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迷ってもいい、音楽を信じて進め。それがMyGO!!!!!

 「バンドリのアニメ?ファンの人がみればいいやつだよね。」
 それが、BanG Dream! It's MyGO!!!!!を最初に目にしたときの感想だった。誰が言ったわけでもないが、一見さんお断り、バンドリのアニメというだけで、そんな壁を感じてしまう。
 自分もMyGO!!!!!には特に興味なく、いわゆる「ゼロ話切り」をしていた。MyGO!!!!!を視聴したきっかけは、とあるバンドマンの音楽アニメ解説動画で熱烈にお薦めされていて、「あの人が面白いというなら、まあ一話だけでも見るか…」という程度のものだった。

 第1話。ショパンの雨だれのピアノが奏でられ、とある5人バンド…Crychic…で、バンドの創始者である一人の少女(祥子)がずぶ濡れのままでバンド脱退を告げる。このシーンは陰鬱な雰囲気のまま進み、
「私は、、、バンド、楽しいって思ったこと一度もない。」
との衝撃的な言葉と降り止まぬ雨が映し出されてフェードアウトする。

崩壊するCrychic

 場面が転換し、MyGO!!!!!の本編が始まる。この物語は、明るく優しいが、やや強引でデリカシーに欠けている少女(愛音)が、Crychicに所属していた3人(燈、さよ、立希)とバンドを始めるところから動き出す…はずが、話はなかなか動かない。3話では、一話まるまる使って燈視点からのCrychicの過去編を流す。

 ようやく4話にしてバンドの結成シーンになり、燈は、バンドを『一生…やろう』と真剣に提案する。Crychic解散の傷から、バンド解散は二度と味わいたくないという気持ちからの提案である。
 燈だけを見て躊躇なく真剣に「一生やる」と誓う立希。
 「私も誓うね」と、意味ありげな笑顔で軽くふわっと追随するさよ。
 一生という言葉に、平均寿命は90才だよ…と尻込みし、結局「一生とか分からないけど、まずはライブまで」としぶしぶ諒承する愛音。
 そして、この話を近くで聞いていただけなのに、「一生」という言葉に反応し、「おもしれー女」と、気まぐれのようにバンドに入ってくる少女(楽奈)。

桃園の誓い…もとい、一生の誓い。何故か一生に反応する楽奈(右端の少女)

 この時点で、既にMyGO!!!!!のメンバーの見ている方向が違っていそうなことが示されている。
 愛音は目立つことには熱心だがギターの技量が不足している上に練習に後ろ向き(その後改善されるが)、思ったことをすぐ口にしてしまう、後先考えずに行動する強引さ、さらに困難にあうと逃げ出してしまう弱さがある。
 立希は練習熱心だが強気で口調がきついので、愛音とは常にぶつかりあう。バンドを大切にする気持ちは持っているが、燈を気遣う気持ちが強すぎる上に、MyGO!!!!!のオリジナル曲の作曲に苦心し、「自分は何故祥子のように上手く作曲してメンバーをまとめることができないのか」というコンプレックスも抱えている。

作曲に苦悩する立希

 燈はオリジナル曲のために心に響く歌詞を紡ぎ出すも、生来の口下手もあって自分の思いを口にだせず、自分から積極的に行動する勇気に欠ける。また、「ライブで自分が春日影を上手く歌えなかったことが原因でCrychicが解散した」と思い込んでいる。
 楽奈はギターの腕前やアドリブ演奏に飛び抜けた才能を示すが、自由気まま過ぎるうえに会話も断片的で何を考えているかわからず、練習にも来たり来なかったりで、メンバーとの意思疏通ができていない。
 そよは、ばらばらなバンドのまとめ役として活躍しているものの、何故かライブ自体への熱意が感じられず、当日になっても自分の楽器(ベース)のチューニングが合っていない始末。「みんなでやる」「みんながいないと…」と発言するが、「みんな」とは誰なのかは明かさない。Crychicのオリジナル曲「春日影」を練習曲にすることは認めるものの、ライブで演奏することには否定的になる等、Crychicへの偏愛が見え隠れする。

そよの意味ありげな笑顔

 このようにメンバーそれぞれの視線がバラバラのまま、練習不足、作曲が進まない等のトラブルと感情のぶつかり合いは7話前半まで続く。この時点で、既に視聴することが辛い。明確なカタルシスがないうえに、バンドがまとまらない原因が何一つ解決しない。

