植松美月の個展「月に浮かぶ、」開催によせて
2023年の初夏に aaploit で植松美月の個展を開催した。そして、2024年の3月に植松美月の二回目の個展を開催する。
植松の作品を初めて見たのは、東京藝術大学の博士審査展なので、2022年の年末になる。植松は陳列館の二階で作品空間を構築していた。展示されていた作品は三点《咲きひらいて》、《吹き下ろす》、《瞬き》である。巨大な植物あるいは海洋生物のようにも見える《咲きひらいて》は紫と青のグラデーションが見える作品であり、様々な色と形から思考が広がる。陳列館の三分の一の空間を占める《吹き下ろす》は洞窟を思わせた。素材は市販の紙を用いており、束ねられた紙束は、それぞれのロットの色差を見ることができた。それら大きな二点の作品と対照的に小さな作品、染めた紙にナンバリングスタンプを押した《瞬き》は展示台に提示されていた。
植松は紙をちぎって形を作る。ハサミ、カッターあるいは自身の指を使って紙をちぎる。自身の呼吸と反復動作をシンクロさせていく行為であり、そうして時間を投入していくうちに形が浮かび上がってくる。紙を染めること、紙をちぎること、どちらも作品に刻み込まれた時間を想起させる。
舟越桂氏のインタビューにおいて、ノミを均一に入れるのか、のこぎりの後が残っていてもいいのか、という質問に対する答えの中で発した言葉、植松はメディウムとして紙を選択しており、それは柔軟に形を変えることができるが、その柔軟性により違った緊張感をもたらす。
紙のインクの吸い上げによる色の分離や、裁断によって現れた紙の断面からそこに何かを見出すこととなる。ただ、植松が見せているのは、結果としての作品のみならず、そこに投入された時間である。
植松が作品に紙を用いるのは、メディウムとして手に入れやすいということと製品として市場に流通していることが重要と考えるからである。
以前は鉄を用いて制作を行っていたが、紙へとメディウムを変化させた。鉄をやめたわけではないものの、現在は紙へ関心がある。
植松が反復する作業を行い作品を制作しているのは世界を実感するためである。反復による没我的な行為は、既製品である紙を我が物としていく行為であり、作品にすることで世界と繋がろうとしているのだろう。既製品に呆れるほどの時間を投入する。彫刻は時間ベースの芸術であるが、誰かの時間を省力化するための既製品を用いることはパラドックスにも思える。早回しの現代へのカウンターとしても取れるし、そうしたことを超越した姿勢とも取れる。
植松は個展「月に浮かぶ、」で時間と呼吸を想起させる新作シリーズを披露する。展覧会タイトルの月は、月明かり、あるいは一月(ひとつき)であろう、太古では時間を計るために呼吸を用いたという説もある。古事記では息吹が度々登場した。植松の見せる世界を是非ともご高覧頂きたい。
aaploit主催
斉藤勉
月に浮かぶ、
会期:2024年3月1日(金)から2024年3月31日(日)
オープン時間:金:15:00-19:00, 土:13:00-19:00, 日:13:00-17:00
会場:Contemporary Art aaploit
東京都文京区水道2-19-2
Web:https://aaploit.com/mizuki_uematsu_floats_on_the_moon_
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