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みちのく潮風トレイル冒険録22:箱崎半島は動物日和(両石→鵜住居)
今回の冒険の舞台はみちのく潮風トレイルの難所のひとつ、釜石市箱崎半島。箱崎半島一周は約35km。一日で歩けない距離ではないが、途中の千畳敷に寄り道をすることを勘定に入れると、途中でセクションを区切ったほうがよさそうだ。というわけで、途中どこかで野営して2日間に分けて歩くこととし、ザックに野営用のツェルトを詰め、冒険に出発した。
DAY35:両石駅→大刈宿
2024年8月24日(土)
JR釜石線快速はまゆり53号釜石行きは混雑している。どうやら途中の遠野でお祭りがあるらしく、遠野駅で大勢の乗客が降りていった。遠野物語の舞台やホップの産地として知られる観光地遠野、いつも通過するばかりで訪問したことはないので、いつかゆっくりと訪れてみたい。釜石線で三陸鉄道に乗り換える。釜石駅の各ホームは地下道でつながっていて、三陸鉄道の駅員さんが大きな声で乗り換えを案内している。釜石駅での乗り換えには、この先のセクションハイクでもまだまだお世話になることだろう。
釜石駅から一駅先、両石駅が本日のスタート地点。両石漁港から桑の浜漁港を経て、クマ注意の看板が立つ未舗装路の林道に入る。林道は車道と違ってアスファルトの照り返しが無く、また車が通れるように設計されているので徒歩道に比べると勾配が緩く、草刈りも行き届いているので歩きやすい。スギやヒノキの林が続き海もあまり見えないので、人によっては景観は退屈に感じるかもしれないが。
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林道を進むと仮宿漁港に出る。ここまで両石、桑の浜、仮宿と3ヶ所の漁港を歩いてきたが、3ヶ所とも飲み物の自販機があり、飲み物を補給することができた。もちろん水は持参してきていたが、この暑さの中、冷たい飲み物を都度補給できるのはとてもありがたい。
また、仮宿の集落には沖合に浮かぶ三貫島という島を祀る「三貫島神社」があり、参拝して旅の安全を祈願する。
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仮宿集落の先でトレイル本線から逸れると大仮宿という三貫島を望む浜辺に出る。大仮宿には現在は建物は存在しないものの、かつては漁業のための番屋があり、明治三陸津波では83名もの方が亡くなったという記録が残る。東日本大震災の時はここは既に無住の地となっていたのだろうか、調べた限りではわからなかったが、箱崎半島全体では約70人の方が東日本大震災で命を落としたということだ。地図上には大刈宿に明治三陸津波の慰霊碑があるように描かれていたので探してみたが、叢に覆われ石碑を見つけることはできなかった。
礫の転がる浜辺にツェルトを張り、野営とした。
野営場所に大仮宿を選んだことが正しい選択だったかはわからない。クマの棲む箱崎半島、安全な場所で野営しようと思えば人家のある場所、たとえば手前の仮宿漁港の軒下にでも野営したほうがよかったかもしれない。大刈宿は浜辺で開けていて、月明かりも出て明るいので、まあ大丈夫だろうと思ってこの場所を選んだわけだが、正直ちょっと怖かった。これからみちのく潮風トレイルを歩く方は、野営場所は各自の責任で選んでほしい。
ただ、静かな浜辺で波の音を聞きながら夜を明かすのは得難い経験であることは確かだ。
1日目は、約15kmの道のりを約4時間で歩いた。
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Day36:大仮宿→鵜住居駅
2024年8月25日(日)
翌朝。まだ暗いうちにツェルトから顔を出すと、三貫島の沖合に漁船の明かりが見えた。島の周辺で漁をすれば一夜で三貫文を稼ぐことができたということから三貫島と名付けられたそうだが、今でも好漁場として地元の人の漁に使われているのだろう。
手早くツェルトを畳み、周囲が明るくなるのを待って歩き始める。早朝の林道をクマ鈴を鳴らしながら歩いていくと、ガサガサと黒い影が遠くのほうの道を横切っていくのが見えた。おそらく、あれはクマだ…。幸いにも、クマがこちらの気配に気づいたのか逃げていったので危険はなかったが、みちのく潮風トレイルを歩いてきて初めて出会ったクマに冷や汗をかいた。
大刈宿から東側の箱崎半島には人家のある集落は無い。きっとクマにとってはいい棲み処だろう。怖いので、クマ鈴に加えてラジオも流しながら引き続き歩いていき、薄暗い大刈宿隧道というトンネルを通る。未舗装の林道にトンネルがあるのは珍しいのではないだろうか。
