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向井拓海ちゃんと原田美世さんの戦いを検証する試み

1・はじめに

 ちょい前にデレステ内で開催されたイベント「ススメ! シンデレラロード」向井拓海編&原田美世編コミュにて描かれた戦いを検証してみます。拓海編はわかりやすいバトル展開だったので違和感はないと思いますが、美世編に「戦い」なんて描かれたの? と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし本記事は戦いという物差しでふたりのコミュを見ていったほうが内容を消化しやすいのでは、という考えのもとで物語を検証していきます。

2・どんな人物が何を目的として戦ったのか?

 まず戦いの主体であり物語の主人公である拓海と美世のふたりについて見てみます。ふたりとも負けず嫌いでまっすぐな性格をしていて、拓海は血の気が多く腕っ節が強い(でも悪事はしない)ツッパリ・ヤンキー系の女の子、美世は車やバイクが好きで、特に車に強いこだわりを持っており、ロータリーエンジンのモノマネができるという謎のスキルを持っているほか、車両の運転や整備の技術はシンデレラガールズのキャラクター内でもトップクラスの女性です。
 拓海編の物語の開始時、拓海はチームを組んで刺客とバトルを繰り広げるというよくわからない企画に参加することになります。拓海は仲間を集めてチームを作り、刺客たちと戦いを繰り広げるのですが、しかし拓海の目的は単に刺客をやっつけることだけに留まりませんでした。そうではなく、プロデューサーから自分に与えられた仕事を完ぺきにこなすことが拓海の真の勝利の形でした。

ここで拓海が言っている「アンタ」とはプロデューサーのこと

 戦いに勝ってプロデューサーが取ってきた仕事を締めくくりたい、と拓海は実に誠実な姿勢です。
 美世編の物語も見てみましょう。美世もまたプロデューサーから仕事を与えられます。美世がいろいろな場所へゲストを乗せてドライブに出かけ、その様子を動画にまとめてほしいというお仕事でした。

任せられた仕事を完遂する

 美世もまた誠実に仕事に取り組んでいくのですが、彼女も戦わねばなりません。

車に人を乗せるのは命を預かること

 自動車教習所に行くと習うことですが、車は人の命を奪う凶器にもなる乗り物です。慎重に車を運転することで危険なものから他人の命を守りつつ、仕事をきちんとやり遂げるという美世の戦いがここに発生しています。
 両者ともに、困難と戦い、それを制して仕事をやりきるという目的がありました。ミッションを完ぺきに成功させるために戦うという点では共通しています。真面目で責任感のある戦士たちです。

3・どんな戦法で戦ったのか?

 ここからは具体的にふたりがどうやって戦いを展開していったかを見ていきます。まずは拓海の戦いから。
 刺客との戦いに備え、拓海は木村夏樹・兵藤レナ・水木聖來・中野有香の四人に声をかけ、チームを結成します。間髪入れずに大和亜季と木場真奈美たちに教官になってもらい、フィジカル面を鍛える特訓を開始します。このように仲間と力を合わせて仕事を解決していくというのが拓海のとった戦法でした。拓海が日頃から周りをよく見ていて、勝負に強そうなメンバーを把握していたため為し得た戦術でしょう。
 また、第一の刺客との戦いがクイズによる戦いだった、と明かされたときは頭脳戦に勝つため池袋晶葉を助っ人に呼んでいます。

颯爽と登場する晶葉

 拓海には仲間を惹きつける人望があるようです。もちろん、仲間に頼ってばかりいるのではなくチームのリーダー(物語の中では”アタマ”と呼ばれています)として刺客たちと勇敢に戦います。スタッフを集め、適材を適所に配置し、リーダーとして先頭に立つという戦法で拓海は戦っていきました。

確実に勝ちを拾いに行く
チームを組んでいるからアタシ”ら”

*   *   *

 美世はどうでしょうか。ゲストを招いてドライブするという仕事を成功させるため、美世はゲストを楽しませる様々な工夫をしています。ドライブの行き先や車内でのトーク、BGMなどに気を使い、ドライブを車で場所を移動すること以上の体験にしようとしています。その体験は非日常的なものである、と物語の中で示されました。

車に乗ると非日常の世界にいける
車は単なる移動手段に留まらない

 車という機械を使いこなし、その能力を最高のところまで引き出すのが美世のとった戦術でした。また、拓海がチームを組んだのと対照的に、美世はひとりで工夫を凝らし、ハンドルを握って車を運転します。独力で(ゲストの命を預かりつつ)やれることを全力でやる、という戦法で美世は戦い、仕事を最後までやりきりました。

4・どんな敵と戦ったのか?

 拓海も美世も物語のラストでは仕事を完ぺきに終え、目的を達成します。つまりは戦いに勝利したということです。しかし、もし戦いに負けていたらどうでしょう。仕事はうまくいかず、仕事を行った本人たちも周囲の人間も嫌な気分になると思われます。それを防ぐために勝ちに向かった(仕事を成功させるのが自分たちやプロデューサーや仲間など周りに迷惑をかけない社会的・道徳的に良いことだから仕事をこなした)とも解釈できるのですが、戦いという物差しで見ればそこに敵対者がいるはずです。バトルの相手、つまり敵がいるからこそ戦いは成り立つわけです。
 では拓海や美世にとっての敵対者とは誰でしょう。彼女らの目的は仕事をやり遂げることですから、敵はその逆のことをする者=仕事をやり遂げない拓海や美世、例えば"アタマ"としてリーダーシップを発揮しない拓海や車を乱暴に扱う美世です。そうした敵対者と反対のことをしたから拓海たちは勝てたわけで、今回の物語でふたりが戦った敵対者は自分自身だったのだと言えます。