 そして迎えた初ライブの日。楽奈はリハーサル途中でいなくなり、愛音は緊張しまくって表情がおかしなことに。

美少女がしてはいけない表情の愛音

 なんとか楽奈を捕まえて本番に挑むものの、不安は的中し、愛音は曲の出だしを失敗して何回もやり直すことに。やっと曲が始まると、今度は緊張のあまり燈の声がでない。しかも、愛音は、燈の声が全然でていないことに気付かず、とにかく自分が演奏を止めない程度に弾けているので、必死すぎる顔で「この調子で…」と思っている。

美少女がしてはいけない表情再び

 失敗するかに思えたライブだが、燈は、観衆の中に祥子がいることに気付き、「頑張れと言われた気がした」ことで声がでるようになる。

祥子からの燈へのエールが伝わる。

 曲が進むにつれて演奏も歌も盛り上がり、大歓声の中でオリジナル曲を完奏する。初ライブとしては、出だしのもたつきはあっても十分すぎるほどに上手くいった。愛音も、最初の緊張はどこへやら、最高の笑顔をふりまく。

美少女を証明する笑顔

 しかも、演奏を終えて予定通りに退場するはずが、燈がステージ上から祥子に予定外の感謝の言葉を語りだし、この朗読ともいえる行動に呼応して、雰囲気を盛り上げるギターを楽奈がアドリブで弾きだす。ギターのメロディは、いつしか魔法のように自然に「春日影」のイントロに変わっていく。満面の笑顔で弾けるようにドラムを叩く立希、そこに食らい付いて練習の成果を見せる愛音、必死で歌う燈、思いのままに弾きまくる楽奈。

 すべてが奇跡的に噛み合い、次の出番を待っていた先輩バンドにも手放しで「凄く良かった」と褒められるまでにライブは大成功。MyGO!!!!!は、メンバーそれぞれが問題を抱え、バラバラでありながらも、ひとたびステージに上がると、「ライブの成功」という目標の下、皆の気持ちが1つになって感動が押し寄せるという、素晴らしい音楽の魔法を見せてくれる作品である…





 という感想は、7話のラストで打ち砕かれる。
 「春日影」の演奏中に、まさにその「春日影」の作曲者である祥子がショックを受け泣きながらライブ会場を飛び出していた。そして、その姿を見てしまったメンバーがいた…そよである。

 Crychicを偏愛し、春日影のライブ演奏を嫌がっていたそよは、涙で走り去る祥子の姿を目にして、演奏後に「何で春日影やったの!?」と感情を爆発させる。

有名なあのシーンのそよ。
美少女がしてはいけない表情極まる

 楽奈の天才的な音楽性とアドリブの強さは、「メンバーとの意思疏通ができておらず、春日影を演奏したくないというそよの気持ちを知らなかった」ことで完全に裏目にでてしまった。

 7話が残酷なのは、これ以上ないぐらい奇跡的に上手くいったライブを描いているようで、実際は、「メンバーは、自分のプレイのみに集中し、誰一人としてそよの異変に気付かなかった」ことを最後の最後に暴露するところ。

うつむくそよ、メンバーの視線はバラバラ。「バンド」ではなく、個人の集まり

 その結果、解決していなかったメンバー間の歪みが一気に爆発し、バンドは空中分解してしまうことに。更には、7話で春日影への、そして歌うことへのコンプレックスが解消できたはずの燈には、またもやバンドの空中分解という辛すぎる結末に心を閉ざしてしまう。

膝から崩れ落ちる燈。
バンドなんて、やりたくなかった…


 この陰鬱な展開は、9話…実質的には10話前半まで続く。正直なところ、見るのが辛かった。10話までに脱落した人も多数いると思う。

 しかし、である。それでもMyGO!!!!!が素晴らしい作品であると言えるのは、これまでの矛盾やぶつかり合いを経験したからこそ味わえる、10話での圧倒的なまでのカタルシスにある。

 MyGO!!!!!のメンバーは、欠点と裏腹の長所を抱え、また、欠点を少しずつでも克服している。
 燈は、会話では気持ちを上手く伝えられないが、その気持ちを歌詞にして唄うことはできる。また、皆と一緒にバンドをやりたいという気持ちを持ち続ける強さがある。
 楽奈は、アドリブに強く、燈の言葉に絶妙にマッチしたギターを即興で弾ける。また、「一生」のこだわりは、実は、一旦は失った自分の居場所を探していたからでもある。
 立希は、言葉がきつく「ライブという目標がないと絶対逃げる」と愛音を責めつつも、それは、ライブをやることで愛音が居続けることを望む言葉でもある。
 愛音は、立希に反発しながらも練習を重ね、かつ、デリカシーに欠けることのは、相手に踏み込んでいく強さの裏返しでもある。

