回の投稿では、解剖学的な観点を踏まえてストレッチ・ショートニングサイクル(SSC)の観点を用いてニーアウト・インスクワットの全体像に迫っていきます。

解剖学観点から分析する

1.しゃがみ動作におけるニーアウトを解剖学観点から

スクワットのしゃがみ動作におけるニーアウト(膝が外側に出る動き)は、主に股関節外旋および外転の動きと密接に関連しています。

1-2.股関節外旋と外転の役割

⏺️股関節外旋
股関節の外旋は、骨盤から大腿骨が外側に回転する運動です。しゃがむ際に、この外旋が適切に行われることで、膝を外側に出すことができます。
【主な股関節外旋筋群】
股関節外旋に寄与する主要な筋肉は以下の通りです。
①梨状筋(Piriformis)
  股関節を外旋させる代表的な筋肉です。
②外閉鎖筋(Obturator Externus)
  股関節の外旋に寄与します。
③内閉鎖筋(Obturator Internus)
  こちらも外旋筋で、外閉鎖筋の内側に位置します。
④大殿筋(Gluteus Maximus)
  主な外旋筋の一つで、股関節の伸展にも関与します。
⑤中殿筋(Gluteus Medius)
  中殿筋の後部の繊維は外旋に関与します。
⑥大腿方形筋(Quadratus Femoris)
  股関節の外旋をサポートします。

⏺️股関節外転
股関節の外転は、脚が体の中心線から外側へ移動する運動であり、しゃがみ動作の際に大臀筋や中臀筋が働くことで実現されます。
【主な股関節外転筋群】
①中殿筋(Gluteus Medius)
  股関節の外転を担い、歩行時のバランス維持に貢献します。
②小殿筋(Gluteus Minimus)
  中殿筋の下に位置し、外転や内旋に関与し、安定性を保ちます。
③大殿筋(Gluteus Maximus)
  主な役割は股関節の伸展ですが、外転にも寄与します。
④腸腰筋(Iliopsoas)
  股関節屈筋ですが、一部が外転に関与します。

2.立ち上がり動作におけるニーインを解剖学観点から

スクワットの立ち上がり動作におけるニーイン(膝が内側に入る動き)は、主に股関節内旋および内転の動きと密接に関連しています。

2-1.股関節内旋と内転の役割

⏺️股関節内旋
股関節の内旋は、中殿筋や小殿筋などの内旋筋が活性化され、下肢全体の力の伝達が向上します。これにより、立ち上がる際の力を効率的に地面に伝えることができます。
【主な股関節内旋筋群】
①中殿筋(Gluteus Medius)
 内旋に寄与し、歩行時のバランスを支えます。
②小殿筋(Gluteus Minimus)
 股関節の内旋や外転に関与します。
③大腿筋膜張筋(TFL)
 外転を主に行いますが、内旋にも一部寄与します。
④内閉鎖筋(Obturator Internus)
 主に外旋するが、一部が内旋にも関与します。
⑤腸腰筋(Iliopsoas)
 屈筋だが、内旋に影響を与えることがあります。

⏺️股関節内転
スクワットにおける立ち上がり動作において、股関節内転筋群は重要な役割を果たします。これらの筋肉は、脚を体の中心線に引き寄せる内転の動作に寄与し、立ち上がり時の安定性や力の出力を高めるために必要です。
【主な股関節内転筋】
①内転筋群(Adductor Muscles)
②大内転筋(Adductor Magnus)
③長内転筋(Adductor Longus)
④短内転筋(Adductor Brevis)

3.スクワット動作を解剖学観点から改めて見直すと

スクワット動作を解剖学的に分析すると明らかにその主動作メカニズム(メインメカニズム)は股関節、膝関節、体幹の屈曲からの伸展運動です。そして、上記に示した外旋、内旋、外転、内転はメインメカニズムを補助するアシストメカニズム(assist mechanism)になります。

3-1.スクワットをアシストメカニズムの観点からグループ分けする

このアシストメカニズムに着目してスクワットを分類すると3つのグループに分けることができます。
①外旋・内旋が主たるアシストメカニズムとなるグループ(ニーアウト・イン動作に頼る傾向)
②外転・内転が主たるアシストメカニズムとなるグループ(ニーアウト・イン動作に頼らない傾向)
③外旋、内旋、外転、内転がバランスよくアシストメカニズムとなるグループ(ニーアウト・イン動作が現象として現れます。)

4.ニーアウト・インするスクワットを解剖学的観点から考察して見えてきたものは

解剖学的な観点でニーアウト・インを考察すると
⚫︎スクワットにおけるニーアウトは、降下局面においてスクワットを安定的に行う為のアシストメカニズムであり、股関節外旋筋群が大きく関与しています。
⚫︎スクワットにおけるニーインは、上昇局面においてメインメカニズムを補強する為のアシストメカニズムであり股関節内旋筋群が大きく関与しています。

4-1.ニーアウト・インするスクワットの強化方法

スクワットのメインメカニズムは、降下局面は股関節屈曲、膝関節屈曲であり、上昇局面は股関節伸展、膝関節伸展であります。
降下局面の強化を考察すると、求められるものは安定性となります。メインメカニズムの股関節屈筋群、膝関節屈筋群とアシストメカニズムの股関節外旋筋群の安定性強化です。
上昇局面を考察すると、求められるのは出力となります。メインメカニズムの股関節伸筋群、膝関節伸筋群とアシストメカニズムの股関節内旋筋群の出力強化です。

