夏のこと

夏が好き。でも暑さは苦手、油断したら死んでしまいそうだから。
だから夏を愛していたいのに、最近はあまりにも暑すぎる季節なので少し嫌いになってしまいそうだ。
だけれども嫌いになれない大きな理由がある。
その理由が、色々なことを直ぐに忘れがちな私が、覚えている思い出が多い季節が夏だからだ。
もちろん、夏休みという素晴らしい長期休暇があるから夏が好き、という面も大きいが、それよりも何よりも、夏に刻まれた数々の何気ない思い出が、私の心を夏という季節の温室に閉じ込めたまま逃がしてくれない。
鮮明に覚えている。夏のこと。
プールに入った後に着る服は、夏の熱気を纏って独特の温かさを孕んでいたこと。
真夏の体育館で文化祭に向けての吹奏楽部の練習をして、どうしようもなく汗が止まらなくなって顎を伝って流れ落ちた汗が木のひな壇に滲んで染みたこと。
夏祭りの日のまだ明るい時間、近所の公園からぼんやり聴こえる、余興のバンド演奏と歌声。
自宅でクーラーの効いた部屋から出た時の、廊下の木が熱されて漂うこもった独特の匂い。
そんな本当に何気ないひと時を、何年経ってもずっと覚えている。なんでかな。夏の暑さで溶けかけた脳は、どろどろで、その時の出来事といとも簡単に混ざりあってこびり付いてしまうからかな。


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