アンタがあたしをいらない、って言っても、あたしはやるけど

 また、そよは、祥子が走り去る場面を目撃しながらも、演奏を止めて音楽を壊すことはしなかったし、愛音のバンドをつなぎ止めるための強引とも言える行動を全否定はしなかった。それは、愛音の姿に、Crychicへの想いを断ち切れない自分を重ねたのかもしれない。「終わらせる」ためではあれ、バンドのメンバーが揃った場所に足を運ぶまでの愛着が、そよに(無意識にでも)育っていた…と感じられた。

「終わらせてあげる」
ためにそよはメンバーに会いに行く

 これらの伏線や各メンバーの欠点と裏腹の長所、自分と真正面から向かい合って弱さを克服しようとする努力、そして、一旦は空中分解してもなお残る想い…沢山の糸は、すべて綿密に計算され、むき出しの心で音楽をぶつけ合う10話後半の展開が編み出される。

 燈は、9話で心が打ち砕かれても、今自分ができること…言葉を超えるために、たった一人で足を踏み出す。楽奈は、その自由な行動で、一人で足を踏み出した燈に出会い、アドリブでギターを合わせる。7話でバンドを崩壊に追い込むきっかけとなったこの行動から次々と波紋が広がり、メンバーが抱えていた欠点や弱さが反転し、ドミノ倒しのように10話のクライマックスへと雪崩れ込む。その結果得られるカタルシスは、他の作品では一度も感じたことがないまでに素晴らしいものだった。

 また、音楽要素が多いこともこの作品の魅力。あまり語られていないところでは、きまぐれな楽奈が最初は燈の「一生」に反応するが、次第に立希との距離が近くなっていくことが挙げられる。

 楽奈は「速弾きができてきっちりと上手い」タイプというよりは、「センスがあり、天才的にアドリブに強い」という、感情で弾くタイプのギタリスト。これが重要。
 立希はDTMを勉強中で曲作りに悩むが、楽奈は、立希が持ってきた譜面を一見してその場で素晴らしいギターソロを弾き出す。これは、立希にとっては、楽奈の才能に打ちのめされる場面でもある。立希が悩み続けて書いた譜面から一瞬にして素晴らしいソロができてしまうのだから。しかし、これは、楽奈が(本人が意識しているかは別として)天才的なアレンジャーでもあることを意味する。

 実際、立希は、楽奈のソロを聞いて「マジか…今の入れて作り直す」と即決している。おそらく、立希と楽奈との間で、何回も「立希が譜面を見せる→楽奈がアドリブアレンジ」というサイクルが繰り返されたはず。立希は、楽奈の才能を認め、楽奈も、自分のアドリブを取り入れて楽曲がどんどん良くなっていくのを見ることが楽しくなり、絆が深まっていったはずだ。

天才アレンジャー、楽奈

 そう思うと、楽奈が「バンドやる」と言う相手がほぼ立希だけであり、「眠い」と体を寄せる相手が立希だということも理解できる。作曲家とアレンジャーの絆が感じられる展開だと感じた。 

 MyGO!!!!!は、ある面では、これまで積み上げてきた「バンドリ!」というブランド、そしてそれ故に高くそびえ立つ「一見さんとの壁」を突き破る野心的な作品である。一部では、「MyGO!!!!!は鬱アニメ」という報じられ方もされている。それは10話前半までだけを見ると、間違いではないかもしれない。しかし、10話を視聴した後は心から言える。「MyGO!!!!!は、鬱アニメではない。音楽の素晴らしさを爆発させた、皆を元気にするアニメである」と。

 そして、11話以降は、MyGO!!!!!は一転して心安らぐシーンが多く、フルコーラスと3D映像で迫る素晴らしいライブシーンを堪能できる。さらには、最終話では、これまでとはまた別の次元の衝撃的展開を経験することができる。

 …よく考えると、「心安らぐシーン」とは書いたものの、11話~13話を文字起こしすると「心安らぐシーン」はどこにあるのか?という疑問がでてくるかもしれない…しかし、10話までの「溜める」展開とその後の暴力的なまでのカタルシスを経験した後は、そこに確かに「心安らぐシーン」が多数あると断言できる。

視線がバラバラなピンぼけ写真に安らぎを感じたあなたは立派なMyGO!!!!!ファン

 ここまで覚悟をきめて9話までの心に負荷がかかる展開…いわゆる「○話切り」をされてしまいそうな展開を敢行し、そこまで溜めたからこそのカタルシスと音楽の素晴らしさは、皆に伝えたい。
 そして、この作品を作り上げたすべての方々の勇気と決意に感謝を送ります。本当に有り難う御座います。




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