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ふくしま浜街道トレイル冒険録2:吊るし雛と大師講、そして末続駅(小名浜→四倉→広野)

 今回歩く福島県いわき市は、私の地元である相馬市とは同じ浜通りという地域に属している。しかし、同じ浜通りとはいえ、私はいわき市を地元と呼べるほどの土地勘や親しみは正直言うと無い。
 あなたの地元はどこですか?と聞かれたとき、なんと答えるだろうか?その答えは一つではないと思う。私が福島県の人に地元を聞かれたならば相馬市と答えるが、県外の人に聞かれたら福島県と答えるだろう。都内の人ならば住んでいる自治体名よりも最寄り駅を答えるかもしれないし、海外で聞かれれば日本と答える場合もあるだろう。地元という言葉はなんとも定義が難しい。
 いわき市は相馬市から南に約100km離れている。相馬市民からすると、北に50km離れた仙台市のほうが、いわき市よりもなじみのある場所だ。とりわけ震災以降は、相馬といわきの間には原発事故による避難指示区域が長い間横たわっていたので、以前よりもいわきは縁の薄い場所になってしまったように感じる。
 だから、いわきを歩き、その記録を書いていても、私はここが自分の地元であるかのように親しみを持っていわきを紹介することは難しい。かといって、観光客のように全くの部外者の視点に立てるほどなじみの薄い土地というわけでもない。なんとも複雑だ。
 とにかく、今回はいわき市を北に向かって歩いていく。

Day2:小名浜→四倉

2024年2月3日(土曜日)
 湯本駅からイオンモール小名浜行き送迎バスに乗り、イオンモールから歩き始める。
 今日最初に訪れるのは、いわき市の観光名所の一つ「いわきマリンタワー」。エレベーターで頂上に登ると、小名浜の港湾地帯が見通せる。

 観光名所の割には人の気配が無い。マリンタワーはそれほど高さは無いので階段で降りることができる。人のいない階段を降りていくと、階段には海にまつわる展示がされているが、どうも写真が古びている。よく見ると、ソビエトの文字が残っている。ソビエト崩壊から30年以上、ここのパネルは展示替えしていないのだろう。階段を歩いて降りる人も多くはないのだろう、30年展示を放置しても許されるような間の抜けたゆるさがなんともおかしい。調べたところ、かつてソビエト船籍だった大型客船「マクシム・ゴーリキ」は、2008年に解体されたそうだ。

 マリンタワーの建つ三崎公園を降りてしばらく歩いていくと、中ノ作という漁港に何やら人だかりが。キッチンカーも出ているようで、お祭りだろうか?
 気になって覗いて見ると、吊るし雛祭りという文字が。気になったので協力金500円を払い、お祭りが行われている建物の中へ。古民家の中には、鳥や花など色々なモチーフ無数の吊るし雛が無数に展示されていて壮観だった。会場を出ると、大師講の小豆粥のお振舞いもある。小豆粥は素朴な味わいで、とても美味しい。「大師講」という言葉には私は馴染みがないが、いわきでは一般的な風習なんだろうか。
 偶然通りがかったところで素敵なお祭りに出くわし、印象的な体験をさせてもらった。

 海岸に沿ってしばらく歩いた先にある塩屋崎灯台。ここの灯台は全国に15箇所あるてっぺんまで登れる灯台だそうで、灯台スタンプ帳というのが打っていたので買ってみた。すべての灯台をコンプリートすると記念品が貰えるそうだ。ほかの灯台はどこも交通の不便なところなので、全てコンプリートしようと思ったらかなり大変そうだ。

 塩屋崎灯台を降りて少し進むと、「いわき震災伝承館」があり、いわき市の震災について展示されている。東日本大震災にまつわる震災伝承施設は各地にあるが、ここは恐らく震災専門の伝承施設としては最南にあるものだと思う。浜街道トレイルを歩く旅では、これからたくさんの震災伝承施設を訪れることになる。

 舞子浜の堤防の上を歩き、四倉駅に着くころにはすっかり日も暮れていた。この日は約24kmの道のり、7時間30分かけて歩いた。風が強くて少し寒かったが、西高東低の冬型気圧配置の時は、新潟や会津に雪を降らせた風がカラカラに乾いて浜通りに吹き降ろすので、冬の浜通りでは毎日のように強風が吹き荒れる。空っ風を浴びて浜通りの冬を全身で感じる一日だった。

Day3:四倉→広野

2024年2月4日(日曜日)
 3日目は四倉駅から再開する。
 蟹洗温泉、という海沿いの温泉旅館から小さなトンネルをくぐると、波立(はったち)海岸に出る。弁天島という小さな島に橋が渡してあり、渡った先には鳥居がある。渡ってみると橋の先の岩場には波が荒々しく打ちつけていて結構怖い。恐る恐る進んで、鳥居をくぐってみた。

 JR常磐線で四倉の次の駅が久ノ浜、その次が末続(すえつぎ)で、末続がいわき市の最後の駅となる。海岸線に沿って浜通りを縦断する常磐線だが、車窓から海が見える区間は意外に少ない。いくつかしかない常磐線から海が見える区間のひとつがここ末続駅だ。赤い屋根のレトロな駅舎が保存されており、ホームから海を望む景色と合わせて鉄道ファンに人気のようで、駅ノートにはたくさんのコメントやイラストが書き込んである。
 私も駅ノートにコメントを残していると、ちょうど列車がやってきた。

 長かったいわき市は末続で終わり、2番目の自治体である双葉郡広野町に入ると夕筋踏切という踏切がある。踏切を渡った先に海が見えるのでフォトスポットになっているようだ。有名な鎌倉のスラムダンクの聖地を連想するような光景だ。

 今回の行程は広野駅で終わり。14kmほどの道のりを約4時間で歩いた。
 3日かけて歩いたいわき市が終わり、双葉郡に入った。広野町から北は、いよいよあの事故の影響で避難を余儀なくされた自治体を歩くことになる。

北側のセクションは執筆中。

南側のセクションは↓

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