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箱崎半島を半周して、大沢遺跡という地点に出る。ここから箱崎半島の先端、千畳敷への寄り道の分岐がある。重い荷物はこの地点にいったんデポし、身軽になって千畳敷を目指す。寄り道とはいえ片道約4km、徒歩で1時間はかかる。
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岬の先端にある千畳敷は花崗岩でできた荒々しい海岸が特徴の景勝地で、細い階段を伝って岩の上まで降りていくことができる。花崗岩の上には、釣り竿を垂れる釣り人の姿があった。海岸に行くととんでもないところにいる釣り人の姿を見かけることはよくあるが、それにしてもあんなところまでどうやってのぼったのか。私はというと、海岸線まで降りていくのは少し怖かったので景色の見える場所までで満足して引き返すことにした。
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1時間かけて大沢遺跡まで引き返して荷物を回収、林道を再び歩き始める。途中、リスやノウサギ、シカが目の前を通り過ぎて行った。クマといい、今日は動物日和のようだ。
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箱崎白浜という漁港で人家の無いエリアは終わり、舗装路に入る。人里までくればクマの心配は少なくなるだろう。佐々栄商店というお店の前にやはり自販機があったので飲み物を補給して一休みして歩き続ける。次の箱崎漁港にも自販機があり、ありがたい。
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箱崎トンネルを抜けた先は根浜漁港。すると、何やら賑やかな人だかり…というか"車だかり"があった。釜石Meetsという看板が出ており、高そうな車が並んでいて、どうやら車愛好家が集まるイベントのようだ。車に興味はないものの、出店が出ていたのでカツカレーを購入して食べた。昨夜から行動食のスポーツようかんしか食べていなかったので、塩分とカロリーたっぷりのカツカレーは抜群に旨かった。
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箱崎半島の付け根にある集落は鵜住居。鵜住居という地名は、震災やラグビー関係の報道で耳にしたことがある方も多いだろう。震災復興のシンボルとして津波で全壊した学校の跡地に造られた「釜石鵜住居復興スタジアム」は、2019年のラグビーワールドカップの舞台にもなった。スタジアムの客席はラグビーの試合の無い日も解放されており、芝生のピッチを間近に感じることができる。
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スタジアムから、トレイルのルートは鵜住居の街に真っすぐ向かわず、小さな谷に沿って迂回するようになっている。無意味な遠回りではない。この道は東日本大震災の際、鵜住居小学校と釜石東中学校の生徒が避難したルートをたどる道となっている。「津波てんでんこ」や「釜石の奇跡」という言葉でこの鵜住居のエピソードは知られている。
鵜住居の駅前には「いのちをつなぐ未来館」という施設があり、震災についての展示がある。鵜住居では小中学校の生徒が的確な判断で避難をし、ほとんどの生徒の命が助かった。一方で、「鵜住居防災センター」に避難した人々は津波に飲み込まれ大勢の方が命を落とした。鵜住居防災センターは津波の浸水区域に建ち本来津波の避難所としては想定されていなかったが、避難訓練の際の避難場所に指定されていたことなどから多くの人が誤ってこの場所に避難してしまい、命を落としたという。「釜石の悲劇」としてこちらの出来事は知られている。
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鵜住居駅で2日間の冒険を終え、三陸鉄道に乗り込んだ。
2日目はトレイル本線が約20km、プラス千畳敷への寄り道約8kmで合計28kmの道のりを8時間30分で歩いた。
8月とはいえ北東北の真夏のピークは去ったのか、気温は25℃程度。それでも歩いていると滝のように汗が落ちてくるので、熱中症対策に持っていった冷感タオルや塩分タブレットが活躍した。また、ところどころの自販機で冷たい飲み物を補給できたのも助かった。アップダウンの緩い林道歩きがほとんどということもあり、暑い中でもちょうどいい負荷感で楽しんで歩くことができた2日間だった。
南側のセクションは↓
北側のセクションは未踏破!