排泄センサー「ヘルプパッド2」がグッドデザイン賞2024を受賞しました!【提出資料公開】
排泄センサー「Helppad2(ヘルプパッド2)」がグッドデザイン賞2024を受賞しました!
実は、abaがグッドデザイン賞にエントリーするのは今回が2回目。初代ヘルプパッドは、2022年グッドデザイン金賞を受賞しています。
エントリーも2回目となれば、慣れたもの……と言いたいところですが、実際には手探りの連続でした。というのも、初代ヘルプパッドと、ヘルプパッド2では「おむつを開けずに中が見たい」というコンセプトは共通しつつも、すべての仕様を見直し、デザイン・性能が大幅に進化しています。
その違いをどうすれば、しっかりと伝えられるのか。同じような事例はなかなか見つけられず、私たちも苦労したので、今回のnoteでは、一次審査と二次審査に提出した資料や展示の工夫について紹介します。これからエントリーを考えている担当者の方に活用していただけたらうれしいです。
一次審査
一次審査は、フォーマットに沿った書類審査です。
以下は私たちが書いた内容です。
■ 概要(和文160字以内 / 英文400字以内):
センシング技術とAI技術を使い、便や尿の「におい」で排泄を検知する排泄センサー。ベッドに敷いて電源を挿すだけで簡単に設置でき、おむつや衣服を着用したまま使用可能。おむつを開けずに排泄状況が分かることで排泄介助の負担を軽減し、要介護者の尊厳を守るコンセプトはそのままに、使い勝手やメンテナンス性を大幅に進化させました。
The product is in a simple design that can be easily set on the bed. It is usable while wearing clothes and diapers. Sensing the smell of excrement through odor sensors will accurately detect the user´s excretion situation. This will bring innovation to excretion care which only relied on experience and intuition of caretakers.
■ デザインのポイント(各50字以内):
尿と便をそれぞれ検知できる設計に変更し、「便の場合は早くおむつ交換したい」という介護現場の願いを実現
においセンサーを身体の真下に配置する仕様に変更することで部品点数が半減し、設置時間を67%削減
体圧分散は変えずマット幅を60%減らし、皮膚トラブルの誘引となりうる仙骨部への接触を避ける設計に変更
■ デザインが生まれた理由/背景(400字以内):
2022年度グッドデザイン金賞を受賞した前モデルのHelppad(以下、Helppad1)は介護職の方々の願いを背景に開発され、わずらわしい機器を身体に装着することなく、排泄をにおいで検知できる仕様が画期的であるとして、介護現場から歓迎されました。しかし、その一方で大きな課題にも直面しました。センサーに接続された吸引チューブが空気と共におむつから漏れた排泄物を吸い込むことがあり、少なからず清掃等の負担がありました。そのため、新モデルのHelppad2ではすべての仕様を見直しました。技術の発展により空気を吸わずともにおいを直接検知する仕様に変更。吸引チューブをなくしたことでセンサーとマットのみのシンプルなデザインとなり、設置が容易になると共に誤操作の減少やお手入れのしやすさも実現。介護職と要介護者の”かけ橋”として、より適切で快適な排泄ケアを支える存在となることを目指しています。
■ デザインを実現した経緯とその成果(400字以内):
開発にあたって、介護職の方々から「尿だけではなく、便も検知してほしい」と要望があり、前モデルのHelppad1では、においで尿・便の検知を実現しました。判別できるのはあくまでも「排泄の有無」でした。しかし、介護現場からは「尿と便、それぞれ分けて検知してほしい」という要望が多く寄せられ、その期待に応えるべく、AIの開発に努めました。7年かけて約16万の排泄データを収集し、AIに学習させることでHelppad2は尿・便を分けて通知できるようになりました。さらに、尿と便をそれぞれに対して何回目の排泄で通知するかも設定できるため、「便の場合はなるべく早く交換してあげたいが、尿の場合はおむつ交換タイミングを遅くして安眠を優先したい」という介護者の願いに即した排泄ケアが可能となっています。結果、要介護者の不快感や、排泄物への接触時間が長くなることに起因する皮膚トラブルリスクの軽減等にも寄与しています。