5.解剖学観点の限界

解剖学的観点から人体の理解を深めることは非常に重要ですが、解剖学的アプローチにはいくつかの弱点があります。特に、個々の組織や器官をバラバラに分けて研究するという方法には、全体像の再構築が難しいという課題があります。以下に、その理由や影響を詳しく検討します。

5-1. 分割的アプローチの限界

⚫︎局所的理解の限界
解剖学は、筋肉、骨、神経、臓器などの構成要素を個別に理解することを目指しますが、実際の生理的な機能や動作はこれらの要素が相互に連携しているため、局所的な理解だけでは全体像を把握することはできません。
⚫︎複雑な相互作用
体内では、異なる筋肉や骨が働き合い、複雑な相互作用が形成されています。一部の筋肉や関節を独立して研究することで、他の要因(例えば、神経の調整、運動連鎖の影響など)を無視してしまう可能性があります。

5-2. 動的な機能の理解

⚫︎静的アプローチの限界
解剖学的な研究は通常、静的な構造を重点的に取り扱いますが、実際の動作や機能は動的なプロセスです。動作を行う際の筋肉の収縮、関節の可動性、姿勢の維持などは、一連の複雑な生理的機能であるため、静的なアプローチだけではそれらを評価しきれません。

5-3. 個体差の無視

⚫︎人体の多様性
解剖学的な研究は一般的な構造に基づいて行われますが、個体差(年齢、性別、体型など)が大きな影響を持つことを考慮する必要があります。この多様性を無視すると、特定の一般化に基づく知見が臨床現場での利用に適さない場合があります。

5-4. 脳の役割と神経系の重要性

⚫︎神経系との関連
解剖学的に詳細に筋肉や関節を理解しても、それらを制御する神経系の働きを無視することはできません。筋肉の動きや動作は、神経からの信号によって調整されるため、解剖学だけでは神経活動やそのフィードバックメカニズムを完全には理解できません。

5-5. 再構築の難しさ

⚫︎全体的アプローチの必要性
解剖学的な情報に基づいた全体像の再構築には、生理学や運動学、バイオメカニクスといった他の学問領域との統合が求められます。これにより、個々の部位や器官の機能だけでなく、それらが全体としてどのように機能するかを理解することが必要になります。

解剖学は人体を深く理解するための強力な手段ですが、局所的なアプローチには限界があります。そのため、全体像を再構築するためには、生理学や運動学、脳神経学などの他の分野との統合的なアプローチが重要です。


6.新たなる観点からの分析

6-1.人体はテンセグリティ構造

人体をテンセグリティ構造として捉えることは、運動や力の分配に対する新しい視点を提供します。テンセグリティは、圧縮と張力の要素が相互に作用し合い、全体としての安定性を保つ構造です。人体は骨格(圧縮要素)と筋肉、腱、靭帯などの柔軟な組織(張力要素)が連携し合い、テンセグリティ的な構造を形成しています。

6-2.アナトミートレインの視点

アナトミートレインとは、解剖学的に関連する筋肉のラインを示し、運動の連鎖的な配列に着目した概念です。この考え方に沿うと、人体全体が一つの体系的なネットワークとして機能し、特定の筋肉や筋膜の緊張が他の部位に影響を与えることが理解されます。

6-3.テンセグリティ構造としての人体

6-3-1.圧縮要素(骨格)
骨は身体を支える重要な役割を果たし、テンセグリティ構造の「支柱」として機能します。これにより、体が立ち上がり、動く際の基盤が形成されます。
6-3-2. 張力要素(筋肉・腱・靭帯)
筋肉や腱は、動作を生じるためのエンジンとして働きます。筋収縮によって引き起こされる張力は、骨格を動かす力となり、テンセグリティ的な安定性をもたらします。

6-4.ストレッチショートニングサイクル(SSC)の視点

ストレッチショートニングサイクルは、筋肉が急速に伸びた後にすぐに短縮する運動パターンであり、主に以下のような特性を持っています。
6-4-1. エネルギーの蓄積と放出
SSCは筋肉が動的にストレッチされた際、弾性エネルギーが蓄積され、それが筋肉の短縮時に効率的に放出される仕組みです。これにより、運動の効率が向上します。
6-4-2. 神経系の協調
SSCは神経系による迅速な反応と調整がなされることで、より強力な力発揮につながります。適切なテンセグリティ構造があれば、身体全体の協調的な運動が可能になります。
6-4-3. 運動の連鎖的な伝達
アナトミートレインの観点から、特定の筋肉群が連動して動くことで、力が効果的に伝達されます。これにより、身体全体のテンセグリティが強化され、運動効率が向上するのです。


人体をテンセグリティ構造として捉え、アナトミートレインに基づいて考えると、ストレッチショートニングサイクルが運動の基本原理であることが明らかになります。圧縮要素である骨格と、張力要素である筋肉・腱が相互作用することで、効率的で力強い運動が実現されるのです。この視点を理解することで、ニーアウト・インのスクワットにおける運動システムや意識を総合的に把握することが可能になります。結果として、強化方法やリハビリ・メンテナンスのアプローチにもつながるでしょう。



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