自分が誇れる自分であるために戦った
これからも車と一緒に走り続ける

 自分自身を乗り越えるために戦い、ふたりは成長していきます。仕事が失敗するのが不都合だからがんばったのではなく、自信をつけたり、より強い自分を目指すために自分と戦い、勝利しました。今回のコミュは主人公たちが主人公自身と戦う物語だったと筆者は考えます。

5・今回の戦いを「戦いの原則」にあてはめて考える

 おしまいに、ここまで見てきたふたりの戦いを「戦いの原則」にあてはめて考えてみます。戦いの原則は第一次世界大戦後のイギリス陸軍で確立され、今日ではその発展形がアメリカ陸軍のマニュアルへと取り入れられています。九項目からなる原則で、ものすごく大雑把に言うと「この原則に沿って考えて戦えば戦争に勝てる見込みが増加するよ」という教訓のようなものです。
 九つの原則は以下の通りです。

・目標
・攻勢
・集中
・兵力の節用
・機動
・指揮の統一
・警戒
・奇襲
・簡明

 まずはじめに目標の原則は戦いの目標をはっきり定めないとイカンということです。今回のコミュでは先に述べたように「仕事を成功させる」という目標がしっかり定まっていました。主人公たちが悩みながらゴールを目指す……のではなく拓海も美世も当初から目標がはっきりしていました。
 攻勢の原則は単にオフェンシブであるとか、敵勢力に攻撃しまくることを指すのではなく「自分のやりたいことをやる」というイメージです。例えばスポーツやカードゲームの試合でも、自分のチームやデッキが最も力を発揮できるプレーをやり通し、相手のやりたいことは妨害し、イニシアティブを我が物とすることが主目的となりますが、それと同じようなものです。拓海も美世も常に積極的に行動したり工夫したりして、自分のやりたいことをやり、成果を自分の物にしていきました。
 集中の原則は戦力を質・量ともに決勝点に集中して勝利を目指すという原則です。強力な(=質の良い)兵器や大量の人員を一点に投入して勝つぞ、というわけですが無限に質と量を追求できる組織はないので、有限のリソースを集中させる点をどこにするかが重要になります。拓海は勝負に強いメンバーを選び、持てる最高の戦力を仕事に集中して投入させました。美世もドライブという時間・空間に自分でできる限りのものを集中させています。
 兵力の節用の原則は簡単に言えば無駄をなくすということです。集中の原則に近いところがあるのですが、拓海は迷わず仲間集めと特訓のプランを立てて実行していますし、美世も無駄に工夫しすぎることなくドライブの計画を立てています。あれも必要だしこれもやっておいたほうがいいんじゃ……と考えるのではなく、ちゃんと無駄なく行動しています。
 機動の原則は戦闘における部隊の移動の重要さも含んでいるのですが、それ以上の精神面の機動、言い換えれば柔軟な思考の大切さまで含んだ原則です。拓海がピンチに際して晶葉を助っ人に呼んだり、美世がゲストを楽しませるための仕掛け(例えばオタク気質の荒木比奈と大西由里子をゲストに招いたときはドライブ中のBGMとしてアニソンを流す、犬を飼っている太田優と水木聖來を愛犬家の人気スポットへ連れて行くなど)を考えたりしたのは柔軟な思考によるものです。
 指揮の統一の原則は指揮者が配下の活動を統一する原則です。拓海は"アタマ"としてチームを統一していましたし、美世も企画の展開を自分で考え、統一していました。
 警戒の原則は平たく言うと戦う上でのリスクをできるだけ潰しておくという原則です。想定外のことまで想定し、リスクに対処せよ、という原則ですね。美世が安全運転を心がけリスクを潰したのに対し、拓海は警戒がおろそかになり刺客に負けそうになった、という場面がありました。

「なんでもあり」というルールのバイクレースでの一コマ

 この場面は拓海と刺客がバイクで一対一のレースをするものの、拓海のバイクに細工がされており、故障してピンチになるというシーンです。ルールが「なんでもあり」だったため卑怯な手を使われたわけですが、この点は拓海の警戒が弱かったといえます。しかしこの次の場面では拓海の仲間たちといままで倒してきた刺客たちが力を合わせ、拓海に新しいバイクを届けるという展開になり、拓海の人を惹きつける力が結果的にリスクを潰すことになります。
 奇襲の原則は警戒の原則とは反対に、相手の意表を突いて戦うべしという原則です。拓海が前述のバイクレースに勝利できたのも敵だった刺客までもが手を貸して新たなバイクを持ってきてくれたという奇襲でしたし、美世の感性や創造的な思考によってドライブは非日常的なもの、意表を突くものとなりました。
 簡明の原則は戦いの展開はシンプルなものがベストであるという原則です。複雑な作戦では失敗する可能性も上がってしまいますが、余計なものをそぎ落とした基本的な作戦なら成功する確率が上昇します。拓海も美世も突飛な発想や捻った回答ではなく、自分たちのやれることをそのまま実行していきました。
 このようにふたりの戦いは概ね原則を守った形となりました。だからこそ
目標をすることができたのです。

6・まとめ

 以上、今回のふたりのコミュを「戦い」と見立て、検証してみました。結果的には拓海のリーダーシップや人望、あるいは美世の仲間の命を預かりつつアイデアを凝らしてゲストを楽しませる考えの作法が勝因となったと言えますが、こうしてタスクを解決するヒントをユーザーに表してくれるシンデレラガールズというコンテンツは、やはりたくさんのことが学べるものだと思います。今後もまた、いろいろと学ばせてもらいたいなと思いつつ、本記事を締めます。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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