■ 仕様(200字以内):
排泄センサー:全⻑70cm×全幅5cm×全高2cm カバー:全⻑145cm×全幅17cm×全高1cm(材質PU) マット:全⻑83cm×全幅16cm×全高2cm(材質PVC)
〈一次審査の書類作成時に意識したこと〉
「おむつを開けずに中が見たい」という介護現場の声をしっかりお伝えする(初代モデルと共通するものですが、今回も改めて記載しました)
初代モデルを発売したことでわかった「排泄の中でも、とりわけ、便が出ているかどうかを知りたい」という要望に対して、どのように応えたのか、その結果、現場でどのように活用いただいているかをしっかり記載することを意識しました
二次審査
二次審査は製品展示になります。二次審査では「会場に展示された応募対象を観察し、操作・体験しながら応募情報と照らし合わせ、その意義や実物の適切さを問い、審査」されます。
(参考)手引き
「応募対象の現品」の展示を選択
二次審査のエントリーにあたって
A 応募対象の現品
B 現品の代替物(A1縦サイズ・パネル1枚)
いずれかを選択します。
※応募対象が製品・サービス/システム・活動の場合
私たちは「応募対象の現品」、つまりヘルプパッド2を展示することを選びました。
補足資料について
さらに、事前申請する小間からはみ出さなければ、補足資料としてパネルや紙資料、模型、動画なども展示可能だったため、以下も一緒に展示しました。
タブレット端末×2台
一方は、ヘルプパッド2からの通知状況のデモ画面が見られる。もう一方は、ヘルプパッド2を導入してくださってる施設さんに導入した感想を話してもらっている動画を流す。
解説パネル
遠くからも目に留めてもらえるよう、ヘルプパッドの特徴を分かりやすく解説したA3サイズのパネルを作成。
製品チラシ
手に取って読んでもらいやすいよう、A4サイズの製品チラシも用意しました。
〈二次審査で工夫したこと〉
ヘルプパッド2はプロダクトの性質上、審査会場で実際に使ってもらうことが難しく、また見た目だけではその用途が伝わりにくいという課題もありました。そこで、実際にヘルプパッド2を使ってくださってる介護施設の方々にご協力いただき、導入のきっかけや導入後の感想を語っていただきました。ユーザーの方々のリアルな声を動画で流すことで、臨場感をもって現場での反響や活用状況をお伝えできればと考えました。
グッドデザイン賞受賞における評価ポイント
受賞にあたっては、次のようなコメントをいただきました。
審査委員のコメント
高齢化が進む社会において介護現場に一石を投じた排泄センサーHelppad1の後継。被介護者にとって排泄は自尊心に直結する深刻な課題であり、介護職の方々にとってももっとも解決したい問題の一つと言え、そこにしっかりと踏み込んだ勇気のあるプロダクトである。 Helppad2では、吸引チューブをなくしセンサーとマットのみに見せることに成功。マット幅を小さくし、優しいカラーリングになった事は被介護者の安心につながっている。 数多くのテクノロジーをベースに実装、検証が繰り返され、見えない部分でも大幅な改良点が成されていることが理解できる。プロダクトを考察すればするほど介護現場の切実さが伝わり、開発関係者に大いなる尊敬の念を抱かずにはいられない。介護現場での人員不足に直結する問題解決として、今後もさらなる発展を遂げてほしいと心から願うプロダクトである。
グッドデザイン受賞を受けて
Helppad2を開発するにあたって、多くの介護関係者の方々にご協力いただき、ヒアリングや実験を重ねてきました。今回の受賞はもちろん、審査員コメントの中で「プロダクトを考察すればするほど介護現場の切実さが伝わり」と言及していただいたことが非常にうれしかったです。大勢の方々から託していただいた介護現場の想いをしっかり形にし続けるべく、これからも製品開発に取り組んでいきます。