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ゴミ収集車の運転は電撃イライラ棒と一緒だと思う【ゴミ収集車の運転席からお送りします】
ゴミ収集車の運転はドキドキする。昔、テレビでやっていた電撃イライラ棒をしているようなもんだ。
イライラ棒は金属製のコースに電極棒を入れ、その電極棒をコースや障害物に当たらないようにゴール地点まで持ち運ぶゲームだ。電極棒がコースフレームや障害物に当たってしまったら、電極棒の先に取り付けられた火薬が爆発しゲームオーバー。
ゴミ収集車は爆発しないが大概そうだと思う。
ワシが働いている地域のゴミ収集は、家の軒先にゴミを出すと、収集車がそこまで行って回収するシステムになっている。朝から夕方まで、ゴミ収集車で住宅地を一軒一軒回ってゴミを収集している。
狭い道や駐車車両、歩行者を安全に避け、時には止まり、進んでいく。運転手と作業員3人一組、声を掛け合いながら安全確認をする。
毎日同じ時間にゴミを収集するのは簡単なようで難しい。道の混み具合、その日の体調、天気も影響する。
ただでさえ道が狭くて、工事現場とかあったら更に大変。おっきいトラックが止まっている先にゴミがあったら、なんとかして通りたいのである。
右を見て、左を見て、声を掛け合って慎重に収集車を動かしトラックの横を通り過ぎていく。まさに電撃イライラ棒。もしミラーでもぶつけちゃったりしたら一発アウト。
電撃イライラ棒ならウッチャンとナンチャンのリアクションで笑えるが、運転手のワシは血の気がサッと引くだけである。
もしどこかにぶつけちゃったら事故ってことで作業中断。警察や環境事業所、自分の会社に電話して事故したことを報告しなければならない。
そうなるとめちゃくちゃ大変である。
「あらぁ、今日は来るのが遅いわねぇ」
なんて近所のマダムが呟いているのを聞いたことがある人は、もう気付いているだろう。そう、ゴミ収集車になにかがあったのだ。
あれはワシが正式にゴミ収集車のドライバーになった日のこと。
地下駐車場にあるゴミ集積所に向かう際、狭い通路で運悪く、一般車と鉢合わせてしまった。
見つめあうゴミ収集車と一般車。すれ違う幅はない。しかも、後ろからも車が来てしまった。
十字路の左と後ろに一般車。中央にいる収集車に残されたスペースは前と右くらい。あわわわどうしよう。こうやって見つめ合っているときも、マダムたちはゴミの収集を待っている。判断に迷っている時間はない。すぐに決断すべきだ。
一般車に道を譲るべく、ワシは右にバックすることにした。
「今から右側にバックしますわ。左右の確認と誘導お願いします」
作業員さん二人に降りてもらい、それぞれ収集車の左右と前方、後方を確認できる位置についてもらう。
「オーライ、オーライ」
掛け声を頼りに収集車を慎重に動かす。左右の幅は完璧だ。安全に下がることができている。ワシって収集車の運転に才能があるじゃなーい。と、調子に乗っていたそのとき、運転席の正面から見えた作業員さんの表情が変わった。
いっつも毛糸みたいなほっそい目をした作業員さんの目が、大きく見開いたのである。口はあんぐり開けていた。ま、まさか。
そう、事故っていたのだ。
気付かないうちにゴミ収集車を地下駐車場の天井にぶつけていたのである。収集車の左右を気にしていても、十字路の右側だけ低くなっている天井は意識していなかったのだ。
ゴミ収集は即中断。作業時間は大幅に遅れることになった。
青い顔して会社に戻るワシ。部長と係長に高速で頭を下げまくる。みんなに大迷惑をかけた一日となってしまった。
この事故のあと、ゴミ収集の出発前のアルコールチェックで部長に
「ああた君、80万円」
と、天井の修理費をビシッと伝えられ、安全運転を一か月は念押しされることになった。はわわわわ部長すみませーん。あのときは本当に申し訳ありませんでした。
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